今週の注目トピック
Tomoaki KItaokaより
今週のピックアップはブロックチェーンの分散型クエリプロトコルであるThe Graphのテストネットローンチ、IETF 108におけるTrusted Execution Environment Provisioning (TEEP) WGの標準化の動向、zk-SNARKとOptimistic Rollupを用いたプライベートトランザクションによってLayer2スケーリングを行うZkopruです。リストアップとあわせてご覧ください。
Section1: PickUp
●ブロックチェーンの分散型クエリプロトコルのThe Graphがテストネットをローンチ
The Graphはブロックチェーン上のデータをインデックス化したりクエリするための分散プロトコルであり、ブロックチェーンのデータの高度な検索は難しく、高度な検索を実現するのは中央集権的なシステムに依存する必要があるという課題に対するソリューションである。DeFiプロジェクトのデータの検索への活用が期待されている。
プロトコルの参加者はConsumers、Indexers、Curators、Delegators、Fishermen、Arbitratorsの6つの役割から構成される。
Consumersはクエリを実行する主体。IndexersはThe Graphのノード運営者であり、クエリごとに報酬をもらう。Curatorsは独自トークンであるGRTを使ってどの情報をインデックスすべきかを主張し、クエリに対しては報酬をもらう。DelegatorsはIndexerに代わってGRTのステークを行い、Graph Nodeを運営せずに報酬をもらう。Fishermenはクエリのレスポンスが正しいか検証を行う。最後にArbitratorsは不正なIndexersに制裁を加える。
今回のテストネットであるMission Controlは以下の5つのフェーズから構成される。
(引用:https://thegraph.com/blog/testnet-announcement )
全てのフェーズにおいてindexersにはミッションが課されており、ミッションの達成度合いによってスコアリングが行われる。スコアリングはレスポンス時間など様々な観点からの評価によって行われる。最終的にスコアが計上され、好成績を残せば報酬がもらえるようにインセンティブ付けがされている。Ethereum上のデータは検索が難しいことが一つの課題であったが、分散性を保ったまま高度な検索を実現する手段として今後も注目が集まる。(文責・北岡)
●IETF 108におけるTEEP WG標準化動向
7月27日〜31日にかけてIETF 108が開催中だ。IETFでは年3回、オフラインの会議が開かれるが、今回はCOVID-19の影響でオンライン開催となっている。本Newsletterでは、Trusted Execution Environment Provisioning (TEEP) WGの「アーキテクチャ」「TEEP Protocol」「TEEP over HTTP」を紹介する。なお、IETFにおける技術標準は、各WGでの議論を経てWG Last Call (WGLC)となり、さらにInternet Engineering Steering Group (IESG)に承認されることでRFC番号が付与される流れとなっている。
TEE内のコードが扱うデータは、TEE環境外からの読み取りや改ざんができない。「アーキテクチャ」では、これを実現するためTrusted Application (TA) のライフサイクルを管理するプロトコル設計と標準化を動機付けている。現在、2020年8月にIESGへ提出すべく進行しているステータスだ。
「TEEP Protocol」は、TEE内でコードやデータを扱うためのプロトコルを標準化している。より具体的には、TEEを搭載したデバイスにTAをインストール、更新、削除を行うためのプロトコル仕様の策定だ。ステータスは、2020年8月にWGLCが開始される。IETF 108では、利用されなくなったTAをどう削除するか、ベンダー特有のAttestation(例: SGXのAttestation Services for Intel)をどう扱うかなどが議論されている。
「TEEP over HTTP」は、Trusted Application Manager (TAM) との通信をHTTP上で実装する。TAの開発者やデバイスは外部の信頼できる主体に主張の検証を要求したいことがある。この信頼できるサードパーティがTAMだ。TEEP agent(TAMへ通信するクライアントに相当)とTAMの動作はTEEP Protocolで規定されるが、トランスポートの詳細は規定されていない。その議論が「TEEP over HTTP」で行われており、2020年11月のIESGへの提出を目指す。IETF 108では、HTTPレスポンスやヘッダの扱い、TLSスタックがないといった制約のあるノードも含めTLSをどう考慮するかなどが議論されている。
またハッカソンレポートでは、IoT機器等のファームウェア更新標準化を進めるSUITのマニフェストを用いたTEEP agentやTAMの実装、RISC-VにおけるTEEP-deviceのステータスが紹介された。(文責・恩田)
●zk-SNARKとOptimistic Rollupを用いてプライベートトランザクションのLayer2スケーリングを行うZkopruが公開
zk-SNARKとOptimistic Rollupを用いてプライベートトランザクションのLayer2スケーリングを行うZkopruが公開された。ETH、ERC-20、ERC-721で、プライベートトランスファーおよびプライベートアトミックスワップを低コストで実行できる。既にテストネットでプライベートトランスファーを動かせるところまで実装が完了している。
