LINE「差分プライバシー」導入/テレビ視聴データ連携に関する共同技術検証、NEC・三菱重工業による秘密計算を活用したログ分析システムの研究開発
LayerX PrivacyTech Newsletter (2022/09/21-09/27) #171
今週の注目トピック
Takahiro Hatajima(@th_sat)より
LINEが発表した、スタンプ選択時のサジェスト機能のアップデートにおける「差分プライバシー」導入について紹介します。
併せて、テレビ視聴データ連携に関する共同技術検証実験の開始、NEC・三菱重工業による秘密計算技術を活用したログ分析システムの研究開発について紹介します。
お知らせ
9/13(火)に開催した「LayerX PrivacyTech事業説明会」アーカイブ動画とスライドを公開しました!
「データ分析とプライバシー」について、手触り感をもっていただけると嬉しいです。
普段からデータに関わる方に、ぜひ知っていただくべく、メンバーからお話していますので、ぜひご覧ください
https://speakerdeck.com/layerx/privacytechshi-ye-shuo-ming-hui-detafen-xi-xpuraibasi-toha
Section1: PickUp
●LINE、LINEスタンプ選択時のサジェスト機能のアップデートにおいて「差分プライバシー」を導入
LINEスタンプ選択時のサジェスト機能のアップデートにおいて、ユーザーのプライバシーを保護しつつ利便性を向上させるため、「差分プライバシー」が導入された。本稿では、その概要を紹介したい。
LINEスタンプ プレミアムに加入しているユーザーに向けて、より高い精度でユーザーの好みにあったスタンプが提案される機能をリリースした。今回のアップデートは、スタンプ選択時のサジェスト機能を改善するものだ。ユーザーのプライバシーを保護しつつ利便性を向上させるため、連合学習 および 差分プライバシーを導入した。
これまでのスタンプサジェスト機能では、1,000万種類以上の対象スタンプがあるにもかかわらず、ユーザーごとに好みのスタンプをサジェストすることができていなかった。この課題を解決するためには、ユーザーのスタンプ利用履歴からスタンプの利用傾向を学習し、各個人にあったスタンプを推薦する仕組みが必要になる。
今回LINEスタンプ プレミアムユーザー向けのサジェスト機能に導入した技術は、プライバシーの観点でとくに取り扱いを注意する必要のある「トークルーム等でのスタンプ閲覧・送信履歴のデータ」を、可能な限りユーザー端末にて処理することで、同社サーバーが受け取る情報を制限し、プライバシーの保護につなげるものだ。
スタンプサジェスト機能の処理の流れは、下図のようになっている。
ここで、より高い精度でユーザーの好みにあったスタンプを提案する機能において、「トークルーム等でのスタンプ閲覧・送信履歴のデータ」を用いて学習処理を行い、アプリ上の「学習モデル」を更新する必要がある。学習モデルの更新処理結果から実際に入力したスタンプをLINEのサーバーを含む他者から推定されることを困難にするため、差分プライバシーを用いて処理結果(学習モデルの更新情報)に対してノイズを加える。
そして、ユーザーの識別子を削除した上でサーバーに送信する。サーバーは、ランダムに選択された複数のユーザーから得た処理結果(ノイズ付きの学習モデルの更新情報)を統合し、学習モデルを更新する。このようなサーバーとユーザー端末とで連携して学習処理する方法を、連合学習と呼ぶ。
以上のような処理により、同社は、「トークルーム等でのスタンプ閲覧・送信履歴のデータ」を受け取らなくとも学習モデルを更新でき、ユーザーが入力した文字に対して自分にあったスタンプをより上位に推薦表示できるため、ユーザーにとって選びやすくなる、というものだ。
「差分プライバシー」に関する取り組みは、自動車業界においても進んでいる。ドライバーの習慣や行動、さまざまな状況に対する反応の可能性について洞察を得ることができれば、交通の危険から人々を守る上で計り知れない影響を与えることができる。もちろん、そのような情報は、個人を特定できるような情報であってはならない。
Ericssonは、自動車業界のイノベーションとコラボレーションを推進するため、Volvo Groupなど6社と提携し、MobilityXlabを構築している。このMobilityXlabは、未来のモビリティの中で新しいイノベーションを創造し、開発するために2017年に設立されたコラボレーションハブで、パートナー間で、そしてスタートアップ企業と共に活動している。その一例が、「差分プライバシー」に関する深い専門知識を提供する新興企業、DPella(2020年創業のスウェーデン企業)との協業だ。EricssonはDPellaと協力して、研究対象の生データの貢献者個人のプライバシーを保護しながら、データのパターンと洞察をよりよく研究するためのソフトウェアツールとモデルを探求しているとしている。
