今週の注目トピック
Satoshi Miyazaki(@satoshi_notnkmt)より
今週のニュースレターTech編は、Zcashの開発者によって公開された高速ハッシュ関数であるBLAKE3の登場が注目のニュースとなっています。他には、GDPRに対応したデジタルIDのあり方を探求するSovrin Foundationの動向や、国内外のステーキング動向について、取り上げています。List編と合わせてご覧ください。
Section1: PickUp
●Sovrin Foundationが自ら提供するブロックチェーン上のデジタルIDシステムがGDPRに適合するプラクティスを公表
Sovrin Foundationが、データプライバシーを取り扱うにあたって、今後の地域ごとのニーズの変化に対応可能なフレームワークとしてself-sovereign identitityが最も柔軟なシステムであると主張するペーパーを公表した。
Sovrin Foundationは2016年に設立された国際的な非営利組織で、人や組織が利用する独立したデジタルアイデンティティー(self-sovereign identitity。以下SSI)とその分散ネットワークSovrin Networkの開発と運用を目的としている。SSIは、過去のブロックチェーン領域における研究テーマとしても注目されており、2017年にはHyperledger Indyにて開発が行われている。暗号プロトコルを研究する日本人研究者も在籍していることも興味深い。
ペーパー内においては、GDPRがどのようにSovrin Networkの参加者に適用されるか、EUやEU内の各国の直近の規制やガイドラインに言及しつつ実証を試みている。具体的には、3つのLayerに分かれるSovrin Networkにおける、各主体の役割を整理(以下図参照)した上で、各々がGDPRの要件を満たすために必要な取組について確認を行なっている。
加えて、Sovrin NetworkのアーキテクチャがGDPRのコンプライアンス要件に適合していることを示すだけでなく、ブロックチェーンベースのIDエコシステムによる規制要件への適合能力を評価する包括的基礎を提示するとともに、今後規制が変化しうることを見据え、ブロックチェーン利用のロードマップを作成している。
こちらのペーパーは、Sovrin Foundation内の Sovrin Governance Framework Working Group、The Global Policy Working Group、Sovrin Stewardsなどによる1年以上にもわたる取り組みの成果を示す位置づけに当たる。Sovrin Foundationの理事であり、WGの共同議長のDrummond Reed氏も「これは規制当局との対話の始まりであり、今後当局からのフィードバックを期待している」と述べている。
GDPRをはじめとする個人データ保護にかかる規制の動きは、今後のブロックチェーン開発の方向性に影響を与えていく可能性がある。今後も規制の動きを注視しつつ、分散IDの一つとしてのSSIの開発の進展に期待したい。
●ステーキングに向けた動きが活発に:CoincheckがLISKのステーキングをスタート、0xがステーキング用ポータルを公開
2020年1月9日、Coincheckが実証実験として、LISKのステーキングサービスのβ版提供を開始したとの発表を行った。
LISKはDPoS(Delegated Proof-of-Stake)を採用した通貨であり、投票数の多い上位101のノードに対し、プロトコルからステーキング報酬が与えられる。なお、LISKにはブロック生成に対する報酬が減る半減期が設定されており、2020年10月1日頃に、最後の半減期を迎える見通しとなっている。
今回Coincheckでは、一定量以上のLISKを保有するユーザーに対し、報酬のうち一部を分配することについて明らかにした。今後も、日本でLISKに対応している他の取引所や、ステーキングに対応した新規通貨への対応する動きが発生する可能性があり、引き続き動向に注目していきたい。
一方、0xプロトコルがバージョン3にアップデートされ、流動性を担保する仕組みとしてステーキングを採用したことは記憶に新しい(Issue #34にて紹介)。この度、0x上でデリゲートする先のMarket Makerを指定できるwebサイトである「ZRX portal」が公開されたことが、公式ブログより発表された。 これにより、ユーザーはwebインタフェースを通して、簡単にデリゲート先を選定し、ZRXのステーキングを行えるようになった。現時点では、MetamaskやCoinbase Walletが本機能に対応していることが明らかになっている。今後も、ステーキングを中心したエコシステム拡大に向けて、ユーザー体験の改善や法的・実務的課題に対し、検討が進められていくことに期待したい。
● SHA3-256の15倍、BLAKE2の5倍高速なハッシュ関数BLAKE3の発表
Electric Coin Company (Zcash)のCEO、@zookoらによる高速なハッシュ関数のペーパー及びRustによるレファレンス実装が公開された。Pure Goの実装および、Cでの実装も公開されている。
BLAKE2は、SHA-256、SHA3–256よりも高速かつBLAKE2bやBLAKE2sがOpenSSLに実装されており、PythonやGoといったメジャーなプログラミング言語の標準ライブラリに組み込まれるなど、すでに広く普及している。しかし、互換性のないvariantが複数存在し、なおかつその数が多いことや、ライブラリにおけるvariantの実装が統一されていない問題があった。例えば、x86アーキテクチャ上で最速のパフォーマンスを示すBLAKE2bpやBLAKE2bsは、上記の理由により殆ど普及していない。
BLAKE3では、上記の問題点を解決するためにvariantを一つにし、全てのプラットフォーム上で高いパフォーマンスを示すようにした。
