LayerX Newsletter【特別企画】2020年のパブリックチェーンを巡るトピックを振り返る
Naoya Okanami(@vinami)より
2020年もあと僅か。本年は分散型金融(DeFi)の発展、Rollupを中心としてEthereumのスケーラビリティを向上させるRollup-centric Ethereumの発表、そして5年ほど研究開発が進められてきたEthereum 2.0が無事ローンチするなど、パブリックチェーンの成長が目まぐるしい一年であった。
2021年以降のパブリックチェーンの動向に思慮を巡らすためにも、9つのカテゴリで本年のニュースを振り返りながらパブリックチェーンを概観する。
分散型金融(DeFi)
まずは、最もパブリックチェーンユーザーの生活に影響を与えたであろうDeFiの発展を振り返る。本年はEthereumを中心に様々なDeFiプロトコル及びサービスが誕生し、DeFiアプリケーションにロックされた総資産は約1兆3,000億円になった。
分散型取引所(DEX)の中でも特にAutomated Market Maker (AMM)が注目された。Uniswap V2やBancor V2など既存のAMMのアップグレードや、SushiSwapやMooniswapなど新たなAMMも誕生した。Uniswapは米国最大の中央集権型である暗号資産取引所Coinbaseの取引高を超え話題になった。分散型レンディングAaveは、与信により無担保のローンが可能となるAave V2を発表及びローンチした。DeFiの中でも、Yearn Financeは斬新なプロダクトをいくつも発表する他、EIP-2612によるapprove無しのデポジットを導入するなど、先端的な技術を積極的に採用する面でも目を引いた。
ガバナンスの側面では、様々なプロジェクトのProgressive Decentralization (段階的な分散化)が着実に進んだ。ガバナンストークンの分配は、過去のプロトコル貢献度合いに応じてスナップショット的に分配する方法や、資産をロックする期間に応じて持続的に分配する方法が主に選ばれた。そのようなトークンの分配や手数料報酬などで高利回りの資産運用を目的とした、イールドファーミングも流行した。また、DeFiトークンのインデックスがローンチされ、そのインデックスのガバナンストークン保持者が間接的にガバナンス投票を行う仕組みメタガバナンスも誕生した。
一方で、フラッシュローンと呼ばれる新たな金融プリミティブが悪用され、様々なプロトコルにロックされていた資産が流出した。フラッシュローンにより、DeFiアプリケーションが参照する価格オラクルの操作が容易になり、10を超えるプロトコルが被害にあった。また、Maker DAOのガバナンス投票にも悪用されるケースもあった。フラッシュローンの対策として後ほど紹介する分散型オラクルの普及が進んだ。
Layer 2
DeFiなどでパブリックチェーンの需要が急速に増加し、トランザクション手数料が高騰したため、スケーラビリティの向上が切望された。そのスケーラビリティ問題の解決策として、Layer 2のスケーリングプロトコルがあり、EthereumではRollupが有望なプロトコルの一つと見られている。10月にはEthereumの創設者Vitalik Buterin氏が、Rollupを中心としてEthereumのスケーラビリティを向上させる「Rollup-centric Ethereum」のロードマップを公開し、注目を浴びた。RollupによりTPSが15から3,000ほどになると予想されている。
Rollupは、オンチェーンにトランザクションデータを置いて、オフチェーンで状態遷移と検証を行うことでスケーラビリティを向上する技術である。Rollupは、チャレンジ方式によるOptimistic Rollupと、ゼロ知識証明で状態遷移の正しさを保証するZK Rollupの2種類に大別される。Optimistic Rollupでは、OptimismのSynthetixのテストネット公開や、EVMにフル対応した初のArbitrum Rollupのテストネットが公開された。ZK Rollupは、ZKSwapやLoopringのAMMがローンチされた。また、ゼロ知識証明をスケーラビリティの向上だけでなくプライバシーにも利用するRollup、AztecやZkopruの開発も進んだ。
Ethereum 2.0
Ethereumのスケーラビリティとセキュリティを向上するために、シャーディングとProof of Stakeを導入するアップグレードプロジェクトEthereum 2.0の研究開発が進み、12月に無事最初のローンチが成功した。
本年、Eth2は大きな方向転換がなされたのも印象深い。元々Eth2は、バーチャルマシン(EVMやewasm)を実行できるチェーンを複数導入するシャーディングによって、スケーラビリティを向上することを重要視していた。しかし、前述したRollup-centric Ethereumが発表されたことで、このバーチャルマシンのシャーディングは優先度が下がった。現在は、Rollup用にデータの保存のみ可能なシャードチェーンを64個導入し、Rollupと組み合わせることで100,000 TPSを狙うことが一つの到達点となった。
また従来、ロードマップ上で使われていた"フェーズ"は廃止された。フェーズそれぞれの技術開発は並行して進められていることや、その技術を独立に導入できることから、ミスリードとされたためである。一方で、フェーズという概念は無くなったものの「ライトクライアントのサポート」「データシャーディングの導入」「Eth1とEth2のマージによるEth1のPoSへの移行」「実行可能なシャーディングの導入」という流れは依然として変わらないだろう、とEthereum財団のJustin Drake氏は述べた。