また、「差分プライバシー」は、このほど日本銀行決済機構局が発表した決済システムレポート別冊「プライバシー保護技術とデジタル社会の決済・金融サービス」においても、利用者のプライバシー保護に資する技術発展の例として紹介されている。
今後、さらなる国内企業における差分プライバシーの適用が進むことに期待したい。(文責・畑島)
●データ利活用最前線
神奈川県小田原市は10月から、市内の観光スポット21カ所で電波受発信器(ビーコン)を使って人流解析を開始し、データ分析を生かした観光振興策の検討や市内事業者のマーケティングへの活用を見込む。
デジタル支援を手掛けるアドインテが開発したビーコンを使用し、来訪者のスマートフォンのWi-Fiや近距離無線通信のBluetooth(ブルートゥース)を通じて年代や性別、居住地、回遊パターン、滞在時間などの情報を収集する。個人情報ではなく、匿名の情報として蓄積するという。
【東京都環境局 × SWAT Mobility】CO2排出量の可視化を通じた自動車利用から公共バス利用への行動変容促進事業を開始
SWAT Mobility Japan株式会社は、「自動車利用の抑制」をテーマとした東京都主催のピッチイベント「UPGRADE with TOKYO」で優勝し、自動車利用時と公共バス利用時のCO2排出量の可視化を通じた自動車利用から公共バス利用への行動変容を促進する東京都との協働事業を開始した。
ピッチイベント「UPGRADE with TOKYO」では自家用車利用時と公共バス利用時のCO2排出量の可視化を行うことにより環境面から公共バスの利用促進並びに乗降データ分析と人流データ分析を通じた公共バスの運行改善を提案し、東京都との協働事業を開始することとなった。
コロナ禍で外出自粛が長引く中、運動不足によって体の機能が衰え、要介護の一歩手前の状態「フレイル(加齢などによって心身の機能が衰えてきた状態)」になる高齢者が増加している。
自治体の間では、フレイル予防への本格的な取り組みを模索する動きが広がっており、この分野に先駆的に取り組んでいる自治体の1つが京都市だ。
京都市は2019年、ICTとデータを活用してフレイル対策を進める事業に着手。NECと連携して仕組みの構築と検証を続ける中で取り組みを本格化させ、今年度から新たなステージで取り組みを進めている。
京都市では当初推進にあたり、様々な課題が浮き彫りとなった。事業規模が大きいため、事業全体の実施回数や延べ人数の把握はできても、体力測定値の変化などを通して、効果を的確に把握することは容易ではなく、介護予防教室での取り組みの成果に関する客観的な把握が進まず、推進センター間の比較や、参加者の状態に関する情報共有も難しかった。
フレイル対策の成果を客観的に把握し、実効性のある施策につなげていくためには、データを活用し、状況を「見える化」することが不可欠と考え、データを活用しながら医療専門職と連携してフレイル対策を支援する取り組み「フレイル対策モデル事業」をNECをパートナーとし、開始した。
京都市とNECは、官民連携で、専門職による支援を通じたフレイル対策の効果について、特定の「通いの場」をモデルケースとしてプレ検証を行ったところ、データ活用により「歩行年齢が若返る」など、支援の成果を客観的に確認することができたという。
温泉地が生き残りをかけて、「虎の子」ともいえる宿泊データを地域内で共有し始めた。城崎温泉(兵庫県豊岡市)は各旅館の予約データを自動で収集・分析するシステムを構築。
旅館は他社や地域全体のデータを参考にしながら、需要予測や宿泊プラン作りなどに生かす。
温泉地では宿泊施設の廃業が続く。各社がデータに基づく緻密な経営にシフトすることで、地域の地盤沈下を防ぐ。
テレビの放送内容をテキスト化した「TVメタデータ」を提供する株式会社エム・データと、データサイエンスで企業と社会の課題を解決する株式会社DATAFLUCTは、データ連携による需要予測やトレンド予測についての協業を発表した。
DATAFLUCTが提供する需要予測ソリューションサービス「Perswell」に対して、顧客企業が持つ自社データ(取り扱い商品の販売数、価格、在庫数など)やオープンソースデータ(気象や人流、イベントカレンダーなど)に加え、エム・データが保有するTVメタデータ(テレビ番組内での企業、サービス、ブランド、商品に関するパブリシティや、自社、競合企業のTV-CM出稿状況など)を活用することで、これまで定常的な把握や計画的な販売戦略の判断材料として活用が難しかったテレビ放送に関する情報を反映することが可能となり、より高度で幅の広い費用対効果分析や需要予測モデルの構築が可能となる。
さらに、消費者が商品に対しての興味・関心度合いを測る指標としてSNSや検索データなどを連携させることで、需要予測からより高度なトレンド予測へと発展させるモデルの構築を目指す。
米国の民泊仲介大手「Airbnb」の日本法人と大阪観光局は29日、観光振興に関する連携協定を結んだ。