著者らによるベンチマークではSHA3–256の約15倍、BLAKE2の5倍高速であることが示されている。
BLAKE3のベンチマーク
アルゴリズムの大きな変更点としては、ハッシュ関数はハッシュ値を導くアルゴリズム内でラウンドと呼ばれる処理を繰り返すが、BLAKE3ではBLAKE2に比べラウンド数を10から7に減らしている。また、並列性の観点においても、入力値を独立に小構造に圧縮して二分木の葉として取り扱うため、SIMD命令を持つモダンなCPUに最適化を行った形の高速化を実現している。
セキュリティの観点においては、著者らは128ビット安全性を目標にしている他のハッシュ関数と同程度のセキュリティが担保されていると主張しているが、 ラウンド数を減らすことがセキュリティ上問題ないのかは意見が分かれるところであり、懸念もあると見られている。
ZcashはSapling実装の際にSHA256が利用されている箇所をBLAKE2で置き換えるアップデートを行った経緯があり、Zcash含む各種ブロックチェーンの実装において、BLAKE3への以降が検討される可能性がある。
並列化のためにMerkle Treeを内部に持つようなアルゴリズムであるため、ストリーミングされた動画が正しいデータであるかを全データをダウンロードせずに検証していくVerified Streamingや、データを一部ずつ、すでに計算した部分のRoot Hashを変えずにアップデートしていくようなIncremental Updateが応用例として想定されている。
Section2: ListUp
1. Bitcoin
●TetherをEthereumチェーン上からLiquidサイドチェーンへアトミックスワップで移動。Confidential Assets トランザクション用いた秘匿送金でプライバシー確保
●Bitcoin、Taproot/Schnorrアップグレード提案が前進
●今年5月半ばに見込まれるBitcoin半減期についての解説記事
2. Ethereum
●Vyperのコンパイラの最新状況:PythonベースからRustベースの開発へ
●MetaMask主催のGeneralizedなMetaTransaction実装のコンテスト開催へ
3. Bitcoin/Ethereum以外
● SHA3–256の15倍、BLAKE2の5倍高速なハッシュ関数BLAKE3の発表
●Baidu、独自ブロックチェーン暗号通貨「Xuperchain」をローンチ
●Ant Financialのエンタープライズ向けブロックチェーンプラットフォームAnt Blockchain Open Alliance(昨秋よりベータ版)が来月ゴーライブ。中小企業が安価にブロックチェーンアプリケーション構築可能に
●Tezos PoSに対する”selfish mining” 攻撃への脆弱性について
●ブロックチェーンベースのデジタルアイデンティティシステムがデータプライバシーを強化できるとする、Sovrin Networkによるペーパー
4. 統計・リスト
5. 論考
●暗号学的証明についての概観記事。コミットメントからSNARK/STARKまで
6. 注目イベント
●IACRカンファレンスReal World Crypto (1/8–1/10, New York)動画はこちら
●Advancing Bitcoin Developer Conference(2/6–2/7, London)
●Financial Cryptography 2020(2/10–2/14 at Kota Kinabalu, Sabah, Malaysia)
●Workshop on Coordination of Decentralized Finance(2/14 at Kota Kinabalu, Sabah, Malaysia)
●Stanford Blockchain Conference (2/19–2/21 at Stanford)
●EthCC(3/3–3/5 at Paris)
●Hyperledger グローバルフォーラム(3/3–3/6 at Phoenix, Arizona)
●MIT Bitcoin Expo 2020(3/7–3/8、Boston)
●Cryptoeconomic Systems Conference (CES ‘20)(3/7–3/8、Boston)
●PBWS: Paris Blockchain Week Summit(3/31、Paris)
●EDCON(4/3–4/7 at Vienna, Austria)
●TPBC20: Theory and Practice of Blockchains 2020:(4/20–4/22、Barcelona)
●Eurocrypt 2020(5/10–5/14、Zagreb, Croatia)
●IEEE S&P: 41st IEEE Symposium on Security and Privacy(5/18–5/20、 San Francisco)
●TPMPC 2020: Theory and Practice of Multiparty Computation Workshop 2020:(5/25–5/28、Aarhus N, Denmark)
●CRYPTOLOGY2020: 7th International Cryptology and Information Security Conference 2020(6/9–6/11、Putrajaya, Malaysia)
●Summer School on real-world crypto and privacy(6/15–6/19、Sibenik, Croatia)
●SECRYPT 2020: 17th International Conference on Security and Cryptography (7/8–7/10, Paris)
●Crypto 2020 (8/16–8/20, Santa Barbara, CA, USA)
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