分散型オラクル
分散型オラクルは、オフチェーンの情報をオンチェーンでセキュアに利用することを可能にする技術である。ユースケースとして、先述したフラッシュローン対策以外には、天気や大統領選の結果をオンチェーンにもたらすことで、分散型の保険やデリバティブに利用するケースなどがある。
分散型オラクルの中でも特にChainlinkは、様々なプロトコルとの統合を発表して注目を集めた。Chainlinkは、TEEを利用してデータの秘匿性と計算の完全性を保証したオフチェーン計算を行えるオラクルTown Crierや、TLS通信(HTTPSなど)に含まれる情報を通信は秘匿したままゼロ知識証明を用いて証明できるDECOを提供している。一方で、新たなオラクルの形態として、サードパーティがデータを仲介するのではなくファーストパーティ自身がAPIを提供できるオラクルAPI3が発表された。
プライバシー
パブリックチェーンでの活動を秘匿化するプロトコルが進展した。
mixingによりEthereum上でETHとERC-20トークンの秘匿送金を行えるTornado Cashは、5月にzk-SNARKのTrusted Setup Ceremonyを行い完全にトラストレスになった。12月には、ガバナンストークンTRONをプロトコル利用度合いに応じて配布し、また流動期間を秘匿して流動性マイニングを行えるAnonimity Miningを発表した。
TEEを用いてプライバシーを保護する分散型アプリケーションプラットフォームSecret Networkは、2月にメインネットローンチし、5月にEnigmaからリブランディング、そして、12月にSecret NetworkとEthereum間を繋ぐブリッジをローンチした。ブリッジにより、ETHやERC-20にペグされたトークンを、Secret Network上のプライバシー保護された分散型アプリケーションで利用可能となる。またブリッジに資産をロックする流動性マイニングBridge Miningを発表した。
スマートコントラクト
Solidityはバージョン0.8.0までリリースされ、算術オーバーフロー及びアンダーフローのチェックがデフォルトで動作するようになった 。また、新たなスマートコントラクト開発言語として、rust-vyperがVyperとは独自の路線を進み、新しく名前をFeに変えリリースされた。
スマートコントラクトの脆弱性を突く攻撃は、依然よりも複雑性を増している。Uniswap及びLendf.MeはERC-777の脆弱性を付くre-entrancy攻撃を受け約2,500万ドルの資産が流出した。また、Pickle Financeは複数のコンポーネントの脆弱性を組み合わせた攻撃により約2,000万ドルの資産が流出した。
一方で、スマートコントラクトの脆弱性解析の取り組みも進んでおり、スマートコントラクトの脆弱性解析ツールSecurifyのv2リリースや、スマートコントラクトの自動解析フレームワークSmartBugsが国際会議に採択された。
ソフトウェア/ハードウェアの脆弱性
スマートコントラクトではなく、従来のシステム同様にソフトウェアやハードウェアの脆弱性によってシステム障害などのインシデントが発生した。
11月には、InfuraがGethをアップデートしていないことによるバグによってサービスが停止した。Infuraに依存するサービスはMetamaskを始め数多あり多大な影響を与えた。
Ethereum 2.0のMedallaテストネットでは、GoクライアントのPrysmの時刻同期処理にバグが存在していたことに由来するインシデントが発生した。これにより、大規模なスラッシングが起き、多数のバリデータのデポジットが没収された。
エンタープライズ利活用
パブリックチェーンをエンタープライズに利活用する検証も進んだ。Baseline Protocolは、Ethereumを不変のデータストアとして用いて、ERPシステムのような企業のバックエンドシステムを複数企業間で同期させるためのプロトコルである。Provide社とUnibright社は、Baseline Protocolのガバナンスと技術運営に取り組んでおり、5月にはSAPとMicrosoft Dynamics 365をベースライン化するPoCの実施や、8月には北米コカ・コーラのボトリングサプライチェーンへの導入を行った。また両社は、Baseline Protocolを利用した企業間でのデータやビジネスロジックを同期する技術の標準化を目的としたジョイント・ベンチャーを発表した。Baseline ProtocolはChainlinkを統合することで、より信頼性の高いデータを用いたマルチパーティのビジネス自動化を目指すことも発表した。
その他のパブリックチェーン
特定のユースケースに特化したブロックチェーンのローンチが目立った。2月には分散型DNSサーバーHandshake v2.0.0、10月には分散型ストレージFilecoin、そして、12月には分散型インデキシングプロトコルThe Graphがローンチされた。汎用的なブロックチェーンとしては、10月に分散型アプリケーションプラットフォームAvalancheがローンチされた。
ブロックチェーン間のインターオペラビリティも向上した。前述したSecret NetworkとEthereum間のブリッジ以外にも、AvalancheとEthereum間、NEARとEthereum間、BitcoinとPolkadot間、BitcoinとEthereum間など主要ブロックチェーン間で資産のやり取りができるようになった。
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