今週の注目トピック
Takahiro Hatajima(@th_sat)より
中国におけるデジタル証拠・電子契約の動向、自動車業界におけるプログラマブルマネーと分散型アイデンティティのユースケース動向について紹介しています。
あわせて、米国大統領選挙におけるブロックチェーン活用について紹介しています。
個別トピックのリンクとあわせて、ご覧ください。
Section1: PickUp
●中国におけるブロックチェーンを用いたデジタル証拠・電子契約の動向
中国の裁判プロセスは、オフラインからオンラインへ移行する中で、データと情報も紙から「クラウド」または「チェーン」に移行しつつある。これは従来の方法では、預託した証拠について改ざんなどが発生しやすいことから、トラストの問題解決が必要とされるためだ。
2018年9月に、中国の最高人民法院でブロックチェーンを用いたデポジット証明書について、エビデンスとしての真正性・法的有効性が確認されている。同時期に開設された北京インターネット裁判所は電子証拠(デジタルエビデンス)のプラットフォームとして、司法ブロックチェーン「天平链(Balance Chain)」を構築し、「天平链(Balance Chain)」にはすでに多くの公証人が参加し、ノードユニットとなっている。このようにブロックチェーンというテクノロジーによる信頼と、公証人という国の信頼を組合せていることが、「天平链(Balance Chain)」の特徴だ。
これまでに著作権をはじめとする3億以上の電子証明書を扱っている。例えば、著作権に関するアプリケーションのブロックチェーンから、ブロックの要約情報を「天平链(Balance Chain)」にデポジットし、デポジット番号を返却する。ユーザーには、著作権チェーンおよび「天平链(Balance Chain)」のデポジット番号が返却される。紛争時には、著作権侵害の手がかりとなる証拠が改ざんされていないことを検証し、法律に従って判断を下すための証拠として採用される。
電子証拠(デジタルエビデンス)のライフサイクルをブロックチェーンによってサポートすることで真正性を確保するアプローチと同様に、中国では電子契約のライフサイクルについても、ブロックチェーンの利用が進んでいる。
Tencentが、WeChat上でミニプログラム「騰訊電子簽(Tencent Electronic Sign)」をリリースした。バイトダンスも、オンライン契約プラットフォーム「電子牽(Letsign)」を発表している。これは「ブロックチェーン技術と暗号技術を採用し、電子文書に電子形式での署名を行うものであり、賃貸契約・提携協議・調達契約・労働契約などの業務にオンライン署名サービスを提供するもの」とされる。
経産省「第1回 Society5.0の実現に向けたデジタル市場基盤整備会議」においても、「インテリジェント契約基盤(多産業が容易にサービス連携と即時決済を行える次世代取引基盤の実証)」は「超多頻度リアルタイム決済基盤(人流・物流・情報流を横断した取引)」と並んでキーワードに挙がっており、企業横断取引や即時決済におけるデジタル契約やデジタルエビデンスのあり方は、今後注目すべき潮流の1つであり、今後の動向に注目したい。(文責・畑島)
●BoschとDaimler、自動車のマシンエコノミーを支えるプログラマブルマネーと分散型アイデンティティのユースケースを発表
EU Blockchain Observatory and Forum によるCBDCワークショップにおいて、独Boschや独Daimler Trucksが「プログラマブルマネーのユースケース」と題して講演を行った。
独Daimlar社が掲げるのは「エコノミックエージェントとしてのトラック」だ。トラックに搭載されたウォレットが、トランザクションやペイメントを認証し、データを検証・格納することで、セキュアなM2Mコントラクトを可能にする。このトラックウォレットプラットフォーム上に開発される様々なサービスを支えるのがトラックIDであり、アイデンティティが肝であることがわかる。そのアーキテクチャである「ATILA(Automated Truck Interaction Ledger Architecture)」を支えるのが、①トラック自身を他マシンやビジネスパートナーと識別しデータや支払いリクエストに署名する「トラックID(ATILA ID)」、②DLTベースのM2Mペイメントを安価なトランザクション手数料でIDベースウォレットを通じて行う「ペイメント」、③そして充電(IDやビジネスロジックを実装し識別・充電・支払といったトラックの充電セッションにおける自動ペイメントを行う)の3つだ。
ATILA IDは、トラックを識別しトランザクションに署名するもので、トラックはこのIDをベースにコミュニケーションする。トラックと充電ステーションオペレーターの間で、可用性・充電ボリューム・価格についてネゴシエーションが成立すると、充電がロック解除される。充電が完了すると、IDベーストランザクションのインボイスデータが即時送信され、ウォレットにインボイスデータを蓄積し、データはキャリアのERPへ送信される。ペイメントは、CordaのDLTネットワークを通じて、ユーロベースで法令遵守した形でM2Mの形で行われる。