大阪府内の民泊の利用率や宿泊料金のデータを大阪観光局と共有し、同局はデータを生かして観光客の動向を分析し、広報活動に役立てていくという。
大阪観光局がコロナ前に関西空港で実施した調査では、訪日客の約2割が府内での宿泊に民泊を使うことが分かっている。
ログデータを暗号化したまま分析可能に、NECが三菱重工業と研究開発開始
NECは2022年9月28日、三菱重工業と共同で、プラントなどの施設におけるセキュリティ強化のため、秘密計算技術を活用したログ分析システムの研究開発に取り組むと発表した。
秘密計算技術はデータを秘匿した状態で、データベース処理や統計分析、AI(人工知能)によるデータ分析などを可能にする技術である。
近年、プラントではIoTの導入に伴い、外部ネットワークと通信する機会が増えているが、機器のログデータは機密性が高い情報であるため、外部のクラウド上で分析する場合は、データの扱いに注意を要するなどの課題があった。
そのため、NECはデータを暗号化したまま外部での分析を可能にするため、秘密計算技術を適用し、安全な計算環境を確保することを目指している。
今回の取り組みでは、秘密分散方式(MPC方式)と呼ばれる秘密計算技術を活用する。秘密分散方式は秘匿化したデータを2台以上のサーバに分散保存することで、どれか1つのサーバが攻撃を受けても元データの全容を把握されることを防ぐ手法である。
秘密分散方式には先述のようなメリットがある一方で、サーバ間での通信を行う都合上、分析の処理速度が遅くなるというデメリットもある。TEE方式は、インテルの「Intel SGX」のようなCPU内にあるハードウェア的に安全な領域でデータの分析処理を行うものである。分析処理の速度低下は少なく済むが、既知の攻撃手法がいくつか存在する。準同型暗号方式は暗号鍵を使いデータを暗号化して分析処理を実行するが、処理速度が大幅に低下するといった問題があり、これら3つの方式のメリットとデメリットを考慮しつつ、各方式の特性を生かした事業化を進めている。実際に、秘密分散方式とTEE方式については既に事業化しており、準同型暗号方式は一部で実用化が進んでいるという。
データ・ワン、購買情報に最適化した広告プラットフォーム【Co-buy】の提供開始
データ・ワンは同社が保有する購買情報を軸に、ターゲティング・入札・レポーティングを最適化することで、ブランドの成長及び課題解決を実現する新しい形の広告プラットフォームである「Co-buy」の提供を開始することを公表した。
「Co-buy」はファミリーマートおよび他小売事業者が保有する購買データ、NTTドコモが保有するdポイントクラブの会員データおよび属性情報を用い、ブランドの目的に応じた自動のターゲティング設計・オフラインにおける効果を最大化する広告配信(広告の最適化)から商品購買までの効果検証(効果の可視化)を実現するもので、ユーザーにとって最適な情報を提供すると共に、様々なクライアントにもオンラインとオフラインが一気通貫の効率的なマーケティング、ブランディングの手法を提供するとしている。
英国がTikTokに罰金42億円の可能性、13歳未満のデータを不正収集
英国の情報コミッショナー事務所(ICO)は9月26日、TikTokが2018年5月から2020年7月にかけて、保護者の同意なしに13歳未満の子どものデータを処理した可能性があると指摘した。これにより、TikTokは、全世界の年間売上高の4%にあたる2700万ポンド(約42億円)もの罰金を科される可能性がある。
TikTokはまた、適切なプロセスを経ずに民族・人種、政治的意見、宗教的信条、性的指向等の個人データを収集し、欧州の一般データ保護規則(GDPR)に違反したとされている。
米国の連邦取引委員会(FTC)は、TikTokが親の同意なしに子どもから個人情報を収集し、児童オンラインプライバシー保護法(COPPA)に違反したとして、570万ドルの罰金を科していた。TikTokはまた、2020年に同様の違反で韓国通信委員会(KCC)からも罰金を科されていた。
「テレビ視聴データ連携に関する共同技術検証実験」10月3日開始
讀賣テレビ放送株式会社、株式会社毎日放送、朝日放送テレビ株式会社、テレビ大阪株式会社、関西テレビ放送株式会社は、関西地区のインターネットに接続されているテレビを対象に「テレビ視聴データ連携に関する共同技術検証実験」を実施する。
技術検証では2022年10月3日~2023年1月8日までの視聴データを集約し、検証。実証実験では、参加放送局が収集した視聴データを参加放送局で共同利用するための連携検証、放送局の管理下で特定の個人が識別されることなく視聴者属性の推定するデータ利活用検証を行い、視聴者の利便性向上を目指す。
検証実験で集約した視聴データは、「オプトアウト方式で取得する非特定視聴履歴の取扱いに関するプラクティス(ver2.1)」に則り、参加放送局が持つ個人情報を含まないデータ(視聴中のチャンネル情報や番組の視聴時刻情報など特定の個人を識別できないデータ)を組み合わせて検証し、前項の目的のために利用される場合があり、参加放送局は、この過程で特定の個人を識別することができないようにする措置をとっているという。(出典)
