デジタル庁・関係省庁による教育データの利活用に向けたロードマップ策定/NECによる秘密計算のソフトウェアのクラウド型提供開始
LayerX Labs Newsletter (2022/01/05-01/11) Issue #137
今週の注目トピック
Takahiro Hatajima(@th_sat)より
デジタル庁が発表した、教育データ利活用ロードマップ策定への取り組みについてご紹介します。
あわせて、データ利活用最前線として、NECによる秘密計算のソフトウェアのクラウド型提供開始などをご紹介します。
Section1: PickUp
●デジタル庁、教育データ利活用ロードマップ策定に着手と発表
デジタル庁より、関係省庁とともに教育データの利活用に向けたロードマップの策定に着手したとする発表がなされた。
教育のデジタル化のミッションを「誰もが、いつでもどこからでも、誰とでも、自分らしく学べる社会」と掲げ、そのためのデータの①スコープ(範囲)、②品質、③組み合わせ、の充実・拡大という「3つの軸」を設定し、これらを実現するために、教育データの流通・蓄積の全体設計(アーキテクチャ(イメージ))を提示したものだ。その上で、「ルール」「利活用環境」「連携基盤(ツール)」「データ標準」「インフラ」といったそれぞれの構造に関連する論点や、必要な措置について整理している。
短期・中期・長期での目指す姿としては、短期(~2022年頃)では教育データの基本項目(例:法令や調査で全国で共通的に取得されている主体情報)が標準化され、中期(~2025年頃)で学習者が端末を日常的に使うようになり、教育データ利活用のためのログ収集が可能となり、長期(~2030年頃)で学習者がPDSを活用して生涯にわたり自らのデータを蓄積・活用できるようにといった流れが想定されている。
図の出典(以下同じ):https://cio.go.jp/sites/default/files/uploads/documents/digital/20220107_news_education_01.pdf
教育データ利活用の目指すべき姿として、塾や社会教育施設の学習履歴について、「匿名加工の形で卒業後もデータをサービスの改善に活用」とするなど、履歴データとして生涯にわたり蓄積・活用することが意図されている。この点は、教育データの蓄積と流通の将来イメージとして、アーキテクチャ中にも、「学習履歴(自学)」「学習履歴(民間事業者・社会教育施設)」「履修履歴(単位・テスト履歴)」といった各種履歴データが蓄積・流通する様として描かれている。
また、このアーキテクチャ上も、「学習者識別子(ID)」とあるように、IDに紐づける形で、上記の履歴情報が蓄積・流通することが想定される。
工程表によれば、学習者の識別子(ID)は、生涯にわたる学びの環境整備の主要施策として、PDS・情報銀行 ならびに 教員の識別子(ID)とあわせて検討が進められる予定だ。
教育データは、「データ連携による支援が必要なこどもへの支援」の一環として捉えられており、「こども」に関するアーキテクチャにおいては、「生活・学習履歴(自宅)」「出欠・学習状況等(民間)」のほか、「健診結果」「受診歴、健康診断履歴、処方箋等」といった医療に関わるデータもスコープに入っていることがわかる。
文科省からは、昨年12月に「教育データの利活用に関する有識者会議(第6回)」において「教育データの利活用に係る論点整理(中間まとめ)」が発表されている。その中では、教育データを利活用する目的として、「これらのデータをもとに、一人一人の児童生徒の状況を多面的に確認し、学習指導・生徒指導・学級経営・学校運営など教育活動の各場面において、一人一人の力を最大限引き出すためのきめ細かい支援を可能とすること」とされている。
また、「個人のデータの流通・利用は、本人の理解や納得の上で行われる必要があり、本人の望まない形で行われることによって、個人が不利益を受けることのないようにする必要がある。」と、「安全・安心を確保」することにも言及されており、利活用の目的に照らし、利活用の方向性・手段などが、個人にとって安全・安心を担保できる必要がある。
デジタル庁の今回の発表において、「国が個人の教育データを一元的に管理することは考えておりません」としている中にあって、上記にあげたようなデータの利活用における、「安全・安心を確保」との両立にむけて、どのようなアカウンタビリティが発揮されていくか、今後の進捗を注視したい。(文責・畑島)
●データ利活用最前線:最近のデータ利活用に関係するニュースの紹介
NEC、データを暗号化したまま計算する秘密計算のソフトウェアをクラウド型で提供開始
NECは、データを暗号化したまま計算できる“秘密計算”のソフトウェアをクラウド型で提供開始。
秘密分散方式と、ハードウェアベースのTEEの2つを提供。秘密分散方式ではPythonライクで開発可能な独自の開発ツールによって、秘密計算アプリケーションを容易に開発できるとし、ハードウェア方式では秘密計算アプリケーションをPythonで容易に記述可能で、データ分析時にはユーザーが運用しているAIモデルを、修正することなくそのまま組み込めるという。
自治体向け観光動態モニタリングサービス 「おでかけウォッチャー」が200アカウントを突破
公益財団法人九州経済調査協会が地方自治体の観光統計デジタル化を進めるクラウドの観光動態モニタリングサービス「おでかけウォッチャー」の利用申し込みが200アカウントを超えた。
「おでかけウォッチャー」は国内最大規模の位置情報ビッグデータを保有する株式会社ブログウォッチャーがデータを提供している。
より詳細な分析を希望する声にもお答えできる「来訪地分析・発地分析・属性分析・周遊分析」の4メニューを利用できるプレミアムサービスについて2月3日からテスト提供を開始。
プレミアムサービスでは分析対象観光スポットを最大2,000箇所まで指定可能で年額90万円(税抜)で提供が予定されている。
