今週の注目トピック
Tomoaki Kitaoka(@tapioca_pudd)より
今週はVyperから派生したEthereumの新たなスマートコントラクト開発言語Fe、プリンストン大学のチームを中心とするOffchain Labによって開発されているEVMにフル対応したOptimistic RollupであるArbitrum Rollupのテストネットローンチ、ACM AFT 2020に採択されたパーミッション型Blockchainによる決済システムをピックアップしました。
リスト編と合わせてご覧ください。
Section1: PickUp
●Ethereumの新たなスマートコントラクト開発言語Fe
Fe(フィー)の起源はVyperのコンパイラをRustで書き換えるプロジェクトにある。VyperはSolidityと並ぶEthereumのスマートコントラクト開発言語であり、Pythonで開発されている。Consensysの部分的なレビューによるとVyperのコンパイラにはいくつかバグがあり、現状バグは解消されておらずベータ版のままである。そこで、2020年の年始にVyperのコンパイラをRustで書き換えようという取り組みが始まった。当初の試みでは、単にVyperのコンパイラをRustで書き換えるだけであったが、次第に言語のシンタックスが分岐し始め、新しい名前の言語としてリリースすることになり、Feは誕生した。
Rustでコンパイラ書き換えることのメリットは大きい。RustはSafetyを強く保証するシステム言語であり、このSafetyが未定義の挙動から守る。例えば、Safe Rustではnullポインターは扱えない。これにより、コンパイルの段階でバグを検知可能であり、ランタイムにおけるバグの発生を未然に防ぐことができる。FeはVyperの特徴を大きく引き継いでいる。例えば、シンタックスの大部分はPythonの影響を受けている。また、動的な処理を制限しているため、Safetyを向上させている。今後は、Vyperの特徴を継承しつつも新しい機能をリリースするにしたがって、シンタックスはRustに近づいてくる予定とのこと。
また、FeはYulを中間言語としてターゲットにしている。YulはSolidityチームによって開発されている中間言語であり、EVM 1.0, EVM 1.5, eWASMなどいくつかの低レベルのプラットフォームで共通して利用される。これにより、複数の低レベルのプラットフォームのために複数のバックエンドを開発する必要がなくなる。現状SolidityではYul -> EVM 1.0のコンパイルが可能になっている。YulはOptimistic Rollupにも応用できると期待されている。
Feのロードマップとしては2020年末にERC20で必要となる機能を一通りサポートするとのこと。Feで書かれたコントラクトの例を以下に示す。
(引用:https://snakecharmers.ethereum.org/fe-a-new-language-for-the-ethereum-ecosystem/ )
Vyperの良さを継承した新たなスマートコントラクト開発言語として今後も注目が集まる。(文責・Tomoaki)
●EVMにフル対応したOptimistic RollupであるArbitrum Rollupのテストネットがローンチ
EVMの機能に全て対応した初のOptimistic RollupとなるArbitrum Rollupのテストネットがローンチした。Kovanテストネットで動作しており、実際にSolidityコントラクトをデプロイできる。Arbitrum Rollupはプリンストン大学のチームを中心とするOffchain Labsによって開発されており、関連論文「Arbitrum: Scalable, private smart contracts」は国際会議USENIX Security 2018に採択されている。
Arbitrumは、デベロッパーがEthereumと同じ開発経験を得られることを重視し設計されている。開発ツールを変えたり新しく追加したりする必要はなく、既存のコードをトランスパイルしなくてもよい。Arbitrumのテストネットにビルドをするには、RPCエンドポイントを「https://node.offchainlabs.com:8547」に変更するだけで良い。ETHとERC-20/ERC-721トークンは、ブリッジを通してArbitrumネットワークに送金し利用できる。
Optimistic RollupといえばOptimismも代表的であるが、違いとしてオンチェーンに保存する情報が少ないことや、Ethereumのグローバルガスリミットを超えるような計算とストレージが必要なコントラクトを処理できることがある。またArbitrumの開発者は、現時点でOptimismと比較してArbitrumのほうが機能が充実しており完成が近いようだ、と述べている。Optimismと異なりネイティブのEVMコードをそのまま使用できるため、既存のコード及びツール(Truffle, Metamaskなど)との互換性がある点に加え、Fraud proofの処理を完全にサポート済みである点を挙げている。
今後はメインネットローンチに向け、数週間の間に小さなアップグレードを行っていく予定とのこと。主にバグフィックスとバーチャルマシンのパフォーマンス改善を行う他、(詳細は明かされていないが)BLS署名の対応などの新機能の追加が示唆されている。Rollup-centric Ethereumの記事(Newsletter #78)が公開されて以降、zkSyncのzkRollupによるCurveのデモ、プライバシー保護のzkRollupであるAztec 2.0(Newsletter #79)、Coinbase WalletのOptimismテストネットサポートなどの発表が続き、Rollupプロトコルの基盤が固まってきている。(文責・岡南)
