今週の注目トピック
Satoshi Miyazaki(@satoshi_notnkmt)より
今週は、Lightning Network領域から2本ニュースを紹介しています。ひとつは、Ant Routingという手法を採用した際のパフォーマンスの検証結果について、もうひとつは、Square Cryptoから登場したLightning DK(LDK)についてです。そして最後に、取引所向けに開発が進んでいる、Layer2のエスクローソリューションであるArwen protocolについて紹介しています。List編と合わせてご覧ください。
Section1: PickUp
●Lightning NetworkへAnt Routingを適用した際のスケーラビリティの検証
Ricardo Pérez-Marcoらがかねてより提案していたLightening NetworkのルーティングへのAnt Routingアルゴリズムの適用に関して、メモリ効率を考慮した正確な実装を行い、アルゴリズムの効率性の評価と、ノードのワークロードをシュミュレーションすることによるメモリ使用量の見積もりを行った。
Lightning NetworkのOriginal Paperではdecentralizationという観点でのルーティングの問題は詳らかにされておらず、インターネットで用いられるBGPやCjdnsと同じよう大きなルーティングテーブルが必要と考えられていた。Flareと呼ばれるアルゴリズムと実装が提案されているが、beacon nodeと呼ばれるノードにネットワークの構造の情報が集まってしまうという問題を抱えていた。著者らの提案するAnt Routingを用いると、ネットワーク上で最も近い近接ノード以外のネットワークの構造の情報が不要となる。これにより、瞬時に匿名性を保ったトランザクションを実現可能であるという。
提案内にはAnt Routingを採用した場合のネットワークのtpsの理論値を与える式の導出が含まれており理論式に現在のネットワークのパラメータを与えてBitcoinやEthereumの最大tpsを導出し、確からしさを検証している(それぞれ6.67tps, 3.33tps)、Ant Routingを用いたLightening Network ではmempoolが20MBの際に10.0tpsを達成し、mempoolのサイズに比例したtpsを得られるようだ。また、シミュレーションの元になる実装にはAVL Treeというデータ構造が用いて、メモリ効率を向上させている。
●Square Cryptoが開発したBitcoin少額決済の開発キット「Lightning Development Kit」の詳細について
Twitter創業者Jack Dorsey氏が設立した決済サービスを提供するSquareの暗号資産部門であるSquare CryptoがLightning Development Kit(LDK)の詳細を発表した。
LDKはビットコイン開発者がマイクロペイメントネットワークを既存の製品に統合できるようにするツールで、API、言語バインディング、デモアプリなどのLightning Networkとの統合を簡単かつ安全に構成することを可能にするアイテムが含まれている。
2月6日から7日にかけてロンドンで開催されたAdvancing Bitcoin Developer Conference2020において、SquareのBitcoinやLightning Networkの開発担当のValentine Wallaceが、LDKは3つの主要な問題を解決すると述べた。
まず1つ目は自分自身のウォレットを用いることができるようになるとのこと。多くのBitcoinを扱う会社はwalletについて独自の設定があるものの、これまではLightning Networkを用いる際にはLightning Network用に別途walletを作成する必要があった。事前のヒアリングでは、開発者から秘密鍵が複数の保存方法を持つことに対して抵抗が示されたが、今回その必要がなくなった。
2つ目は、自分自身のブロックチェーンを用いることができるということ。Wallaceはブロックチェーンを含む既存のインフラを継続使用することが可能であると繰り返し述べた。つまり、Lightning Network上に新たなレイヤーが導入されてもインフラに大きな変更を加える必要がなくなる。
3つ目はバックアップの変更も不要とのこと。事前のヒアリングでは、開発者からバックアップについてはクラウドサービスを利用するなどカスタマイズをしたい、などの要望がでていたところ、その要望が叶う形となった。Lightning Networkの古いバックアップを利用しなければならない場合、ファンドの流出等の恐れがあったが、自由に設定できるため、バックアップが安全であることに確証をもつことも可能。