出典:https://www.atpress.ne.jp/news/293283
「現場の社員が自分で分析できるようになる」 ソートスポットで実現する“専門家いらず”のデータ分析とは
データサイエンティストに頼ることなく現場の担当者がデータからインサイトを得ることを可能にする。
GoogleやYahoo!を利用するような感覚で、誰でも簡単にデータの検索ができる「SearchIQ(検索)」が特徴のThoughSpotが注目を集めている。
2012年にシリコンバレーで設立された同社は累計で$663.7M(約750億円)を調達しており、Snowflake Venturesから出資を受けている。(出典)
2019年には$100Mの収益を上げており、さらに2020年9月の時点で、第1四半期に前年同期比88%増を達成したことを明らかにしている。(出典)
ウォルマートや京セラなど国内外の大企業に導入されている。
ThoughtSpot自体はデータベースを持たず、「Snowflake」や「Amazon Redshift」などのクラウドデータウェアハウスに直接クエリを実行し、ThoughtSpot上で結果のみを表示するという仕組みとなっている。
そのため、Snowflakeなどのクラウドデータウェアハウスを運用している場合は、ThoughtSpot用にデータ連携を作成したり、データのモデリングをしたりする必要はない。
Data That Matters For Business: Turning Sand Into Pearls
社内外のサイロを越えてデータをより多く共有できるようになれば、データの価値は大きく高まる。つまり、統計データの分析、複数のビジネスや業界にわたるトレンドの追跡、自社の内部データのギャップを埋めることなどが可能となる。
「Data Sharing Masters」レポートによると、データ共有エコシステムがもたらす潜在的な利益は、今後5年間で組織の年間収益合計の9%に達するという(年間収益1000億円の一般的な組織では9億4千万円以上に相当)。
一例として、海運業界ではリスクモデリングを改善するため、HiLoという共同イニシアチブが推進されている。会員船社のニアミス、インシデント、事故に関するデータをプールすることで、900隻の船隊で救命艇事故を72%、1,800隻の船隊で機関室火災を65%、バンカー流出を25%削減。
さらにオーストリアに拠点を置く大規模な包装業者であるグライナー・パッケージング・インターナショナルは、スペインに拠点を置くロジスティクスインサイト企業OBUUと協力することで、5つの製造工場のデータをKPIに照らして分析し、サプライチェーンの最適化に成功。将来の業務効率化に活用できる大幅なコスト削減を実現した。
自動車から収集したデータは、消費財メーカーや広告代理店に販売することができる。広告代理店は、交通流データを使用して、都市内のどの場所が最も多くの視聴者を広告に誘導できるかを確認することができる。
これらの企業は、より効果的なマーケティングキャンペーンを行うことができ、自動車会社は新たな収入源を得ることができる。
一方でデータ共有エコシステムの推進にはデータのプライバシーの課題なども存在する。
ウェザーニューズ、気象データ提供・分析サービス「WxTech」で太陽光発電量予測データのAPI提供を開始
株式会社ウェザーニューズは、気象データ提供サービス「WxTech(R)」において、電気事業者向けに1kmメッシュの高解像度な日射量予測を用いた太陽光発電量予測データのAPI提供を開始した。
発電所の緯度経度のほか、ソーラーパネルの出力や設置角度など、発電所の情報をもとにピンポイントな太陽光発電量予測データを算出する"物理モデル"と、過去の発電量実績データと気象データをAIで学習させることでさらに高精度に予測する"統計モデル"から選択可能。
岐阜県関市は、交通事故削減に向け、市内を走る車の走行データから急ブレーキなどが多発している危険な地点を分析する取り組みを開始。
関市が大手損害保険会社と協力して行い、1月から市内の事業者や市民などが運転する200台の車に専用の機器を設置して走行データを取得、急ブレーキや急ハンドル、それに速度超過といった危険な運転があった場所を記録する。参加者は本取り組みに参加することで、アプリにより自身の運転の安全運転診断が可能になる。
JR西日本は2017年ごろから車両の運行情報や混雑率といったデータをAIで分析し、車両の整備や運行の改善に活用しており、20年3月からは得られたデータをマーケティングに生かす試みにも取り組んできた。
21年7月には、日本コカ・コーラと組んで、ユーザーを駅外に誘導する試みを実施。京都駅周辺を対象に、駅外の神社仏閣のそばに配置された自動販売機での飲料購入を、スタンプラリーに組み込んだ。
ユーザーがアプリ上で、スタンプラリーキャンペーンへの参加を承諾し、電子マネー「ICOCA」のIDをアプリに登録すると、アプリやICOCAの過去の利用履歴などをAIが自動的に分析して、京都の神社仏閣や博物館など著名な観光地や最寄りのコカ・コーラ自販機の位置、京都駅隣接のJR西日本グループの商業施設の店舗などをレコメンドする。
「BizXaaS MaP」はNTTデータが提供する、地図データをはじめとする豊富な位置情報コンテンツを活用できる地図配信サービスで、APIによるシステム連携が可能となっており、エリアマーケティング、人流可視化分析など、さまざまな業界・業種での利用が進む。
過去の人流データや個別施設の実績データをAIに学習させることで、高精度な人流予測モデルを構築し、将来予測に活用することも可能となっている。
小売ビジネスの出店場所選びの際、従来は500m単位のメッシュと、人手でカウントした通行量をもとに出店の可否を判断していたが、GISに人流データを掛け合わせることで、候補物件の前にどれだけの人が通っているかを詳細に把握することができる。