世界最大の自動車部品サプライヤーBoschの掲げるのは「Economy of Things」だ。デジタルエコノミーを支える主要要素として、「法令遵守しセキュアで効率的なペイメントシステム」と「セキュアなデジタルアイデンティティ」を挙げている。デジタルエコノミーが勃興しDLTベースのインフラが必要となる中、現在のDLTベースのペイメント手段である暗号通貨やStablecoinとは違う、規制されたユーロ同等のプログラマブルな手段が必要だとし、ユースケース例として、分散アイデンティティを用いたパーキングを紹介した。パーキングプロバイダーが生成したパーキングの分散アイデンティティをメーカーが検証した上で、車両とつながったパーキング探索エージェントがネットワークをクローリングし、パーキングプロバイダーについての情報を得ると、車両とパーキングエリアで条件ネゴシエーションが行われる。
デジタル経済を支えるデジタル通貨・デジタルアイデンティティの更なるユースケースの発展に引き続き注目したい。(文責・畑島)
● AP通信が大統領選の結果をリアルタイムにEthereumとEOSに書き込み公開、選挙におけるブロックチェーン活用が注目される
米国最大手の通信社であるAP通信が、今回の大統領選の結果をパブリックブロックチェーンであるEthereumとEOSのチェーンにリアルタイムに記録した。またその内容をAPI経由で提供した。
APIでは候補者に関する情報や投票数、代議員数、選挙結果などの情報を取得できる。これにより選挙速報を配信するようなアプリケーションをサードパーティが用意に開発できるようにしている。
またAP通信の投票データはブロックチェーンベースのウィキペディアと言えるEveripediaにも同時に投稿される。Everipediaは、スマートコントラクトとチェーン外のさまざまなデータを結びつける、いわゆるオラクルサービスを提供するChainlinkを利用してデータが正確であることを保証している。
10月28日発行の本ニュースレターにて、ユタ州における大統領選挙にブロックチェーンベースの投票システムを稼働させたVoatzの取り組みを紹介した。その取り組みは一部地域に限られたものであったが、今回のAP通信の取り組みは選挙におけるブロックチェーン活用において過去最大規模のものとなった。
さて、AP通信のような先進的な取り組みが発表される一方、今回の大統領選は開票作業が大変に長引いた。投票日の3日から当選確実の報道がなされる8日まで実に5日が経過した。
大きな原因はコロナ禍における郵便投票の大幅な増加と、投票率が記録的に高くなったことにより、早くから開票準備をしていた州でも開票作業が間に合わなかったことだ。
昨今の情勢下における外出の制限、接触への抵抗、一部地域における投票所に足を運びづらくなる住民の高齢化、若者の政治離れ、開票作業の遅れ、不正の存在余地。デジタル技術を活用した投票システムが求められることは明らかである。
選挙においては、米国でも日本でも国民全体にあまねく情報を届け、全ての有権者から投票を受け付けられる仕組みや運用体制を作る必要がある。そのため単純に「スマホから投票できるようにしよう」といっても運用面技術面ともに大きなハードルは存在する。
しかし、ブロックチェーンはそれらの問題の一部を技術的に解決し、電子投票システムを大きく前進させる主要なパーツである。
LayerXは11月5日、つくばスマートシティ協議会への加入と電子投票の実現に向けた地方自治体への技術提供を積極化すると発表した。独自の技術を用いて、透明性と秘匿性を両立した電子投票プロトコルを開発した。
日本における有権者自身のスマートフォンを用いた電子投票の導入には法改正を含む長い時間軸での取り組みが求められるが、間違いなくデジタル技術が活用されるべき領域のひとつである。より便利な投票が実現されるよう、ブロックチェーン技術を活用する企業は研究開発を進めることを願うものである。(文責・梶原)
Section2: ListUp
1. 中銀デジタル通貨
●欧州ECB、デジタルユーロに関する消費者選好の世論調査サイトをローンチ
●ノルウェー中銀によるスピーチ「中銀デジタル通貨とリアルタイムペイメント」
●中国人民銀行、デジタル人民元はこれまでのパイロットで400万トランザクション・3億ドル相当を処理した旨をカンファレンスで言及
●豪州中銀、ホールセールCBDCに向けて大手銀およびConsenSysとプロジェクト立ち上げ
2. 暗号資産/デジタル通貨関連サービス
●Square Crypto、ユーザーフレンドリーなクリプトウォレット開発へグラント
3. スマートな社会・産業
●自動車コンソーシアムMOBIが発表した「MOBI Technology Stack (MTS)」
4. デジタル化へむけた政策議論
●経産省/IoTセキュリティ・セーフティ・フレームワーク(IoT-SSF)を策定
●総務省|プラットフォームサービスに関する研究会(第21回)配布資料
●内閣官房 | 第9回 個人情報保護制度の見直しに関する検討会
●官邸 | データ戦略タスクフォース(2020/10/23)
●総務省|「ポストコロナ」時代におけるデジタル活用に関する懇談会ワーキンググループ(第1回)
5. デジタル金融関連
●「金融市場におけるブロックチェーン技術の活用等に関する研究会」報告書
●HSBC、バングラデシュでContourプラットフォーム使い原油輸入のL/Cトランザクション
●Standard Chartered銀、トレードファイナンスで中国本土の銀行とプラットフォーム横断の相互運用トライアル。自行のeTradeConnectと中国人民銀行プラットフォーム間の取引
●スペインSantander銀、エネルギー会社などと協働でQuorumブロックチェーン用いた自己管理型アイデンティティプラットフォーム「Dalion」開発プロジェクトを発表。2021/5ロールアウト予定
6. 規制動向
●香港当局SFC、証券トークン取扱有無に依らず暗号資産交換業者を規制対象に
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