加えて、LDKを用いることの利点も述べている。まず、開発者にLightnining Network上でのトランザクションルートを自由に設定することを可能にしており、プライバシーに最適化したルーティングも可能になっている。また、開発者がSDKを用いてLightning Networkの絶妙なコントロールを行うことも可能となっている。例えば、モバイル上でLightnin Networkのチャネルを開設して支払いを行うためには、まずBitcoin Network上でのトランザクションの確認作業が必要だったが、チェーン上での確認前に、Lightning Networkを用いた支払いを選択することが可能になった。Wallaceはこのことを、SDKを用いて、使いたいパーツを選んで、カスタマイズされたPCを作成することに例えている。
最後にWalleceは、Square Cryptoの将来についても述べ、開発者がどんなコードを用いてプログラミングをしようとも、LDKとの間で連携可能になり、既存のインフラ・製品とも統合できるようになるとのこと。
また、Square Cryptoは暗号資産を仲介した決済ネットワークに関する特許も取得している。これは、決済を行う際に、資金の送り手と受取手が利用したい通貨の種類(法定通貨も含む)を指定し、選択された通貨でリアルタイムに決済が完了する仕組み。例えば、暗号資産でユーザーが決済を行なったケースでも、小売店側は指定する法定通貨で支払いを受けることも可能。
このように、Bitcoinの普及に向けて取り組むSquare Cryotoは、セキュリティやプライバシーはもちろん、支払い・決済インフラの構築を通じてスケーリングの改善に注力している。今後も、引き続き注目していきたい。
●ノンカストディアルなLayer2セトルメントプロトコル「Arwen Protocol」について
2020年2月5日、取引所向けにLayer2のセトルメントプロトコルを開発しているArwenが、$3.3millionの調達に成功したことが報じられている。Arwenは、同社名を冠した「Arwen Protocol」を2019年1月末にローンチしていることで知られている。
これまで、世界中で数多くの暗号通貨取引所が盗難の被害にあっていることは、予てより報じられている通りである。暗号通貨取引所のように、カストディアル型と呼ばれる第三者がユーザーの秘密鍵を管理する方式が存在する。こちらは、資産管理の安全性を第三者に完全に一任するという手法であることから、手軽である一方、リスクも同時に存在する。一方で、ノンカストディアル型という、ユーザーが自身の手元で秘密鍵を管理する方法も存在しており、自身の手でリスクコントロールできる点が重要なポイントとなっている。ノンカストディアル型で暗号資産を交換する方法としては、DEX(分散型取引所)の活用が存在するものの、今日のDEXの多くは中央集権型の取引所と比べて出来高が少なく流動性が低いことが課題となっている。
このような問題に対し、Arwen Protocolはノンカストディアルな取引の方法として、複数通貨に対応したLayer2のアトミック・スワップ技術を開発し、暗号通貨取引所向けに提供することで解決を図ろうとしている。Arwen Protocolのホワイトペーパーでは、既存のLayer1のアトミック・スワップソリューションであるThe Ethereum DEX protocol、The Bitcoin’s TierNolan Protocolに見られる手法では、取引の速度やスケーラビリティに問題があることに加えて、他のノードに取引情報が伝播してから取引がオンチェーンで承認されるのを待つ必要があること故に起こるフロントランニングの問題についても指摘しており、オフチェーンで取引を処理できるLayer2ソリューションのメリットについて述べている。また、従来のHTLCで見られていたLockup griefing(取引の当事者の片一方のみがエスクローコントラクトにデポジットしている状態)を回避する手段として、ユーザーがエスクローコントラクトへデポジットする際にフィーを払わせることで、取引所側がユーザー用にエスクローに応じる仕組みを採用していることについても述べられている。Arwen Protocolは、他にも取引リスク削減のために約定時間に制約を加えた「Request for Quote」方式や「Central Limit OrderBook」方式などの取引所を意識した機能を有している。
依然、取引所に対するハッキングに関する報道は続いており、ノンカストディアルなソリューションの重要性は高まっていくと思われる。今後、Arwenがどのように導入されていくかに注目していきたい。
Section2: ListUp
1. Bitcoin
●Lightning Labs、チャネルをクローズせずオープンにしたまま、Lightning Network上の流動性をBitcoinブロックチェーンとの間でインバウンド・アウトバウンドできるLightning Loopをベータローンチ
Lightningから取引業者アカウントやコールドストレージへの送付がLoop Out。逆にコールドストレージなどからLightningウォレットを再充填するのがLoop In。
Lightningチャネルをクローズして開設しなおす必要がなくチャネルの再利用で済ますためトランザクション手数料を節約できる他、Lightningに対応していないサービスとの間でBitcoin送金可能
