今週の注目トピック
Satoshi Miyazakiより
今週のPick編では、中央銀行デジタル通貨に関するアップデートとして、日本銀行におけるグループ組成の動きや、ドイツ連邦財務省のデジタル・プログラマブルユーロの検討内容について取り上げています。また、フィジカルな産業機器間での信頼可能なデータ連携に関するコンセプトや、中国アント・グループのブロックチェーン関連の取り組み事例のラップアップについても取り上げました。List編とあわせてご覧ください。
Section1: PickUp
●日銀のデジタル通貨組織新設、ドイツのデジタルプログラマブルユーロ構想にみる中銀デジタル通貨の課題
日本銀行において、決済機構局に「デジタル通貨グループ」が新設された旨の報道が先日なされた。「今後、デジタル通貨を発行した場合にすべての人がどのような環境でも利用できるようにするための技術的な課題や、個人情報の取り扱い方、それに法制度上の問題点などを検討します。」とのこと。日銀は、今年に入ってから、デジタル通貨に関して他国との共同取組を発表しており、他国の動向と歩調をあわせながら取組が具体化するものと思われる。
一方、ドイツ連邦財務省からは「デジタル・プログラマブル・ユーロに関するポジションペーパー」が発行された。プログラマブルなユーロのオプションとして、一般に言われる「リテールCBDC」「ホールセールCBDC」に加えて、「マシンCBDC」が言及されている。この「マシンCBDC」は、ブロックチェーン上のウォレットを介したマシンによる自律的ペイメント(①マシン間、②マシン〜ヒト間)を想定するものだ。インダストリー4.0などドイツが得意とする産業界のイノベーションにおいて、デジタル・プログラマブル・ユーロの実現にむけて産業界とECBが対話すべきとしている点が特徴的だ。マシンCBDCの場合、従来のKYC/AMLは個人や法人を対象としたものであるため、マシンに特化したKYC/AMLをどのように考えるか、デジタルアイデンティティについても検討の具体化が必要だろう。
中銀デジタル通貨の普及にむけては、デジタルアイデンティティやその匿名性がなければ、デジタルウォレット機能が完成しない。そのため、米国Digital Dollar Projectを巡っても、デジタルアイデンティティを備えることは、セキュアなウォレットにおける重要な課題となるであろうこと、発行者あるいは当局がトランザクションを参照する必要があることに照らして、どのように匿名性を維持するかについて、法規制などのフレームワークが必要になるであろうことが指摘されている。
中銀デジタル通貨の動向については、技術論だけでなく、アイデンティティ・KYC/AMLあるいは金融政策などとの整合が不可欠であり、引き続き注目したい。(文責・畑島)
●デジタル経済の確立にむけた「サイバー・フィジカル・システム」時代のデータ連携
2020年7月22日付で、G20デジタル経済大臣会合の閣僚声明が発表された。「信頼性のある人工知能」に加え「データフリーフローウィズトラスト(信頼性のある自由なデータ流通)及び越境データ流通」や「スマートシティ」「デジタル経済の計測」および「デジタル経済におけるセキュリティ」が盛込れている。
複数プレイヤーを横断したデータ連携については、次期総合物流施策大綱においても、荷主など関係者間の「データ連携」重要性について指摘があがるなど、スマートシティやデジタル経済の実現にむけて、重要なテーマだ。
IoTの普及が進む中で、データ連携も、従来のようにネット空間だけで行われるものから、大きく変わろうとしている。現実世界(フィジカル空間)でのセンサーネットワークが生み出す膨大な観測データなどの情報を、サイバー空間の強力なコンピューティング能力と結び付けて数値化・定量分析することで、経験と勘に頼っていた事象を効率化し、社会システムの効率化などを目指すのが、「サイバー・フィジカル・システム(CPS)」だ。(出所:小説第4次産業革命)
例えば、工作機械の稼働情報を収集したものを分析し、納入先の設備稼働に応じた生産量変動・出荷タイミング調整に活用するなどが挙げられる。東芝のような大手重電も「フィジカルの機器から情報を得ることで、サイバー空間での分析により最適な計画や故障の予知などの付加価値を提供することができる」とし、CPSを活用して、保守運用サービスなどデータを軸としたサービス領域に踏み込んでいく。
こうした「サイバー・フィジカル・システム」の世界においては、多様なIoTシステム・サービスやサプライチェーン全体のセキュリティ確保に必要な信頼の創出・証明技術がポイントとなる。また、設備の稼働情報のように、商取引において機微な情報にあたるデータ連携を伴うため、秘匿性の確保も必要だ。
このような形で、「サイバー・フィジカル・システム」データ連携基盤や「スマートシティの」都市OSの整備が加速していくと考えられる。その際、GAFAが情報の扱いを巡って市民の抵抗を見たように、データのプライバシーが普及のカギを握ることから、スマートシティ分野における今後の動向に引き続き注視したい。(文責・畑島)
● 中国 Ant Groupのブロックチェーン商用化事例を振り返る
