今週の注目トピック
Tomoaki Kitaokaより
今週はAppleの自社設計のプロセッサApple Siliconに移行、KusamaネットワークのPolkadotでの位置付けと比較、ステーブルコインのリスク分析と新たな設計モデルの提案をピックアップしました。特にKusamaネットワークとPolkadotの違いは勘違いが生まれやすいポイントを整理しており、必見です。
Section1: PickUp
●AppleがMacのプロセッサを自社設計のApple Siliconへ移行することを発表
WWDC2020の基調講演にてMacのプロセッサを自社設計のApple Silliconへ移行することが発表された。Macに搭載されるCPUは、1990年代にPowerPCからIntel製に移行された。現行MacのプロセッサはIntelベースだが、iPadやiPhoneではARMベースのプロセッサが利用されている。アーキテクチャとしてもCPUとGPUでメモリが分離されていたが、今回の移行によりメモリアーキテクチャが統合され、iPadやiPhoneのアプリケーションがMac上で動作するとしている。
Apple SiliconのSecurity featuresとして「W^X(Write XOR execute)」「Kernel Integrity Protection」「Pointer authentication」「Device isolation」の4つの機能が紹介された。1つ目のW^Xは、メモリページの書き込みと実行が同時に実行されないことを保証する機能だ。JITコンパイラによって、Write命令とExecute命令がRWX memoryに変換され、JITコードとして実行される。2つ目のKernel Integrity Protectionによって、ハードウェアレベルでカーネルの完全性を保証する。カーネルが初期化されたあとは、変更や新しいコードのロードが起こらない。3つ目のPointer authenticationは、64bitポインタに対し、アドレスの前にPAC(Pointer authentication code)を付与し、ポインタの誤使用を防止する。カーネル、システムアプリケーション、システムサービスによってのみ有効化される。最後に4つ目のDevice isolationについて述べる。現行のIntel製Macでは、デバイスがメモリにアクセスするために共有のIOMMUを用いている。Device isolationによってデバイスごとにメモリマップの独立性を実現する。
発表では、iPhoneのセキュリティを「Full security」と表現しており、Apple製品の中でもTouchIDやFaceIDを有するiPhoneのセキュリティが強固だと捉えていることが伺える。4月にはAppleとGoogleが共同で、Exposure Notification(Privacy-Preserving Contact Tracing)の仕様を公開した。今回のMacプロセッサを自社設計のApple Siliconへ移行するニュースは、デバイスレベルでセキュアな機能を実現する取り組みの一つとしても注目だ。(文責・恩田)
●KusamaネットワークのPolkadotでの位置付けと比較
Du CapitalがKusamaネットワークについての論考を公開した。Kusamaは、Polkadotと同じコードをベースに作られたスケーラブルなブロックチェーンであり、多種多様なブロックチェーンを接続する(Heterogeneous sharding)。
Kusamaは、Polkadotのテストネットではなく、Polkadotと同様に価値を持ち、経済的インセンティブがある実環境である。ただKusamaは、Polkadotより保守的ではない。そのためKusamaは、Polkadotにデプロイ予定の新機能の経済的な検証に使用できる。単純な新機能の技術的検証は、Westendテストネットで行われる。ゆえに、新機能のデプロイは、まずWestendでデプロイ&検証、Kusamaでデプロイ&検証、そして、Polkadotにデプロイ、という流れになる。
コスト面でKusamaとPolkadotの比較。
(引用: https://medium.com/@ducapital/op-ed-kusama-going-forward-e8f93cdd14e9)
1行目は、2年間のパラチェーンのリースコスト (PolkadotだったらDOT、KusamaだったらKSM)。USD換算にすると、Polkadotだと675,000ドル、Kusamaだと8,100ドルになる見込み。
スループットとセキュリティ面でKusamaとPolkadotの比較。
(引用: https://medium.com/@ducapital/op-ed-kusama-going-forward-e8f93cdd14e9)
もし、構築予定のシステムが高いスループットと高いセキュリティ・ロバストネスを必要とするなら、Polkadot parachainが適している。もし、高いスループットを必要ないならば、Polkadot parathread、逆に、高いセキュリティ・ロバストネスが必要ないならば、Kusama parachainが適している。
著者らは今後、Kusamaが成長すればPolkadotとは異なったブロックチェーンになる可能性も示唆している。今後Kusamaが独自に発展していけば、Kusamaに導入した新機能をPolkadotにデプロイするのに労力がかかるようになるかもしれない。先日Polkadotがリリースされており、KusamaとPolkadotの関係およびKusamaの活用のされ方は注視していきたい。(文責・岡南)