罰金リスクはらむ「AI倫理」、米IBM・NTTデータが講じた施策とは
2024年には全面施行になる可能性がある欧州AI規則案は、AI全般の利活用を対象とした世界で初めての法規制となる。
これまで特定の業界におけるAIの利活用に関するルールを整備した例は存在する。例えば米国は州ごとに定める雇用や消費者保護、金融など特定の業界におけるAIの利活用に対する法整備が進んでいる。
LayerXのPrivacyTech事業部では、「プロジェクトマネージャー 兼 事業開発」「リサーチエンジニア」および「データアナリスト」を積極採用中です!
LayerXでは、最先端のプライバシー保護技術Anonify(アノニファイ)によるパーソナルデータ活用ソリューションの正式提供を開始しました。
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Section2: ListUp
1. プライバシー・セキュリティとデータ利活用
●医療データ活用、本人同意を議論 規制改革推進会議
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA21CZI0R20C22A9000000/
●プライバシー保護に有効な機械学習の新手法、「連合学習」とは
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/keyword/18/00002/090900205/
●三菱UFJ信託銀が購買情報の取得を検証、実用化の道が見えない理由
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00001/07147/
●Googleの新しいプライバシーツールで、自身の個人情報が漏れたかどうかを知ることが可能に
https://www.digitaltrends.com/computing/google-announces-expansion-of-new-privacy-tool/
2. 今週のLayerX
●三井物産デジタル・アセットマネジメント、「不動産のデジタル証券」シリーズの運用残高が100億円に到達しました!
デジタル証券のフロントランナーとして、今後も公募ファンド組成を加速していきます。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000029.000056997.html
●創業当時から金融系の事業を行ってきたLayerXとKanmuから現場でリアルに行われている事をたっぷり4セッションお届けします。
LayerXとKanmu FinTechスタートアップセキュリティ事情
https://kanmu.connpass.com/event/260599/
●LayerX CEO福島の「新時代の現場主義」を日経ビジネスさんに掲載いただきました。
第6回は、「KPI経営で最も覚悟を問われるのは経営陣という真理」についてです。
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00433/092100006/
●経費精算の工数が75%減!有名テーマパーク運営会社が、DXの第一歩にバクラク経費精算をおすすめする理由とは
https://bakuraku.jp/case/expense/nippon-themepark
●黒子のコーポレートの大激論 Days | 2022.10.12(水)〜14(金)
急成長スタートアップの裏側を支えるコーポレート部門大集合
https://10x.connpass.com/event/261133/
●LayerX LIVE 第3回目のテーマは、「 ライトパーソンに聞く!「全員プロダクト担当」なSaaS組織の作り方」です!
株式会社RightTouch代表取締役の野村修平さんを特別ゲストにお迎えし、熱くディスカッションいたします!
https://layerx.connpass.com/event/258552/
●2022年7月から事前受付していた「バクラクビジネスカード」において、3Dセキュア(本人認証)に対応しました。
ビジネスシーンでの利用に必要な最小限の機能が揃ったことから正式版としてリリースし、より多くのお客様にご利用いただけるよう、提供を拡大して参ります!
https://bakuraku.jp/news/release/20220921
●法人支出管理サービス「バクラク」において、株式会社北海道銀行と業務提携したことをお知らせします。
北海道エリアにおける企業のコーポレート・バックオフィス業務のデジタル化を推進するために共同で取り組んでいきます!
https://bakuraku.jp/news/release/20220916_02
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