今週の注目トピック
Tomoaki KItaokaより
今週はUSENIX Security 2020で採択されたIoTデータの分散型アクセスコントロールに関する論文、大幅なアップデートにより既存のDEXの課題を解消した分散型取引所Bancor V2のEthereumメインネットへのローンチ、コミュニティの期待が高まる中で稼働を開始したEthereum 2.0の最終テストネットの「Medalla」をピックアップしました。リスト編と合わせてご覧ください。
Section1: PickUp
●USENIX Security 2020にIoTデータの分散型アクセスコントロールに関する論文が採択
USENIX Security 2020にHossein Shafaghらによる「Droplet: Decentralized Authorization and Access Control for Encrypted Data Streams」が採択された。DropletはIoTデバイスなどから取得したデータに対してアクセス権限を持つ主体までend-to-endで暗号化することで、データの秘匿性を保証する。
(引用:https://arxiv.org/pdf/1806.02057.pdf)
データを生成するシステム (Data Producer) は時系列データを一定の粒度ごとにそれぞれ異なる鍵で暗号化しストレージに記録する。そのデータを読み取るシステム (Principal) は特定のデータに対するアクセスをリクエストし、取得したauthorization tokenに基づき復号する鍵を生成し、ストレージに記録してあるデータを読み取ることが可能となる。
データの所有者 (Data Owner) は、データに対するアクセスポリシー(誰が、どの期間のデータを読み取ることができるか)などに関するトランザクションをブロックチェーンに記録する。これらのデータは、オフチェーンのACDB (Access Control State Machine)に同期され、ストレージのアクセスコントロールに利用される。
アイデンティティに基づくシステムインターフェースのアクセスコントロールではなく、それぞれのデータ自体に紐づくアクセスコントロールは組織をまたがりデータが安全に流通するプラットフォームにおいては重要になるだろう。(文責:須藤)
●分散型取引所Bancor V2がEthereumメインネットにローンチ
8月1日にBancor V2のローンチが発表された。Bancorは2017年に発表されて以来の大規模アップグレードとなる。現在はベータリリース期間である。また、ソースコード、ドキュメント、オーディット、バグバウンティが公開されている。
(流動性提供時の画面。引用: https://blog.bancor.network/bancor-v2-launches-b1fec492eeb2)
Bancor V2は、Bancor V1を初め第1世代のAutomated Market Maker (AMM)の問題点のうち『Involuntary Token Exposure』『Slippage』『Impermanent Loss』の3つを解決する。
1つ目の『Involuntary Token Exposure』について。第1世代のAMMは、流動性プロバイダーがプールに含まれる資産をウェイトに合わせて等しく拠出しなければいけなかった。資産を1つしか保持していない(あるいは、したくない)流動性プロバイダーにとっては不都合である。Bancor V2は、1つの資産だけでもステークできるようになった。片方の資産をステークすれば、もう片方のウェイトを自動的に重く調整することで、これを実現する。
2つ目の『Slippage』について。その名の通り、大規模な取引は大きなスリッページが発生してしまっていた。Bancor V2では、liquidity amplification(流動性増幅)という仕組みを導入することで、ユーザはより少ないスリッページで取引できるようになる。liquidity amplificationは、Chainlinkのような分散型価格フィードを用いて価格設定を行うことにより実現する。
3つ目の『Impermanent Loss』について。従来だと流動性プールにある資産のウェイトが固定されている。ここで、原資産の価格が乖離してしまうと、アービトラージによってプールから価値が奪われてしまい、流動性プロバイダーは損失を被る。この損失をImpermanent Lossという。Bancor V2は、分散型価格フィードによって価格設定を行い、アービトラージによる価値の奪取がされにくくなるため、この損失が軽減される。
最近はEthereumのトランザクション手数料が高騰している。主要な原因としてDeFiアプリケーションの需要増加があるのではないかと推測されており、その観点を含めて引き続きこの分野の動向は注目したい。(文責・岡南)
●Ethereum 2.0の最終テストネットである「Medalla」が稼働を開始