さらに商品の仕入れ量についても、過去の実績に基づいた判断ではイレギュラーな事態に対応できず、機会損失や廃棄につながってしまうケースも多い。データを活用して周辺の人流に応じた商品発注を行えば、こうした課題を解決できるだけでなく、フードロスなどの社会課題解決にも貢献できる。
LayerX Labsでは、次世代プライバシー保護・セキュリティ技術Anonifyの正式提供に向けトライアルパートナーの募集を開始、合わせて公式ウェブサイトを公開しました。
「Anonify」の公式ウェブサイトはこちら
Section2: ListUp
1. プライバシー・セキュリティ
●インターネット版官報|個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(行政機関等編)
https://kanpou.npb.go.jp/20220107/20220107g00005/20220107g000050041f.html
●個人情報保護委員会|個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(行政機関等編)
https://www.ppc.go.jp/files/pdf/koutekibumon_guidelines.pdf
●サイバー防衛力の格付け広がる 「落第企業」取引停止も
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODZ317TQ0R30C21A3000000/
●管理状況、詳細に 個人情報保護法
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO79032530X00C22A1TCJ000/
●情報流出へ備えは? 規制強化控え損保大手はサイバー保険の販売強化
https://www.asahi.com/articles/ASQ175J9DQ15ULFA02H.html
●ネットの利用情報、総務省の法改正にIT企業が「懸念」表明…突然「延期」の舞台裏
https://www.yomiuri.co.jp/science/20220107-OYT1T50065/
●IT-Report 2021 Winter 【特集】プライバシ保護規制とデータの利活用 - 一般財団法人日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)
https://www.jipdec.or.jp/sp/library/itreport/2021itreport_winter.html
●成長期待の「プライバシー保護コンピューティング」市場、投資集中もまだまだ課題
https://www.excite.co.jp/news/article/36kr_166907/
●パナ不正アクセス、被害サーバに採用応募者の個人情報や取引先の情報などを保存していたと判明(要約) - ITmedia NEWS
https://www.itmedia.co.jp/news/spv/2201/07/news154_0.html
●Techcrunchの2022年の予測。「9)データ保護の規制強化と企業対応 -消費者情報保護の法律が強化」
https://techcrunch.com/2022/01/03/aws-will-buy-a-saas-company-and-other-2022-enterprise-predictions/
●情報漏えい時の義務や罰則強化 システム部門と事業者が留意すべき改正個人情報保護法のポイント 第5回:情報漏えい時の義務や事業者の罰則強化など
https://enterprisezine.jp/article/detail/15329
●CCCマーケティング、「テレビ視聴データ分析ツール」のフリートライアル提供を開始
https://www.jiji.com/jc/article?k=000000725.000000983&g=prt
●独警察、接触者確認アプリのデータを捜査利用 批判の的に
https://www.afpbb.com/articles/-/3384756
●韓国の捜査機関NNN記者の個人情報も照会
https://www.news24.jp/articles/2022/01/11/101011950.html
●NTTデータ経営研究所が「パーソナルデータの活用に関する一般消費者の意識調査」を実施
https://www.nttdata-strategy.com/newsrelease/220113.html
●世代間で異なるパーソナライズ広告への意識 データで読み解く、Cookie規制とプライバシー意識の現状
https://markezine.jp/article/detail/38048
●総務省、サーバー規制案を修正。設置国公表など見送り
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO79205000T10C22A1EP0000/
2. 今週のLayerX
●LayerXの日常を伝えるPodcast『LayerX NOW!』。
今回は特別編として、2021年末にSmartHR CEOの退任を発表された宮田さんをゲストにお迎えし、CEO福島と対談しました。
●LayerXの日常を伝えるPodcast『LayerX NOW!』。今回は特別編として、2021年末にSmartHR CEOの退任を発表された宮田さんをゲストにお迎えし、CEO福島と対談しました。昨日の後編がアップされました!
●LayerXが提供する、請求書受取業務の効率化を通じて経理DXを推進するサービス「バクラク請求書」(旧「LayerX インボイス」)は、提供開始から1周年を迎えました。
これを記念して、「バクラク請求書」の1年の歩みをまとめたインフォグラフィックを公開しました!
https://layerx.co.jp/news/pr220113
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