2020年7月23日、アリババ傘下のアント・グループが、自社のブロックチェーンサービス群を「Ant Chain」としてリブランディングすることを発表した。アント・グループは、この前週に上海証券取引所と香港証券取引所での同時上場に向けた手続きを開始したとの発表を行ったばかり。同社は評価額2,000億ドルのIPOを目指すと報道されている。
アント・グループは2015年からブロックチェーン関連の技術開発を行っており、2019年単年で、アリババを含めたグループ全体で1505個ものブロックチェーン関連の特許申請を行っている。現在は、自社のBaaS(Blcokchain as a Service、クラウド型のブロックチェーン開発プラットフォーム)を提供し、そのユースケースは合計で50種類以上、毎日1億件にのぼる情報がブロックチェーン上に記録されている。下記では、このユースケースのうち、実際に商用化が進んでいる一部を紹介していきたい。
金融領域の事例では、サプライチェーンファイナンスのサービスである「双链通(Double Chain)」がある。金融機関と企業間の情報の非対称性が著しい中小企業への融資は一般的に難しく、中小企業支援を掲げる中国政府はこの現状を課題視している。こちらのプラットフォームは、中小企業の売掛金をブロックチェーン上に記録し、金融機関向けに可視化することで、課題の解決を図っている。実際に、融資に要する期間を3ヶ月から数秒にまで短縮させることに成功している。
物流領域では、「溯源(トレーサビリティ)」にブロックチェーンが用いられており、TaaS(Traceability as a Service)として展開されている。アント・グループは、アリババグループのECプラットフォームの「天猫(T-mall)」、物流プラットフォームの「菜鸟(Cainiao)」と提携し、農産物の出荷状況をブロックチェーン上に記録することで、サプライチェーン・マネジメントの向上や、希少ブランドを偽造から保護することに活用している。
行政領域では、電子印鑑プラットフォームの基盤にブロックチェーンが用いられている。こちらは、7月17日にアリババグループのお膝元である杭州市で運用が開始されたばかり。公的に利用可能な会社印の偽造を防止する狙いで開発されており、杭州のスマートシティ化の一環として取り入れられている。中国では今月、Tencentが有名調味料メーカーの偽造印を用いた詐欺師グループの被害にあったことが話題となっており、偽造が容易な印鑑への対策の必要性が浮き彫りとなっている。
他にも、医療情報の共有や電子証明書、チャリティプラットフォームなど、多数のサービスの商用化が進められている。引き続き、最先端をいく中国の動向を見ていきたい。(文責・宮崎)
Section2: ListUp
1. 中銀デジタル通貨
●ボストン準備連銀、デジタル通貨分野のリードエンジニアを募集。デジタル通貨の実験において、FinTechリサーチチームと実装やサポートを行うもの
●リトアニア中銀Lietuvos Bankas、2年間にわたるブロックチェーン実験の成果として、記念デジタルトークンLBcoinを明日24,000枚リリースへ
●フランス中銀、ホールセール向けデジタルアセットのセツルメントにおける中銀デジタル通貨テストでHSBCやSociété Généraleなど8社の参加者を発表
2. 暗号資産/デジタル通貨関連サービス
●米国ワイオミング州のクリプトバンクAvanti、プログラマブルなデジタルアセットAvitを銀行として発行し、現金同等物として取り扱う計画を明らかに
●Mastercard、暗号通貨・FinTech パートナーによるカード発行ネットワークプログラム拡大を発表
●Standard Chartered、機関投資家むけカストディソリューションを開発
3. スマートな社会・産業
●中国杭州、ブロックチェーンベースの電子シールアプリケーションをローンチ
●世界経済フォーラム、COVID-19ワクチンを公平かつ効率的な方法で大量流通させる上で、ブロックチェーンが有効と
●MediLedgerすすめるChronicled、医薬品サプライチェーン分野でDeloitteと提携
●三井住友銀行、トレードファイナンスでContourおよびkomgoと提携
4. デジタル化へむけた政策議論
●国立情報学研究所、産官学一体のデータ流通・利活用をめざす推進団体「dataex.jp」の準備協議会を発足
5. デジタル金融関連
●野村ホールディングス、アスパラガスを使ったスープ開発プロジェクトへの参加権利を社員限定で販売
●東海東京、首都圏のオフィスビルなどの不動産を裏付けとしたデジタル証券をシンガポール「iSTOX」で上場へ
●スイスのクリプト銀行SEBA、CordaベースのDigital Asset Shared Ledgerを用いたデジタル証券のトークン化を計画
●tZERO、St. Regis Aspen Resortの間接所有権を表象するデジタル証券をtZERO ATS上で取引可能とすべく、Aspen Digital Inc.と提携
6. 規制動向
●米通貨監督庁(OCC)、銀行による暗号通貨カストディサービス提供を認める
●中国人民銀行、ブロックチェーンベースの金融アプリケーション向け評価ルールを発表
●中国最高裁、デジタル通貨をめぐる財産権に関して法的保護の強化へ
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