LayerX Newsletter【特別企画】2020年「経済活動のデジタル化」を巡るトピックを振り返る
2020年3月、LayerXではミッションを「すべての経済活動を、デジタル化する。」と新たに策定した。さらに2020年8月には「経済活動のデジタル化」に向けて、技術開発及び技術の社会実装に長期的な目線で取り組む研究開発組織として「LayerX Labs」を設立し、「デジタル通貨」と「スマートシティ」、そして「パブリックブロックチェーン」の3つを主要テーマに据え、行政・各国中央銀行・大学・民間企業と連携しながら、ブロックチェーン等の技術の実用化にむけた研究開発を推進している。
そこで「経済活動のデジタル化」に向けた2020年のトピックを、「企業間・分野間連携DX」「デジタルガバメント」「デジタル証券」「デジタル金融」の順に見ていきたい。(リンクは該当週のLayerX Newsletterに対応)
1. 企業間連携:COVID-19流行に伴うB2Bサプライチェーン、貿易、契約の横断的デジタル化
COVID-19流行が世界的な規模となった中で、対面・接触を避ける機運の高まりから、デジタル化・スマート化にむけた取組みが世界各国で見られた(4/1号)。
奇しくも昨今のサプライチェーンの断絶を通じて、日本企業は各方面でデータアクセスにまつわる課題をあぶり出すこととなった。その中で4月には、米ベンチャーキャピタルa16zが「IT’S TIME TO BUILD」と呼びかけた記事が話題になった。必要なモノ・カネが必要な対象へ届かない等、今日我々が置かれた状況は、金融・製造・医療・教育・公共など各分野において、これまでに「仕組みや態勢を構築しないこと」を選択してきた結果だと指摘し、この最大の問題に際し何を為すべきか、と問いかけている(4/29号)。
いま問われているDXは、単一企業内のオペレーション改善に閉じず、企業間のビジネスの流れ(商流・金流・情報流)を渾然一体として取り扱うことを通じ、企業の枠を超えてビジネスモデルそのものの変革を目指すものであろう。(4/8号)。
三井物産流通ホールディングス(小売・外食事業者向け食品・日用品雑貨の中間流通機能を担う事業会社4社を総合的に管理するため設立)では、ブロックチェーンおよびIoT技術等の活用によるサプライチェーンDXの実証実験を推進している。Walmart Canadaでは、IoTとブロックチェーンを用いたインボイスペイメントソリューションを導入した(=商用化)。日本通運でも、IoTとブロックチェーンを活用した商流プラットフォーム(契約決済・在庫コントロール・トレーサビリティ等)の構築に取り組んでいる。(B2BバリューチェーンにおけるブロックチェーンとIoTを用いた企業横断DX動向紹介。9/23号)(物流最前線、1,000億円を投資する日本通運の医薬品物流戦略。11/18号)
NTTデータや三菱商事、東京海上日動火災保険など7社は、貿易ブロックチェーンプラットフォーム「Tradewaltz」を用いた貿易エコシステムが商用サービス開始することを発表した(11/4号)。「Tradewaltz」は、NTTデータが開発している貿易ブロックチェーンプラットフォームだ。発注書・受取書・信用状などの文書の送信企業が必要事項を入力し、受信企業がその情報を参照する仕組みであり、システム上のデータが改ざんされていないことを担保するため、ブロックチェーン技術を使う。
住友商事とbitFlyer Blockchainは、ブロックチェーン「miyabi」を活用した不動産賃貸契約プラットフォーム「スマート契約」のプレ商用サービス開始を発表した(11/4号)。
こうした企業間連携におけるブロックチェーン利用の意味については、先日開催されたLINE DEV DAYにて、「ただの分散DBと何が違う?最前線エンジニアが語るBlockchainの実用可能性」と題して、日本オラクル中村氏、chaintope安土CTO、そしてLayerXの執行役員中村がパネルディスカッションを行う中で、「API連携でよいのでは」「集中管理でいいのでは」といった議論を展開しているので参照されたい(ビジネス利用においてブロックチェーンと既存技術の違いはどこにあるのか。12/9号)。
