今週の注目トピック
Eisuke Tamotoより
今週のBiz編pickには企業間情報連携に向けた論点の現状解説のほか、先週に引き続き証券化領域から記事が解説されています。また、久しぶりにカストディ領域のニュースも解説されています。List編ではCBDCやタイ政府関連の証券化ニュースなど行政が関係するニュースが多く出てきていることが注目されます。Pick, List合わせてご覧くださいませ。
Section1: PickUp
●Tokensoftが既存の市中銀行とともに不動産証券化プラットフォームを提供へ
TokenSoft社がニューヨークに拠点を置く商用銀行Signature Bankと提携し、不動産証券化プラットフォームを開発・提供して行く方針であると発表した。Tokensoftは従来セキュリティトークン開発のコンサルティングを行っていたが昨年以降, Transfer Agent向けサービスの提供など、自社開発のシステム提供に転換した企業である。今回のニュースはさらに一歩先に進め、自社でセキュリティトークン発行のためのパッケージサービスを提供することを意味している。
今回開発するプラットフォームは、今後提携して行く各企業のニーズに合わせた商品組成を可能にするカスタマイズ可能なプラットフォームにして行くと発言。このパッケージサービスでで対象とする不動産アセットはミドルサイズの規模。早期流動化ニーズなどに応えて行くことを目標に掲げている。提供機能としては、売買・流動化窓口といったBD機能や、評価額レポート等の期中投資家IR機能になると説明されている。
今回の提供サービスがパッケージサービスと名称できる所以は複数の提携機関が提供するサービスを繋ぎ込むという提供体制にある。資金決済部分の機能にはSignature Bankが提供するSignetというシステムを活用する。このシステムはブロックチェーンを利用した資金決済システムで、Signature Bank内の法人口座が利用可能である。対投資家の情報提供機能には、私募ファンド運営関連業務のデジタル化を進めているInveniam Capital社のサービスを活用すると発表されている。また、アセットマネジメント分野においては複数社と協業を模索しているとの発言もある。TokenSoft自身が提供するのは、各社を繋ぐベースとなるシステムを提供する他、transfer agentライセンスを獲得している子会社を利用した証券台帳管理部分のみになる模様だ。
過去に商用化が発表されてきたプラットフォームは単独グループで提供する物が多かった中で、各システムを繋いだパッケージサービスとして証券化システムを提供する今回の取り組みは新しい位置付けとして注目できる。システムインフラ的色合いが強いブロックチェーン技術を応用させる一つの方法として、このプロジェクトの続報が見逃せない。(文責・田本)
●企業間のデータ・情報連携の進展にむけた鍵を握るワークフローとデータ信頼性保証
Tencentが、モナコと同サイズのスマートシティを建設する計画を明らかにした。CNN報道によれば、200万平方メートルの敷地に8万人が暮らし、自動運転車を優先する都市計画が検討されている。スマートシティについては、先週のニュースレターで特集したばかりなので、ご参照いただきたい。
スマートシティに限らず、業種・業態を横断して企業間でデータ・情報を共有・連携する動きが盛んになっている。記事にもあるように「データを抱え込まず共有すれば、新しい商品・製品につなげやすい。車の走行データを共有すると自動運転車の開発を加速しリスク分析を反映した損害保険も作ることができる」という訳だ。
だが、現状は、経産省の産業構造審議会総会資料によれば、企業の実態は「デジタル前提となっておらず、データ活用が進んでいない」ことがわかる。
こうした実態は、製造現場だけでなく、経理業務といった、従来よりIT化が進んできたとされる分野でも見られる。Aerial Partnersによれば、「業務管理システムと会計ソフトの間に大きな”谷(集計や判断の余地)”」が広がっており、「その”谷”を埋めるのは、経理担当者(或いは経理担当者 + Excelの魔術師)になってしまっているのが現状」とされる。
今後のIT利活用を展望する上で、「企業をまたぐワークフロー」「企業をまたぐデータの信頼性保証」が鍵を握るのではないか。ワークフローについては、サービスナウが「どこにいても業務プロセスがスムーズに回せることの重要性が理解されている今こそ、必要なプロセスをクラウドのワークフローに乗せ、他システムとの連携を進めるなどのデジタル改革を進めるべき」と主張している。
また、「データの信頼性保証」については、デジタル市場競争会議において、「データへのアクセスのコントロールを、それが本来帰属すべき個人・法人等が行い、データの活用から生じる価値をマネージできる仕組み」 (“Trusted Web”) を構築する上で、「全体のサプライチェーンの中で流通するデータの信頼性、すなわち、データの出元、改ざん耐性、検証可能性、データの精度などのデータ の品質が一層強く問われることになる」旨が述べられている。
政府において、「特段の定めがある場合を除き、押印しなくても契約の効力に影響は生じない」と記す文書が発表された他、「自動車検査証の電子化」にむけた検討が進むなどしている昨今の情勢下にあって、民間企業間におけるデータ連携をスムーズに実現する取り組みの動向に、引き続き注目していきたい。(文責・畑島)