●パーミッション型Blockchainによる決済システムがACM AFT 2020に採択
本日から10月23日にかけて、ACM Advances in Financial Technologies (AFT) 2020が開催中だ。今回はその中からIBM ResearchのElli Androulaki氏らによる「Privacy-preserving auditable token payments in a permissioned blockchain system」を紹介する。
既存のプライバシー保護技術には、CoinJoinやCyrptoNote、Zerocashなどのアプローチが存在する。これらはいずれもBitcoinのようなパーミッションレスなBlockchain向けに設計されており、監査性と説明責任が組み込まれていない。そのため、パーミッション型Blockchainを用いた決済システムに求められるスループットやID管理、監査性、否認防止性といったガバナンス要件を満たさない場合がある。
出典(論文Figure1より)
Androulaki氏らは、パーミッション型Blockchainを用いた決済システムが具備すべき性質を改めて整理し、「プライバシー」「認証」「監査性」に分類している。1つ目のプライバシーは、秘匿する対象を決済金額および決済当事者間のリンカビリティとし、トランザクションはトークンが有効かつ未使用であること以外をリークしない性質だ。2つ目の認証では、ユーザーが事前に認証機関へ登録済みであることを確認する機能だ。この際、仮名ではなくユーザーIDを用いて認証される。最後に監査性について、ユーザーごとに、そのユーザーのすべてのトランザクション情報を明示的な同意なしに表示できる監査人が割り当てるモデルを採用し、ユーザーの取引情報を監査可能にしている。
本論文では、これらの性質と、決済システムに関連する主体を整理し、形式的に扱っている。さらにHyperledger Fabricによる実装と評価を行い、トランザクション生成に2秒弱、検証に3秒弱を要する結果を示した。
パーミッションレスなBlockchainで培われたプライバシー保護技術を再訪し、パーミッション型のBlockchainを用いた決済システムへ応用した論文となっており、CBDC導入といった文脈からも注目の内容だ。(文責・恩田)
Section2: ListUp
1. Bitcoin
●Bitcoin BIP 340-342 validation (Schnorr/taproot/tapscript)がマージされた
2. Ethereum
●Eth2.0でステイクしたETHに流動性を持たせる他、任意額のETHによる参加を可能とすることを目指すLido
3. Smart Contract・Oracle
●(特になし)
4. DeFi
Uniswapが15%から66%に急進。20%あった0xやdYdXはそれぞれ7%・0.5%に。
Kyberは15%ほどあったが1%に。Curveは6月に40%まで伸ばすも11%に。
9月にSushiswapが登場した様子もわかる
オーダーブック型DEX(dYdXやIDEXや0x)がAMMにとってかわられ、KyberやBancorはガスコスト高でシェアを落とした。UniswapやCurveのフォークであるSushiswapやSwerveも登場初期の注目どまりに
●ChainlinkによるDeFi Yield Farming解説記事
トークンスワップや価格探索に用いられるAMMと異なり、レバレッジやショートポジション向け価格探索のみを行う仮想AMM(vAMM)が特徴
Perpetual protocolのvAMMでは、スポットトレードを行わず、資金はクリアリングハウスと呼ばれるコントラクトに送られ、そこでVaultにデポジットされ担保管理される
●Coinbase Wallet、L2スケーリングソリューションOptimistic Rollupテストネットとインテグレーションテスト。取引所やdappのL2ソリューションへの移行進む
●Bancor、未確定損失をカバーするLiquidity Protectionメカニズム備えたAMMデザインでアップグレード図る
●Uniswapのガバナンスシステムへ初めてプロポーザルが提出されるも定足数に満たず否決
5. Enterprise Blockchain Infrastructure
●(特になし)
6. Other Chain
●プライバシーコンピューティングプラットフォームOasisLabsに関する解説記事
7. China Tech
●(特になし)
8. 統計・論考
●PwC、ブロックチェーンによる世界GDP引き上げ効果が2030年までに1.76兆ドルにのぼるという試算を発表
●世界経済フォーラムWEF、ブロックチェーンに関するグローバルレベルのスタンダードの必要性についてレポート発表
●複数組織間のデータ持ち寄り、共有とエンタープライズブロックチェーン
9. 注目イベント
●USENIX PEPR(10/15-10/16)
●IEEE CLOUD(10/20-10/24)
●ACM Advances in Financial Technologies – AFT 2020(10/21-10/23 at New York)
●ETHOnline - Build on, this October
●戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)による「IoT社会に対応したサイバー・フィジカル・セキュリティONLINEシンポジウム〜 Withコロナの世界を支えるセキュアなIoTサプライチェーン基盤」(11/6, オンライン開催)
●ACM CSS(11/9-11/13)
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