スマートメーターデータ活用におけるプライバシー保護/武田薬品工業による流通過程情報可視化・TSUTAYA会員データ活用した自動発注
LayerX PrivacyTech Newsletter (2022/05/25-05/31) #156
今週の注目トピック
Takahiro Hatajima(@th_sat)より
インペリアル・カレッジ・ロンドンが発表した、スマートメーターデータ活用におけるプライバシー保護について紹介します。
あわせて、データ利活用最前線として、武田薬品工業による流通過程情報可視化や、TSUTAYAの会員データ活用した自動発注などを紹介します。
Section1: PickUp
●インペリアル・カレッジ・ロンドン、スマートメーターデータ活用におけるプライバシー保護についてレポートを発表
英国インペリアル・カレッジ・ロンドンのEnergy Futures Labが、「プライバシー保護の改善により、スマートメーターによるエネルギー料金の引き下げが可能になる」とするレポートを発表している(出所)。
スマートメーターの可能性を最大限に引き出すには、個人情報を保護しつつ、エネルギー企業やその他の関係者がスマートメーターから収集した詳細な情報にアクセスできるよう、プライバシー保護技術を組み合わせて導入すべきであると述べている。
高解像度のスマートメーターデータへのアクセスを拡大することは、プライバシー侵害の可能性を広げることになると指摘した上で、その利点を完全に実現する前に、プライバシー保護のための新しい対策が必要であると警告している。
この背景には、さまざまな家電製品の電力消費量を検出・推定することで、家庭の特徴や人口動態を特定できてしまうことがある。さらに、この情報は、理論的には他のソースからのデータとリンクして、特定の消費者の詳細なプロファイルを構築することができてしまう。そのため、スマートメーターのデータは、位置情報、財務、健康データと同様に機密性が高いと考えるべきだと主張している。
レポートでは、データの保存、処理、利用方法を変えることで消費者を保護しない限り、スマートメーターの利益を享受することはできない、とした上で、プライバシー侵害のリスクを最小化するために採りうる一連の対策として、データの難読化、暗号化、差分プライバシー、エッジベースのデータ処理などを挙げている。
特に、差分プライバシーは、集中型でも分散型でも実装できることから、これを実現するための有力な候補となるという。
今年4月の電気事業法改正によって、個人の同意が得られた一部の電力データを第三者に提供できるようになっている。これをうけて、電力を使った取り組みが相次ぐようになった。
たとえば、中部電力は、長野県松本市・ネコリコ・JDSCとの協働で、電力使用実績データを活用したフレイル検知の実証実施に向けた協定を締結している。これは、フレイル(健康な状態と要介護状態の中間に位置する身体的機能や認知機能の低下が見られる状態)と推定される高齢者を早期かつ網羅的に把握することによって、市職員が予防改善のための適切な働きかけを行うことを目指すものだ。電力メーター(スマートメーター)から取得する30分ごとの電気使用量のデータをAI分析することによって、フレイルの兆候を早期かつ網羅的に把握できるという。(出所)
また、グリッドデータバンク・ラボは、東京商工リサーチとの協働で、企業の電力使用量データを使用した共同実証実験を実施した。これは、企業の生産活動の実態把握・予測を目的にスマートメーター統計データを活用するものだ。実験では、企業の業界単位で統計加工されたスマートメーター統計データを活用することによって、業界別の電力稼働量を高い精度で把握することを目指したという。(出所)
一方で、オランダでは、「スマートメーターは消費者の電気消費パターンの細かい情報を蓄積する可能性がありデータプライバシーを侵害する可能性がある」との理由で反対をする声があがったため、2009年にスマートメーター導入を一時的に止めたということがある。(出所)
我が国においても、これからスマートメーターの電力データ利活用に向けた取り組みが活発化することが想定されることから、プライバシー保護と両立する形で、ユースケースが拡大していくことを期待したい。(文責・畑島)
●データ利活用最前線
データプラットフォームを活用した医薬品の流通過程における情報可視化の取り組み開始について
武田薬品工業株式会社と三菱倉庫株式会社は、三菱倉庫が開発したブロックチェーンを用いたデータプラットフォームを活用し、5月より一部製品の輸送・流通において、工場出荷から医薬品卸倉庫への納品までの、製品の温度・位置情報を可視化する取組みを開始した。
unerryのリアル行動データプラットフォーム「Beacon Bank」、 電通「STADIA」のテレビ実視聴データと連携
株式会社unerryが運営するリアル行動データプラットフォーム「Beacon Bank」は、株式会社電通が提供する統合マーケティングプラットフォーム「STADIA」のテレビ実視聴データと連携した。
「STADIA」のテレビ視聴データと「Beacon Bank」の人流データなど、オフラインデータを強みとする2つのプラットフォームが連携し、「視聴」「来店」「購買」のデータが統合されることで、テレビ視聴者へのフルファネルでの効果検証が可能なデジタル広告の配信が実現する。