Zkopruの特徴はコストの安さである。プライベートトランザクションあたり平均約8800ガスになると予想され、ブロックガスリミットが1195万でブロックタイムが13.2秒という仮定で最大TPSは105である。
引用: https://ethresear.ch/t/zkopru-zk-optimistic-rollup-for-private-transactions/7717
Zkopruは、TypeScriptとNode.jsによるReact Nativeベースのアプリケーションとして構築されている。また、コントラクト構築にSolidity、zk-SNARKsのサーキットコンパイラにCircomが使用されている。
今後、メインネットのローンチへ向けて、プライベートアトミックスワップ、即時引き出し、Trusted setup、ライトノードなどの機能を追加予定である。さらに、ブロックエクスプローラーなどの周辺アプリや、各種オーディットの実施も計画されている。
Layer2でプライバシーとスケーラビリティを両立する技術は、Zkopru以外にもZK-ZK Rollup(Newsletter #51を参照)など、いくつか開発されており、今後もこの分野の発展が期待される。(文責・岡南)
Section2: ListUp
1. Bitcoin
●Utreexoのv0.1デモがリリース。UtreexoはBitcoinでフルノード同様のセキュリティ・プライバシーを保ちながら、ノードの小型化・高速化を可能とするもの
2. Ethereum
●Ethereum、2015/7/30にFrontier版がローンチされてから今週で5周年
●Ethereum 2.0 テストネット「Medalla」が発表。8/4から始動予定
●ConsenSysによるEthereum 2.0のネットワークエコノミクスについての論考
3. Smart Contract・Oracle
●Accord ProjectのCicero、Hyperledger Fabric v2テストネットに対応
●スマートリーガルコントラクトClauseと、金融APIネットワークPlaidによる、デジタルアグリーメントに関するウェビナー
●Chainlink、CenterPrimeと提携し、韓国の銀行からDeFiむけにFXレートデータ提供へ
4. DeFi
●近日ローンチ予定のyearn.finance v2について
●AMM (automated market makers) に関する解説記事
●UMA PritocolからリリースされたYield Dollar(yUSD)
●CompoundのCOMPトークンを例にしたYield Farming解説記事
●AMM(Automated Market Makers)との関連で、placeholderからBalancerについての記事
●Binance、MakerDAOのガバナンストークンMKRおよびステーブルコインDAIをリスティングと発表
●Binance Research によるMakerDAO (MKR) のレポート
5. Enterprise Blockchain Infrastructure
●Hyperledger Fabricにおけるパフォーマンス計測ツールの比較
●EEAによるEthereumメインネットユースケースに関するレポート
6. Other Chain
●Avalancheプロジェクト、パブリックトークンセールで $42M調達
7. China Tech
●中国Blockchain-based Service Network (BSN)のバックボーンプロジェクトがキックオフ
●BSNがインテグレーションする予定のパブリックチェーンは、Ethereumの他、EOSIO、Tezos、Neo、Nervos Network、IRISnetとのこと
●BSNは「単独のブロックチェーンそのものをローンチするものでなければ、暗号通貨を発行するものでもなく、開発者により安価で使いやすい形でブロックチェーンへのアクセス手段を提供するもの」というアナウンス
8. 統計・論考
●Hyperledger Fabricにおけるパフォーマンス計測ツールの比較
●中国においてサプライチェーンファイナンスへのブロックチェーン適用が進む背景解説記事
●テンセント「最強の法務部」が騙された?──偽契約書が中国で電子署名・ブロックチェーン導入の契機となるか
9. 注目イベント
●Ethereum Summer Camp 2020(7/9-8/30, オンライン開催)
●IC3 Virtual Blockchain Camp(7/26-8/1、オンライン開催)
●Ushering Fintech Into Smart Agreements(7/29、オンライン開催)
●Ethereum in the Enterprise 2020(7/30、オンライン開催)
●IEEE DAPPS 2020(The 2nd IEEE International Conference on Decentralized Applications and Infrastructures)(8/3-8-6, オンライン開催)
●USENIX Security 2020 (8/12-8/14, オンライン開催)
●Crypto 2020 (8/17–8/21, オンライン開催)
●BG2C FIN/SUM BB(8/24-8/25, at Tokyo)
●Smart Contract Virtual Summit #0(8/28-8/29、オンライン開催)
●VLDB 2020 (8/31-9/4, オンライン開催)
●ACM Advances in Financial Technologies – AFT 2020(10/21-10/23 at New York)
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