●ステーブルコインのリスク分析と新たなモデルの提案
Ariah Klages-Mundt, Dominik Harz, Lewis Gudgeon, Jun-You Liu, Andreea Mincaによってステーブルコインのリスク分析と提案の新たな設計モデルに関する論文が発表された。論文ではステーブルコインのリスクのモデリングを行い、経済的インセンティブに基づいたフレームワークの提案を行っている。
ステーブルコインには2種類、custodialなステーブルコインとnon-custodialなステーブルコインがある。custodialなステーブルコインは伝統的な金融機関同様、管理団体のデフォルトや検閲のリスクがある。一方、Non-custodialなステーブルコインは特定の機関からは独立しており、スマートコントラクトによって実装された経済的設計によってデザインされている。したがって、リスクも伝統的な金融機関とは異なる。具体的には以下のものがある。
deleveraging spirals: 裏付けをする債権が急激になくなるリスク。直近ではコロナウイルスの影響で暗号資産はその価値を半減させた(Black Thursday)。ETHのネットワークはこれにより、ネットワークの渋滞とガスの高騰を引き起こし、多くのトランザクションがfailした。これによってmaker DAIは担保の追加や、返済に支障が出た。また、0 DAIから、8m USDを手に入れるような事件も起きた。
(引用:https://medium.com/coinmonks/stablecoins-2-0-economic-foundations-for-defi-b9ab38500b87)
Oracle Manipulation: 外部から流入するデータが不正確な可能性があるリスク。これは意図的な攻撃だけでなく、意図せず引き起こされる可能性もある。
(引用:https://medium.com/coinmonks/stablecoins-2-0-economic-foundations-for-defi-b9ab38500b87)
Governance and Miner Attacks: アプリケーションのガバナンスに加え、マイナーによる攻撃を受けるリスク。
Smart-contract Risk: スマートコントラクトのバグによって意図しない挙動を引き起こすリスク。
論文ではリスク耐性のある経済的な合理性を担保したモデルを3つ提案した。1つはcapital structureであり、社債保持者、株式保持者、管理者の存在するIPOの仕組みを真似て考案された。stablecoinに適応させるとガバナンストークンが株式保有者、ステーブルコイン保有者が社債保有者、発行リスクを追うのが主幹事にあたる。
モデルは3段階に分かれる。(0)ガバナンスが利子率を決める(1)主幹事がステーブルコインの発行を行う。(2)システムは開放される。この時、攻撃するインセンティブがあれば攻撃される。攻撃がない場合は以下のようなモデルになる。
提案されたモデルはステーブルコインにとどまらず、インターオペラビリティなど他領域の応用も想定されており引き続き注目が集まる。(文責・北岡)
Section2: ListUp
1. Bitcoin
●Bulletproofsのプルーフサイズを約15%削減可能な改良版Bulletproofs+のペーパー
●Bitcoinのプライバシー改善にむけたCoinswap実装
2. Ethereum
●ConsenSys、半導体メーカーAMDとの間でJVとなる「W3BCLOUD」社を設立。ブロックチェーンネットワーク向け並列分散コンピューティング基盤の開発めざすとのこと
●RedditとEthereum Foundationによるコミュニティポイントスケーラビリティプログラムの要件リスト
3. Bitcoin/Ethereum以外
●IBM Blockchain Platform v2.5のリリース。Hyperledger Fabric 2.0およびRed Hatとのインテグレーションなど
●中国Blockchain Services Network、6月末にグローバルポータルを公式ローンチへ
●Beam、プライバシーDeFiアプリケーション基盤強化にむけてハードフォークへ
●AVA、Galaxy DigitalやBitmain参加のもとにプライベートトークンセール通じて$12M調達
4. 統計・リスト
●各種Hyperledger プロジェクトのチュートリアルリンク集
5. 論考
●SSI Meetupより、eIDASによるデジタルアイデンティティおよび分散台帳ベーストランザクションの法的サポートに関するレクチャー
6. 注目イベント
●INFOCOM 2020 (7/6-7/9, オンライン開催)
●SECRYPT 2020: 17th International Conference on Security and Cryptography (7/8–7/10, オンライン開催)
●USENIX Security 2020 (8/12-8/14)
●Crypto 2020 (8/16–8/20, 開催未定)
●CRYPTOLOGY2020: 7th International Cryptology and Information Security Conference 2020 (TBA)
●VLDB 2020 (8/31-9/4, オンライン開催)
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