また、unerryが蓄積する月間300億件超のリアル行動データをAI解析することで番組視聴者の特徴を明らかにし、ブランディングから販売促進に繋がるメディアプランニングをサポートする。
【DXイベント】2022年における個人データ活用の法規制と動向~BrainPad DX Conference 2022~実践セミナー|DX・データ活用情報発信メディア-DOORS
3月23日に開催された「DOORS-BrainPad DX Conference2022」の内容が公開された。
冒頭で、「個人データを取り巻く規制」について理解を深めた上で、デジタルマーケティングにおけるデータ規制、さらには「AIの学習に使ってしまったデータを忘れさせたい、オプトアウトしたい」という声があがった場合、どのように対処したらいいのか、といった点にまで踏み込み、プライバシー保護とデータ利活用の両立に向けた議論が対談が行われた。
「TSUTAYA」返本減へ自動発注 7000万会員データ活用
「TSUTAYA」を展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブが、返本が課題だった書籍流通の仕組みを変える。
約7000万人のTポイント会員の購買データなどから人工知能(AI)が新刊本の売れ行きを書店ごとに予測し、適正な部数を自動発注する。
一般的に3割程度とされる書籍の返品率を約1割に減らす。
6月中旬から系列の約800店舗に順次導入し、厳しい環境が続く書店ビジネスを効率化する。
マイクロアド、マーケティングデータプラットフォーム「UNIVERSE」においてmitoriz社が保有する、1,000企業以上の流通店舗のレシートデータと連携
株式会社マイクロアドが提供をする、マーケティングデータプラットフォーム「UNIVERSE」は、株式会社mitorizと提携し、mitorizが保有する、国内の1,000企業にのぼる流通店舗のレシートデータと連携する。
この連携により、オフラインデータを活用した、購買予測分析サービスの提供を開始。また、マイクロアドが従来より提供している、飲料・食品向けマーケティングプラットフォーム「Pantry」の機能強化も推進する。
データテクノロジースタートアップのマインディアが約5億円の資金調達を発表
データテクノロジースタートアップの株式会社マインディアはKUSABIをリード投資家とし、他複数のVC及び大手事業会社を引受先とした第三者割当増資で約5億円の資金調達を実施した。
マインディアは2018年の創業以来「個人の中に埋もれている価値をテクノロジーで再発掘してデータを有効活用し、世界中のビジネスを加速させる」をミッションに、一般個人をユーザー化し、そのデータを解析・分析して企業に提供するプラットフォーム「Mineds」を提供してきた。
創業時から提供していた一般消費者の生の意見やサービス利用実態の動画データをクラウド上で生成・AI解析するサービス(Mineds for Insight Data)に加え、EC上での購買行動を解析するデータサービス(Mineds for EC Data)もローンチし、解析済みのデータ規模はサービス開始時期から約2500倍と急速に拡大している。
また、需要に関しても資生堂ジャパン、江崎グリコ、トヨタコネクティッド、ライオン、メルカリ、Meta Platformsといった日本を代表する企業やグローバル企業に利用されるまで事業が成長しており、昨今のリモート環境の普及やEC化への急速なシフトとともに市場も大きく伸張する見込み。
2022年5月には個人ユーザー向けの新アプリ「Pint」をリリースし、「購買や行動情報のデータを個人のユーザーが提供することで、これまで得られなかったようなメリットを個人が享受できる仕組み」をテクノロジードリブンで構築。得られたデータをMinedsで顧客企業に提供するとともに、将来的にはデータに基づいたアプリ上での企業のプロモーション施策にも対応する。
ZenmuTechは「秘密分散」と呼ぶセキュリティー技術を実装したサービスを、これまでに国内約100社が採用したと明らかにした。企業などがデータを断片化して保存することで安全に管理できる。
秘密分散は複数のサーバーにデータを無意味な状態に分散し、安全性を担保する技術。ゼンムテックの田口善一社長は「もしデータが盗まれても(内容を読み出せないため)無意味化できる全く新しい技術だ」と説明する。
この技術を実装したデスクトップ仮想化製品「ZENMU Virtual Desktop」の採用が増えており、全日本空輸(ANA)など約100社が導入済みだ。個々のパソコン端末ではなく、サーバー上にデスクトップ環境を用意して安全に利用できるようにした。
匿名データから個人の特定に成功、精度は50%以上 英ICLやTwitter社らが匿名化の欠陥を指摘