●野村HDら3社が取り組む、機関投資家向けのデジタル資産カストディサービス「Komainu」について
2020年6月17日、野村ホールディングスと、暗号資産の管理ソリューションを展開するLedger社、投資家向けのデジタル資産の投資商品や関連サービスの提供を行っているCoinShares社の3社のメンバーが、デジタル資産のカストディサービス「Komainu」の提供について、新たな情報の発表を行った。Komainuは、2019年11月に、英領ジャージー島より、カストディのライセンスを取得している。
近年、オルタナティブアセットへの投資需要が高まる中、暗号資産をはじめとするデジタルアセットの領域に対する注目が急激に高まっていた。一方で、伝統的な金融機関と比べ、安全な資産管理ソリューションが不足しており、機関投資家の参入が進んでいないことが課題となっていた。このような背景から、デジタルアセット領域におけるカストディアンに対する期待が世界でも高まっている。
Ledger社は暗号資産ウォレットの販売を行っていることで知られるが、近年はLedger Vaultという法人向けの暗号資産管理ソリューションの提供も行っている。CoinShares社は、暗号資産のアセットマネジメントプラットフォームを提供している他、Nasdaq Stockholmで暗号資産ETNの提供も行っている。ここに野村HDのもつ銀行業務やファンド運用に関する知識が加わることで、安全性の高いデジタル資産の管理ソリューションが提供されるだろう。
一口にデジタルアセットのカストディと言っても、伝統的な有価証券のデジタル化を行うSIX Digital Exchange(SDX)やHQLAxのようなプレイヤーと、暗号資産の管理に特化したCoinbase CustodyやBitGoのようなプレイヤーに二分できる。
Komainuは、主に後者の取り組みに注力すると考えられるものの、長期的には、グローバルでデジタル証券など、より前者の既存金融に近い領域に取り組んでいくことも考えられる。今後も引き続き、同社の動向に注目していきたい。(文責・宮崎)
Section2: ListUp
1. Regulation : 規制動向
●シンガポールMAS、中銀デジタル通貨の分野で中国との協業を表明。クロスボーダーペイメントやセツルメントコストの低減めざす
●韓国中銀、デジタル通貨の研究に向けリーガルアドバイザリチームを結成
●国際決済銀行BIS、「デジタル時代における中央銀行とペイメント」と題したアニュアルレポート特集号を6/24に発行予定
2. Crypto Adaptation: 暗号通貨の普及・応用
●Ledgerと野村による機関投資家むけカストディサービス「Komainu」がローンチ
●Galaxy Digital、Bakktと提携し資産運用会社向けBitcoin購入・保管サービス提供へ
●EY、暗号資産むけ税務アプリCryptoPrepをローンチ
3. Decentralized Finance : DEXやトークンなど
●請求書ファイナンスをブロックチェーンで行う融資サービスTinlakeとは?
4. Programmable Security : プログラマブル証券関連
●タイ債権管理事務所がブロックチェーンベースのウォレットを利用した貯蓄債券発行へ
タイ国営銀行のクルンタイ銀行が開発しているe-walletを利用して、額面1バーツという超低額額面の債券を発行
今回の発行は行政による債券管理の効率向上と、業務をデジタルで完結させることを目的とした実証実験的位置付け
100バーツ単位での購入が可能に。低所得者でもリスクフリーの証券資産を保有できる世界観を作ることが目標
5. Financial Institutions : 金融機関による応用ケース
●カンボジア国家銀行がバコンプロジェクトのホワイトペーパーをローンチ
ホワイトペーパーはこちら
●タイ中銀、中銀デジタル通貨によるペイメントシステムのプロトタイプ開発へ
●韓国、メディカルツーリズム向けブロックチェーンプラットフォームを釜山市・銀行・大学病院・決済企業で構築。患者と医療機関の接続、外貨両替・口座開設
6. Enterprise/Government : 非金融分野の応用ケース
●New York Times、フェイクニュース対策でニュースの来歴をブロックチェーンに記録する「The News Provenance Project」プロトタイプを IBM Garageと構築
●英国標準化組織BSI UK、パブリックチェーン上でサプライチェーンソリューションをTraceLabと協働で構築。個人・企業・プロダクトの資格証明の真正性を検証
●ユニリーバ、森林破壊を経ないサプライチェーンのトレーサビリティに向けてブロックチェーン利用を発表
●世界経済フォーラムWEF、政府調達における不正撲滅に向けて、ブロックチェーン用いた透明性向上に関するレポート発表
●Alibaba、国際港湾システム協会(IPCSA)のブロックチェーン船荷証券プロジェクトに参画表明
7. Startup : 個別プレイヤー・アプリケーション
●Upvest、Ethereumトランザクション手数料レコメンドエンジン開発
8. Articles : 論考
●中央銀行デジタル通貨をデザインする上での重要な考慮点に関する論考
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