今週の注目トピック
Satoshi Miyazakiより
IoTデバイスの情報の安全な流通の実現に向けて、この度、ウフル様との協業について発表いたしました。引き続き、産業界におけるブロックチェーンの実装を進めて参ります。
今週は、IoTデバイスにおけるプログラマブルマネーを用いた決済方法に関する中国の論考、および環境省の「J-クレジット制度」におけるブロックチェーンの活用に関するニュースを取り上げました。List編と合わせてご覧ください。
Section1: PickUp
●ウフルとLayerX、IoT・ブロックチェーン分野で協業を発表
IoT・ブロックチェーンにおける安全・安心なデータ流通の実現に向けて、ウフルとLayerXが協業を発表した。データの発生源であるデバイスの信頼性を担保すると同時に、ブロックチェーンを活用して改ざん耐性を備えたデータを取り扱うことができるようにしていく。両社のもつIoT・ブロックチェーンに関する両社の強みを活かし、データ流通基盤作りを推進する。
IoTを巡っては、例えば産業界において、上位のERPから現場のセンサーデータ収集の領域までをカバーした産業向けIoT (Industrial IoT : IIoT) の構想が盛んだ。これは、製造現場の生産・加工機器などIoTデバイスをネットワークで繋ぐことによって、オペレーション効率改善などにデータを活用するものである。
こうした産業界を横断したデータ流通・共有にむけたルール整備へ、政府も動いている。「データを抱え込まず共有すれば、新しい商品・製品につなげやすい。車の走行データを共有すると自動運転車の開発を加速しリスク分析を反映した損害保険も作ることができる他、IoTを活用したスマート工場やまちづくりなど実証実験が始まっている」旨、日経でも報じられている。
とはいえ、個別ニーズに応じて局所開発された、ブラックボックス化した個別システムの乱立が、IIoTを阻んでいる。そのとき、システムやサービスをまたいでデータ連携を行う上で、共有台帳としてブロックチェーンを用いることが一案だ。IIoT向けコンソーシアムThe Industrial Internet Consortium(IIC)は、「Distributed Ledgers in IIoT」ホワイトペーパーを発表した。
また、EUも、ブロックチェーンとAI・IoTのコンバージェンスについてホワイトペーパーを発表している。その中では、三者の融合としたユースケースとして、スマートシティをあげており、モビリティやエネルギーなどが複雑に相互に関連しあったシステムにおいて、自動化やデータ管理に有効であるとしている。
このほか、英国JBBA(Journal of the British Blockchain Association)は、ブロックチェーンとIoTを用いた、スマートシティ向けデバイス認証システムについて整理している。IoTを通じた産業界への応用(IIoT)やスマートシティ分野におけるブロックチェーンの応用に引き続き注目したい。(文責・畑島)
●中銀デジタル通貨をめぐるIoTトランザクション
IoTとデジタル通貨の融合について、先週のニュースレターでも、ドイツ財務省がまとめた「デジタル・プログラマブル・ユーロ」の一形態として「マシンCBDC」を紹介した。同様の考察が、中国デジタル人民元(DCEP)についても行われているので、中国クリプトメディア巴比徳(8btc)の記事をもとに概要を紹介したい。
IoTを通じたペイメントモードは、「エージェントモード」「セミセルフサービスモード」の2種類に区分される。「エージェントモード」は、マシンが支払要求サービスプロセスを実行した上で、コントローラがトランザクションを実行するものだ。現状のIoTベースの支払の多くがこの形式で行われる。マシンを実際に制御するのはコントローラー(自然人または法人)であり、支払い取得プロセスはコントローラーの口座間で発生し、マシン自体には独自の口座はない。
これに対して、「セミセルフサービスモード」は、事前にプログラム・合意された手順に従って、マシンが支払い要求を実行するものであり、マシンに独自の口座があり、この口座間で支払トランザクションを実行する。DECPを通じた少額高頻度のペイメント(自転車シェアリング、EV充電など)においては、後者のパターンも有効だろう。
マシンのDECPトランザクションにおいて、IoTデバイスはどのようなセキュリティが求められるだろうか。静的なセキュリティ対策(機密データを保護するために安全なコンテナを使用)としては、SEセキュリティチップ、TEE(Trusted Execution Environment:半導体チップ中の機密実行環境)、SIMカードなどが考えられる。動的なセキュリティ対策(特定条件を満たすことを確認した後にのみ利用可能)としては、ID認証があげられる。
Frankfurt School Blockchain Centerが行った、アカデミア・銀行・中央銀行・コンサルタント・産業界(CEO/CTO等)へのエキスパートインタビューでは、デジタルプログラムユーロのメリットとして「効率化」「リアルタイム決済」より「オートメーション」を挙げる声が多く、また導入時期として2025年ごろを想定している見方が太宗をしめた。
日本銀行においても「デジタル通貨グループ」が新設され、デジタル通貨をめぐる研究が本格化することが見込まれる。リテール・ホールセールとあわせ、こうしたIoTトランザクションについても動向を注視したい。(文責・畑島)
● 国内外で進む、炭素クレジット管理におけるブロックチェーンの活用