英Imperial College London(ICL)とUniversity of Oxford、スイスのUniversita della Svizzera italiana、Twitter UK、イタリアのUniversity of Naples Federico IIによる研究チームが発表した「Interaction data are identifiable even across long periods of time」は、スマートフォンなどから匿名で収集する個人間の交流データなどから50%以上の確率で個人を特定できることを実証し、匿名化の欠陥を指摘した論文。
現在、多数の企業(携帯電話キャリアやSNSやチャットアプリの運営業者など)がスマートフォンから膨大な量の個人の匿名データを収集している。
これら匿名データは、製品の開発、ターゲットを絞った広告の作成、政治動員に及ぼす影響、サービスの調査、データの販売などに使われる。
GDPRやCCPAなど、現行の多くの法域では、企業はこれらデータを匿名化(または非識別化) している限り、本人の同意なしに第三者に共有または販売が行えるのが現状だ。
しかし、この論文では仮名を使ったとしても、膨大な匿名データから個人をそれなりに特定できることを2つの実験を根拠に指摘している。
LayerX Labsでは、次世代プライバシー保護・セキュリティ技術Anonifyの正式提供に向けトライアルパートナーの募集を開始、合わせて公式ウェブサイトを公開しました。
「Anonify」の公式ウェブサイトはこちら
Section2: ListUp
1. プライバシー・セキュリティとデータ利活用
●米国で17の州が国勢調査局に異議を申し立て、差分プライバシーの使用を停止するよう仮処分を要求
●総務省|郵便局データの活用とプライバシー保護の在り方に関する検討会(第3回)
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/postaldata_privacy/02ryutsu14_04000152.html
●個人情報保護委員会 |「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン」に関するQ&Aの更新
https://www.ppc.go.jp/files/pdf/2205_APPI_QA_tsuikakoushin.pdf
●全国の医療機関で診療情報(レセプト・電子カルテ)を共有する仕組み、社保審・医療保険部会でも細部了承
https://gemmed.ghc-j.com/?p=47974
●Meta、わかりやすく内容を伝えるようにプライバシーポリシー刷新
https://www.excite.co.jp/news/article/Cobs_2421337/
●パンデミック時に学童を不当に追跡していたエドテック:Human Rights Watch
●教育DXの焦点【5】 「教育データ利活用ロードマップ」はなぜ炎上したのか
https://project.nikkeibp.co.jp/pc/atcl/19/06/21/00003/052700362/
●教育データ利活用、学校向け留意事項を整理へ 有識者会議
https://www.kyobun.co.jp/news/20220531_04/
2. 今週のLayerX
●LayerXブログ連載企画 #LXベッテク月間 として、LayerX CTO 松本が、LayerXの行動指針に関する解説を兼ねて、Bet TechnologyとTrustful Teamについて記事をかいています。
TrustfulなチームであるためのBet Technology
https://tech.layerx.co.jp/entry/2022/06/02/080000
●切り捨てる勇気を持たなければ、得たいものは手に入らない
投資家思考で考える、エンジニアのキャリアパス
10〜1000 名開発組織に向き合ったCTO 経験から語るキャリア論 #4/4
LayerX・代表取締役 CTOの松本が、自身のCTO経験から、キャリア論を語っています。
https://logmi.jp/tech/articles/326652
●「スケールする組織か、個がワークする組織か」正反対の意見を持つエンジニア2人が示した方向性 - LayerX エンジニアブログ
https://tech.layerx.co.jp/entry/2022/06/01/080007
●事業計画の達成はなぜ大切なのか|福島良典 | LayerX
https://comemo.nikkei.com/n/ne4a2e81f3982?gs=94915a81abbd
●「SaaS×Fintech」トップランナーの景色とは? LayerX 福島 良典 氏|企業データが使えるノート | 運営 早船 明夫|note
https://note.com/_funeo/n/n892c30572631
●小さな変化に気づく──副業メンバーを正社員に迎えるために、人事が知っておくべきこと | DIAMOND SIGNAL
https://signal.diamond.jp/articles/-/1223
●LayerX(「眠れる銭」を、Activateする。MDM)に入社しました。|Shun Masuda|note
https://note.com/mas358/n/ne3c653f98a5f
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