今週の注目トピック
Tomoaki Kitaoka(@tapioca_pudd)より
今週はまず、Provide社とUnibright社のジョイント・ベンチャーによる、Baseline Protocolによるパブリックチェーンを用いた企業間連携技術の標準化への動きをピックアップします。次に、アメリカのユタ州の大統領選挙でも利用が予定される、ブロックチェーンを用いた電子投票サービス「Voatz」の仕組みを読み解きます。最後に、ConsenSysとProtocol Labsのコラボレーションによる、ConsenSys製品をベースとしたEthereumとFilecoinの統合に向けた動きをピックアップします。
リスト編と合わせてご覧ください。
Section1: PickUp
●Provide社とUnibright社によるジョイント・ベンチャーが発表、Baseline Protocolによるパブリックチェーンを用いた企業間連携技術の標準化へ
ProvideとUnibrightはジョイント・ベンチャーを設立した。Baseline Protocolを利用しEthereum上で企業間でのデータやビジネスロジックを同期する技術の標準化を目的とする。両社はBaseline Protocolのガバナンスと技術運営に約1年取り組んでいる。Baseline Protocolを用いて、今年5月には、SAP-Microsoft Dynamics Business Process Automation POCを、8月には北米コカ・コーラのサプライチェーンへの導入を実施している。今回の提携で両社の技術スタックとプロダクトを統合することで、顧客により良いユーザー体験をもたらすことを狙う。
Baseline Protocolは、Ernst & YoungとConsenSysがMicrosoftと協働して進めているオープンソースプロジェクトである。基幹業務システム(ERP)や顧客管理システム(CRM)などの企業間のデータやビジネスロジックの同期を、パブリックチェーンであるEthereumを介してセキュア、プライベート、低コストで提供する。
両社が連携することで、Baseline as a Serviceとして設計、開発、デプロイ、レポートを含む一連のライフサイクルのサポートを提供する。Unibrightは、顧客にビジネスプロセスの"ベースライン化"の支援としてコンサルティングを行い、Unibrightのフレームワークを利用してビジネスプロセスのワークフローを(ノーコードの手法も用いて)視覚的に定義することで、ベースライン化に必要なスマートコントラクトオラクルの設計やゼロ知識証明の結びつけを行う。ProvideはShuttleを用いて、顧客のインフラ(DockerやKubernetesクラスタ)にBaseline Protocolを対応させたアプリケーションコンテナのデプロイを行う。
両社はDeFiのエンタープライズ利用にも引き続き取り組む。請求書をトークン化することで、売掛債権として送受信および分散型取引所での売買やレンディングによるファクタリングなどが可能になる。先月、両社に加えChainlinkとBetweenがBaseline Protocolによる請求書のトークン化とファクタリングのPoCを開始した。この取り組みはDeFiを企業文化に浸透させるという点で画期的である。
ProvideとUnibrightは業務効率化のバックボーンとして長期的に可用性の高いパブリックチェーンの利用を着々と進めており、同社および同分野の発展に期待が集まる。(文責・岡南)
● ブロックチェーンを用いた電子投票サービス「Voatz」の仕組みを読み解く
11月3日の大統領選に向けて、米ユタ州でVoatz社のモバイル投票アプリケーションが利用された。
Voatzはモバイル投票実現のための課題を以下の3つに分類している。
Security
スマホのマルウェア感染やDoS攻撃の検出・防御
Identity
自動車免許証など写真付き公的IDに基づいたKYC。投票者は一つのデバイスのみからのみ投票可能なようにする。jumioとの統合。
Auditability
投票が集計に反映されていることを検証可能にする
ブロックチェーンノードは投票の管理者が運用し、暗号化された投票データがAnonymous Voter IDというユニークなIDに紐づけられてブロックチェーンに記録される。米コロラド州デンバーでのモバイル投票パイロットでは、AWSとAzure上でそれぞれ16ノードずつ、計32ノードがHyperledger Fabricを用いて運用された。
AuditabilityのためにVoatzのアプローチでは、投票後15~30秒の間にパスワードで暗号化された投票確認メールが届く。これにより投票者はある種のreceiptを受け取り、同意するかしないか選択できると言う。
同意した場合は、投票者は集計に反映された投票をreceiptとAnonymous Voter IDで閲覧することができる。一方、同意しなかった場合は、投票は無効化される。
出典:https://voatz.com/wp-content/uploads/2020/07/voatz-security-whitepaper.pdf
また、Voatzのセキュリティに関する論文がUSENIX Security’20で採択され、内部仕様が公開されていないことによる透明性の欠如やいくつかの攻撃可能性が指摘されている。
モバイル投票は通常のシステムとは異なる透明性の高さやセキュリティ・プライバシー水準が求められ、技術的にチャレンジングである一方、国内外でパイロットや実運用の事例が近年見られるようになってきている。(文責:Osuke)
●ConsenSysがProtocol Labsとのコラボレーションを発表、ConsenSys製品をベースにしたEthereumとFilecoinの統合へ