2. 行政DX・デジタルガバメント:データのトラスト、デジタルエビデンス、電子投票、アイデンティティ
政府のデジタル化が急ピッチで進む中、内閣官房デジタル市場競争本部に慶応義塾大学の村井純教授を座長として「Trusted Web推進協議会」が設置された。10月15日の開催にあたり、西村経済再生担当大臣より「自らがデータ管理し、それを通じてトラストが担保されるデータガバナンスをインターネット上に構築することが重要だ」と設置意図が説明された。(10/21号)
このように社会のデジタル化が進む中で、エビデンス・証拠をデジタルに記録・証明することが重要だ。ブロックチェーンは、改ざん耐性やタイムスタンプ認証を備えた信頼できる実行環境としての特性を備えている。その性質を活かして、電子データをブロックチェーン上に記録することを以って、対応するデータの信頼性・有効性・整合性を保証・検証可能なものとする「デジタルエビデンス」としての利用が考えられる。
例えば米イリノイ州においては、スマートコントラクトおよびブロックチェーン上の記録を以って法的手段として認める法案「Blockchain Technology Act」が通過(1/22号)し、ブロックチェーンを以って生成・格納・検証された記録・署名やスマートコントラクトが、法的な執行力あるものとして認められるようになった。
同様に中国では、2018年9月に中国の最高人民法院でブロックチェーンを用いたデポジット証明書について、エビデンスとしての真正性・法的有効性が確認されており、北京インターネット裁判所(北京互联网法院)が主導する「天平链」にはすでに多くの公証人が参加し、ノードユニットとなっている。このようにブロックチェーンというテクノロジーによる信頼と、公証人という国の信頼を組合せていることが特徴だ(11/11号)。
次に、米国大統領選挙でも話題になったように、投票という行為は民主主義の根幹をなすものであるため、高い信頼性が必要とされる点に留意が必要である。その中、11月3日のアメリカ大統領選挙に向けて、ユタ州ユタ郡にてブロックチェーンを活用したインターネット投票システムが稼働したとされる(10/28号)。
3つ目のトピックとして、分散型アイデンティティも話題になったトピックだ。新経済連盟と内閣官房IT総合戦略室が、「ブロックチェーン官民推進会合」を開催した。LayerX CEO福島も構成員として参加する全5回の開催のうち、DID(分散型アイデンティティ)が第2回および第3回の討論テーマとして挙がるなど、公の場においても「DID(分散型ID)」が重要なテーマとなっていることがわかる(9/30号)。
アイデンティティ関連では、韓国SKテレコムは、KTおよびLG U+と協働で、ブロックチェーンベースのデジタルアイデンティティアプリケーション「Pass」の商用ローンチを発表した(7/2号)。運転免許証の検証および他サービスむけの認証が可能となるものであり、例えば、アルコール飲料購入時に未成年でないことを証明する上で、運転免許証のような形で、住所などの余計な個人情報を店員に示すことが不要になる。
3. デジタル証券:ソシエテジェネラル・Vanguard・タイ中銀・SBIグループ・日本取引所グループ・BOOSTRY・MUFG(Progmat)
デジタル証券の分野では、話題の中心が、2019年までに見られた個別案件の証券化から、「金融機関などにおける債券発行といった実務」にシフトしたことが特徴的だ。
ソシエテジェネラルがフランス中央銀行が発行するデジタルユーロを利用した債券発行に成功(5/27号)したことをはじめ、 大手資産運用会社のVanguardが、デジタル資産裏付証券の発行のパイロットテストの第一フェーズを完了したと発表している。(6/17号)
中銀レベルでも、タイ中銀の「DLT Scripless Bond Project」が、オペレーション効率の改善、コストの低減を目的としてブロックチェーンベースの債券発行プラットフォームをローンチ(9/23号)した。
国内でも具体的な取組が相次ぎ、例えばSBIグループは、改正金融商品取引法の施行後、国内初となるSTO(10/21号)を順次開始していくと発表した他、12月には、SBIデジタルアセットホールディングスとして、スイスの証券取引所を運営するSIXグループの子会社で、デジタル資産の取引サービスを提供するSIX Digital Exchangeと、シンガポールを拠点とする機関投資家向けのデジタル資産の発行・取引・保管サービスを提供する合弁会社の設立(12/9号)について合意したと発表した。