2020年7月29日、InterWork Alliance(IWA)が、温室効果ガスのクレジット(炭素クレジット)の管理方法について検討を行う「Sustainability Business Working Group」を設立することを発表した。IWAは、分散型台帳技術(DLT)上のトークンの標準策定を進める団体として、今年の6月に設立されたばかり。同団体は、各種トークンを分類するフレームワークや、複数主体におけるスマートコントラクトを相互運用するためのフレームワーク、分析用の共通データスキーマなどのフレームワークの開発を進めている。
今回発表されたワーキンググループでは、炭素クレジットのトークン化に関して、標準を開発することで、今日の二酸化炭素の排出権取引における会計作業の複雑性を排すると同時に、市場間での相互運用性を向上させることを目指す。ワーキンググループの運営は、Digital AssetのDarko Pilav氏、AccentureのJohn Lee氏、XpansivのCameron Prell氏ら3名が務めており、こちらに参画する企業として、Microsoft、Nasdaq、R3、SIX Digital Exchangeらと、その他数社が名乗りをあげている。
また、こちらに関連するトピックとして、2020年7月28日、環境省は現行の炭素クレジットに関する制度である「J-クレジット制度」のデジタル化を進める抜本拡充策について、発表を行った。J-クレジット制度は、省エネルギー・再生エネルギー設備の導入や、森林管理等による温室効果ガスの排出量削減、および吸収量をクレジットとして認証する制度で、経済産業省、環境省、農林水産省によって運営されている。
今日、本制度の利用が進んでいない背景として、温室効果ガスの削減量の計測や算定に第三者による検証や人手によるコストがかかること、申請手続きが紙ベースであること、相対取引が中心で流動性に欠けていることが課題として挙げられている。そこで、これらについて、手続きの電子化と、IoT機器による計測の簡素化と自動化、ブロックチェーンを活用した取引市場の形成を行うことで解決を図り、利用者・利用量の拡大を行うことが検討されている。プレスでは、2022年に運用開始を目指すことが記されている。
こうした企業や組織、IoT機器のデータを記録し、共有する基盤として、ブロックチェーンの活用はますます進められていくだろう。今後も引き続き、注目していきたい。(文責・宮崎)
Section2: ListUp
1. 中銀デジタル通貨
●日本銀行、デジタル通貨(CBDC)の実証実験を本格開始との報道
●ポストコロナの「お金」の姿〜決済の未来フォーラム デジタル通貨分科会における内田理事挨拶
●G7が中央銀行デジタル通貨(CBDC)の発行に協力することを決定し、8月末または9月上旬に米国で首脳会談を開催予定とする記事
●英国中銀BoE、新セツルメントシステムで中銀デジタル通貨デジタルポンドをサポートへ
●中国とEUが、中銀デジタル通貨やサプライチェーン関連で会談。欧州中銀ECBは参加せず
2. 暗号資産/デジタル通貨関連サービス
●CoinList、機関投資家むけ交換所CoinList Proをローンチ。ステイクングやカストディ関連でAnchorage・BitGo・Bison Trailsと提携
●デジタルバンクのRevolut、ユーザーの需要に応える形で、Bitcoinなど6種の暗号通貨に加えてStellarの取扱も開始
●スイス証取、Bitcoinの上場取引型金融商品(ETP) をリスティングへ
3. スマートな社会・産業
●産業向けIoTコンソーシアムThe Industrial Internet Consortium(IIC)、「Distributed Ledgers in IIoT」ホワイトペーパーを発表
●米保健福祉省のCOVID-19プラットフォーム、Palantirがコントラクターとして受注し、データの改ざん耐性保護のためブロックチェーンも利用
●杭州市、中国国内初のブロックチェーン電子印鑑サービスを開始
4. デジタル化へむけた政策議論
●「デジタル社会構築タスクフォース」、データの信頼性(ブロックチェーンや秘匿計算)やパーソナルデータ取扱(セルフソブリンアイデンティティ)・分野間データ連携などが話題に
●経済産業省・国土交通省、 スマートモビリティチャレンジの実証地域を選定
5. デジタル金融関連
●ケネディクス、BOOSTRY及び三井住友信託銀行、ブロックチェーン技術を活用した「デジタル証券」を発行
●イタリアの銀行55行がCordaベースの銀行間リコンサイルプラットフォームを利用。トランザクションのダブルチェックプロセスを効率化し、従来30-50日を要したものを1日で完了
●保険コンソーシアムRiskStream、保険加盟証明書類の非接触提示にむけた試行を完了。ドライバーは紙の提示に依らず、QRコードやアクセスキー用いて証明の提示が可能
●Crypto Garage、Discreet Log Contracts(DLC)を用いたP2Pデリバティブのベータアプリケーションをローンチ
●イスラエルのテルアビブ証取、ブロックチェーンベースの証券貸付プラットフォームを今秋ローンチへ
●SBIホールディングス、「Sコイン」実証実験をグループ社員を対象として開始と発表。「Sコイン」と「Money Tap」が連携して動作する仕組みを構築
●フィリピンUnionBank、財務局発行のRetail Treasury Bonds (RTBs) を消費者が購入できるブロックチェーンベースのアプリ「bonds.ph」をローンチ
6. 規制動向
●オランダ規制当局、ブロックチェーンベースの不動産クラウドファンディングプラットフォームを承認
●北京認証局、ブロックチェーン企業のソフトウェア監査向けにブロックチェーンセキュリティのアセスメントサービスを開始。北京認証局は中国国家認証認可監督管理委員会に承認された唯一の認証機関
●露プーチン大統領、支払い手段としての暗号通貨利用を禁ずる法案に署名
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