10月22日、ConsenSysはFilecoinやlibp2p、IPFSなどの開発を行っているProtocol LabsとのコラボレーションでEthereum関連の開発ツールとFilecoinの統合に取り組んでいくことを発表した。このコラボレーションは、Filecoinのデータ保存および検索のための次世代マーケットプレイスとConsenSysの主要なEthereum製品スタックをさらに統合することを目的としている。
Filecoinネットワークのメインネットの立ち上げは、分散型技術スタックのあらゆる層でEthereumと統合できる分散型ストレージのエコシステムとコミュニティの成長に向けた重要な一歩となる(Filecoin、10月中旬にメインネットローンチを発表)。IPFSは、より持続可能でグローバルにアクセス可能なウェブインフラを促進するための弾力性があり、アップグレード可能なオープンネットワークを構築することを目指している。また、IPFSはデータの高速かつ安価な検索、中央集権型サーバーへの依存をなくし、オフラインでもウェブにアクセスが可能だ。IPFSの経済的インセンティブ層は、Filecoinネットワークであり、Filecoin(FIL)と呼ばれる独自のトークンを持ち、Filecoinネットワーク上に暗号化されたデータを適切に保存することを競う採掘者に報酬を与える。10月15日、ブロック148,888で、Filecoinネットワークはそのパブリックメインネットを立ち上げたが、これにはすでに600PiBのデータが含まれており、600人のアクティブなマイナーは言うまでもなく、230のプロジェクトがストレージプロトコルと相互作用している。
今回のコラボレーションによってEthereumとFilecoinの技術のより大きな統合が可能になる。Filecoinのマイナー、開発者、ネットワークのユーザーは、ConsenSysの製品の新機能と今後の機能によって必要なEthereumツールにアクセスし、EthereumのDeFiと統合することが可能になり、Ethereumの開発者、ユーザーはFilecoinやIPFS、libp2pなどの恩恵を受けることになる。公式ブログによると、今回発表されたツールは下記の通りである。
Filecoin Storage
Filecoin DeFi Bridge
MetaMask’s Filecoin Snap
Infura’s Filecoin Network API
ConsenSys Diligence
Secondary Retrieval Mining
Tachyon Launchpad Accelerator
まだ開発中のツールもあるが、基本的にはMetaMask、Infura、Codefi ActivateなどConsenSysの製品がベースとなる。例えば「Filecoin Storage」はFilecoin上のストレージ価格を表示するツールであり、新しいブロックチェーンネットワークを立ち上げるためのプラットフォームであるCodefi Activateによって作られた。また、「MetaMask’s Filecoin Snap」は、MetaMaskを使用してトークンの詳細を表示し、FILを取引することが可能になる。
ConsenSysのファウンダー兼CEOであるJoseph Lubin氏は「Infura、Codefi、MetaMask、その他のConsenSysの製品を通じて、開発者はIPFSとFilecoinの機能をアプリに簡単に統合し、プロトコル層からDeFiを使った金融層まで、スタックのあらゆる層でEthereumベースの機能や他のアプリとシームレスに相互運用できるようになる。Ethereum、IPFS、Filecoin、libp2pのような非常に異なる機能を提供する分散型プロトコル間の相互運用は、分散型Webが本当に形になり始めていることの証とも言える」と述べている。
異なるブロックチェーン間の相互運用の大きな一歩として、今後の動向に注目したい。(文責・金)
Section2: ListUp
1. Bitcoin
●2ラウンドSchnorr署名用いたマルチシグ「MuSig2」のペーパー
2. Ethereum
●Eth2.0でステイクしたETHに流動性を持たせる他、任意額のETHによる参加を可能とすることを目指すLido
3. Smart Contract・Oracle
●Chainlink用いたスマートコントラクトのデプロイガイド
4. DeFi
●「DeFiの主要な構成要素」「DeFiと日本法」に続いて、「Uniswap/DEX/AMMと日本法」。法律事務所視点での貴重なDeFi解説
5. Enterprise Blockchain Infrastructure
6. Other Chain
●2021年1月に予定されているGrinのネットワークアップグレード
7. China Tech
●Ant Group、コンテンツクリエイターの著作権保護プラットフォームをAntChain上に構築し公開
8. Digital Identity
9. 統計・論考
●CoinGeckoによるQ3暗号通貨マーケット振り返りレポート(日本語版)
10. 注目イベント
●IEEE CLOUD(10/20-10/24)
●ACM Advances in Financial Technologies – AFT 2020(10/21-10/23 at New York)
●ETHOnline - Build on, this October
●Crypto Asset Conference 2020 (10/29-10/31)
●戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)による「IoT社会に対応したサイバー・フィジカル・セキュリティONLINEシンポジウム〜 Withコロナの世界を支えるセキュアなIoTサプライチェーン基盤」(11/6, オンライン開催)
●ACM CSS(11/9-11/13)
●Talk Show - EthBerlin 2.5(11/19)
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