●Discreet Log Contracts (DLCs) を用いたリスクヘッジについての解説
2. Ethereum
●Nimbus、モバイル端末上でEthereum 2.0テストネットクライアント稼働
●スマートコントラクトのセキュリティ格付システムへ向けて、Ethereum Trust Alliance(ETA) が創設
●Azure Blockchain Service上で利用できる開発者向けツールキットが一般公開
●OpenZeppelin 2.5がリリース。CREATE2 opcodeへの対応等
3. Bitcoin/Ethereum以外
●MIT、トランザクションを小さなパケットに分割することによって、他のペイメントチャネルと比べ4倍の速さを実現するレイヤー2ソリューションを発表
来月のUSENIXシンポジウムで発表予定の論文によれば、“Spider”はブロックチェーン上でリバランスする前に、アカウント中の資金の断片のみを使って、約4倍のトランザクション数を処理することが可能。
より小さな断片とすることによって、高スループットのルーティングを行う“Spider”を、今後はDAG型のトランザクションに対しても頑健なものとしていくとしている
●Matter Labs、ゼロ知識証明むけ回路の生成をより容易・効率的なものとする開発言語・実行環境Zincを発表
Matter Labsとして、セキュアなプログラミングを可能とする上でも、Rust型の言語としてZincを開発することにしたと述べている
●RSK、EthereumとのToken Bridgeをローンチ
●Blockstack、マイナー向けBTC報酬について新たな提案としてProof-of-Transfer(PoX)コンセンサスプロトコルを発表
●Handshakeブロックチェーン上でNamebaseがローンチ
4. 統計・リスト
5. 論考
●Ethereumなどのスマートコントラクトの実行にコストを割り当てるために開発されたアプローチのペーパー
●VRFsのrandom beaconへの応用、3つのVRFを実装しパフォーマンス検証したペーパー
6. 注目イベント
●Advancing Bitcoin Developer Conference(2/6–2/7, London)
●Financial Cryptography 2020(2/10–2/14 at Kota Kinabalu, Sabah, Malaysia)
●Workshop on Coordination of Decentralized Finance(2/14 at Kota Kinabalu, Sabah, Malaysia)
●Stanford Blockchain Conference (2/19–2/21 at Stanford)
●EthCC(3/3–3/5 at Paris)
●Hyperledger グローバルフォーラム(3/3–3/6 at Phoenix, Arizona)
●MIT Bitcoin Expo 2020(3/7–3/8、Boston)
●Cryptoeconomic Systems Conference (CES ‘20)(3/7–3/8、Boston)
●PBWS: Paris Blockchain Week Summit(3/31、Paris)
●EDCON(4/3–4/7 at Vienna, Austria)
●TPBC20: Theory and Practice of Blockchains 2020:(4/20–4/22、Barcelona)
●Eurocrypt 2020(5/10–5/14、Zagreb, Croatia)
●IEEE S&P: 41st IEEE Symposium on Security and Privacy(5/18–5/20、 San Francisco)
●Blockchain Core Camp Season3(5/15–5/17 at Tokyo)
●TPMPC 2020: Theory and Practice of Multiparty Computation Workshop 2020:(5/25–5/28、Aarhus N, Denmark)
●CRYPTOLOGY2020: 7th International Cryptology and Information Security Conference 2020(6/9–6/11、Putrajaya, Malaysia)
●Summer School on real-world crypto and privacy(6/15–6/19、Sibenik, Croatia)
●SECRYPT 2020: 17th International Conference on Security and Cryptography (7/8–7/10, Paris)
●Crypto 2020 (8/16–8/20, Santa Barbara, CA, USA)
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