また、日本取引所グループ・証券保管振替機構およびNECから成る「B-POSTプロジェクトチーム」は、「証券ポストトレード領域におけるDLT情報共有基盤の実機検証プロジェクト(プロジェクト名:B-POST)報告書を発表した(12/23号)。
さらに12月15日には、日銀が「決済の未来フォーラム セキュリティトークン分科会」を開催し(12/23号)、業界関係者の具体的な取組に関する概略が紹介された。まずBOOSTRY佐々木社長からは、同社の取組事例と「資本市場のインターネット化」という概念について発表された。続いて、三菱UFJ信託銀行の齊藤調査役が「MUFGのSTプラットフォーム戦略について」と題してProgmatの取組について発表した。
4. デジタル金融:komgo・イタリア銀行業界・DBSに見られる商用化、FinTechやネオバンクとの融合、MaaSやIoT/M2Mといったデジタルサービスとの交わり
デジタル金融の分野では、komgoのコモディティ向け貿易金融プラットフォームがゴーライブを1月に迎えた(1/15号)他、イタリア銀行協会が進める銀行間のリコンサイル業務のデジタル化も本番を迎えている(4/29号)。これに加えて、デジタル金融デジタルバンクを掲げ金融サービスのデジタル化に取り組む急先鋒であるシンガポールDBS銀行が、証券トークン化やトレードおよびデジタルアセットカストディも提供するデジタルアセット取引所(DBS Digital Exchange)を開設することを12月に発表した(12/16号)ように、既存業務・新規サービスの両面でブロックチェーンやデジタルアセットの商用化が大手行レベルで始まっている。
その上で、Starling Bankの前CTOのMark Hipperson氏が、新たに法定通貨と暗号通貨の間で資金移動可能なデジタルバンククリプトバンクZigluを立ち上げ予定(1/8号)と発表した他、ネオバンクSimpleの共同創業者がEthereumベースの銀行APIインフラSilaを立ち上げ(4/15号)、さらに12月にはオンライン決済を提供するStripeが、銀行機能を呼び出すことのできるAPIを提供するプラグイン型金融ソリューション「Stripe Treasury」発表(12/16号)したように、FinTechやネオバンクとの融合も進んでいることがわかる。
さらに注目されるのは、MaaSやIoT/M2Mといったデジタルサービスとの交わりだ。例えば、SOMPOホールディングスは8月17日、損保ジャパン、ナビタイムジャパン、LayerXと共同でブロックチェーン技術を活用したMaaS領域における実証実験を開始した(8/19号)。
IoT関連では、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)と米Akamai Technologiesが共同出資するGlobal Open Network Japanによる新たな決済ネットワーク「GO-NET」が2020年12月に本番稼働予定であることが示された(10/7号)。世界最大の自動車部品サプライヤーBoschの掲げるのは「Economy of Things」だ。デジタルエコノミーを支える主要要素として、「法令遵守しセキュアで効率的なペイメントシステム」と「セキュアなデジタルアイデンティティ」を挙げている(11/11号)。デジタルアイデンティティ関連では、JCBとみずほ銀行・富士通の三社が、デジタルで管理された個人の属性情報(デジタルアイデンティティー/ID情報)を安全・安心にオンライン取引などで活用できるデジタル社会の実現に向けて、異業種間でID情報を流通・連携する共同実証実験を開始することを発表した(10/21号)。
2021年も、こうした「経済活動のデジタル化」が多方面で進展することを通じて、我々の生活や社会をよりなめらかなものとすることを祈念したい。
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