Medallaテストネットの目標は、Ethereum 2.0のメインネットローンチ前の最終テストを行うことである。テストネットでは、Ethereum 2.0が複数の異なるクライアントでどのように動作するかを評価する。Ethereum Foundationのブログによると、Teku、Prysm、Nimbus、Lodestar、Lighthouseの5つのクライアントが実行されている。
Medallaテストネットは、Ethereum Foundation (EF)によって稼働を開始したため、公式なものとされているが、テストネットの運用はAfri Schoedon氏によって作られたグループ(プログラマー、開発者、コード監査人などが参加しているコミュニティ)が行うという。
現在テストネットの稼働状況としては、Beaconcha.inのブロックエクスプローラーによると、2万以上のバリデータがネットワークに参加し、約65万ETHがステークされている。
phase 0のメインネットのローンチは2020年11月に予定されている。引き続き今後のEthereum 2.0の動きに注目していきたい。(文責・金)
Section2: ListUp
1. Bitcoin
●Schnorr/taproot/tapscriptの実装のPR
●LNのチャネルが使用するコミットメントトランザクションのフォーマットの更新を、チャネルの開閉なく行えるようにするプロトコル拡張の提案
●Eclair、インボイス不要なSpontaneous paymentsをサポート
●Crypto Garage、Discreet Log Contracts(DLC)を用いたP2Pデリバティブのベータアプリケーションをローンチ
●BitcoinのTaprootソフトフォークアップグレードに向けて、アクティベーション方法についての議論が活発化
2. Ethereum
●Ethereum5周年に際してConsenSysがまとめたレポート
●Ethereum 2.0テストネット、524,000ETHのデポジット受け、8/4のgenesis block ゴーライブへ順調の模様
●ConsenSys、Ethereum 2.0 Validator Launchpadのテストネットバージョンをローンチ
●Ethereumの最新の開発動向やビジネスユースケースを網羅する
3. Smart Contract・Oracle
●Gartner、リーガルテック向けパイプカーブ発表。スマートコントラクト(ピーク間近)とブロックチェーン(幻滅期の底打ち)
●ClauseとPlaidによる「デジタルアグリーメント」に関するウェビナー動画
●リーガルテック向けゲームチェンジャーとしてのGPT-3についての記事
4. DeFi
●マネーマーケットプロトコルAave、分散化をはかりトークンエコノミクス・ガバナンスのアップグレードを発表
●レンディングプロバイダーDharma、Uniswap v2とのインテグレーションへ
●Polychain Capital、DeFi流動性プロトコルKeeperDAOへ出資
●ハードウェアウォレット手がけるLedger、100万件の顧客コンタクト情報がハッキング被害に。秘密鍵や支払情報は含まれていないとのこと
5. Enterprise Blockchain Infrastructure
●ブロックチェーンのインテグレーションフレームワーク「Hyperledger Cactus」に関するウェビナー動画
6. Other Chain
●ASXと協業しているDigital Asset、DAMLを通じて証券市場むけ相互運用性へアプローチ
●Digital Asset、クロスプラットフォームのスマートコントラクト言語DAMLのCordaとのインテグレーションを発表
●GrinのPoWアルゴリズムCuckoo cycleとその実装の脆弱性CVE-2020-15899
●Decentralized Identity Foundation(DIF)、Universal Resolverのデプロイを発表。IBM CloudおよびAWS上の2デプロイ
7. China Tech
●Ant Chainに関する解説記事
8. 統計・論考
●R3のCTOによる、Confidential Computingについての記事
9. 注目イベント
●Ethereum Summer Camp 2020(7/9-8/30, オンライン開催)
●IEEE DAPPS 2020(The 2nd IEEE International Conference on Decentralized Applications and Infrastructures)(8/3-8-6, オンライン開催)
●USENIX Security 2020 (8/12-8/14, オンライン開催)
●Crypto 2020(8/17–8/21, オンライン開催)
●BG2C FIN/SUM BB(8/24-8/25, at Tokyo)
●Smart Contract Virtual Summit #0(8/28-8/29、オンライン開催)
●VLDB 2020 (8/31-9/4, オンライン開催)
●ACM Advances in Financial Technologies – AFT 2020(10/21-10/23 at New York)
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