今週の注目トピック
Eisuke Tamoto(@coin_ettomato)より
今週のBiz編PickUpには世界各地から金融に関するニュースが並びました。昨年末から各国中央銀行によるデジタル通貨(CBDC)についてのニュースが続いていますが、今週もフランス中銀・世界決済銀行からニュースが届いております。一方、市中銀行でもポストトレード領域や独自決済通貨利用の動きが進んでいます。CLSNet参画拡大のニュースはその一つと言えるでしょう。
Section1: PickUp
●フランス当局および中銀による、ブロックチェーン上での金融商品デジタル化にむけた取組み動向
仏当局AMFは、ブロックチェーン上での金融商品のデジタル化を認めるようEUへ要求している。
低金利およびコンプラコスト増によって金融機関のマージンが縮小する中で、節約に寄与するのが、共有台帳を用いた台帳リコンサイルにかかる手間の低減である。また、送金コスト低減だけでなく、スマートコントラクトを通じた自動執行によって、DvP決済などポストトレードプロセス自動化を図ることができる。
仏AMFは、こうした環境をとらえ「金融のトークン化はメジャーなトレンドであり、もはや戦うべき相手ではなく、安全な環境で開発できるようにフレームワークを通じてサポートすべき」であるとし、「効率向上を得る上でブロックチェーンを利用することの法的明確性を許容する必要がある」と強調している。
当局が解決すべき具体的課題として、①分散プラットフォーム利用において、セツルメントシステムの運営管理者の特定を求めている点、②セツルメントシステムへのアクセスにあたり、金融機関など仲介者を利用することを求めている点、③交換手段として現金が必要な点、の3つをあげている。
一方、仏中銀は、1月半ばに行われたStablecoin ConferenceにDenis Beau副総裁が登壇し、「JP Morgan Coin、UBSのUtility Settlement Coin、FacebookのLibraなどの民間Stablecoinは、新しい世代のデジタル通貨であり、既存のペイメントシステムの抱える制約事項の解消に寄与する一方、同時にリスクも想定される」とした上で、規制・監督当局に求められる取組として、「Stablecoinが支払システムへプラスのインパクトを与えることができるよう、包括的なフレームワークではなく、アジャイルかつ実用的な規制対応を通じて、急速なイノベーション対応をはかることで、シンプル・迅速な実装と調整を実現すること」などを提示した。
包括的なフレームワークに走りがちな金融行政にあって、アジリティを考慮した柔軟な調整を志向した主張は貴重だ。フランスは、数週間以内に、AMFから本テーマに関してドキュメントを発行予定としており、EU発で戦略的な金融規制・監督姿勢が発信されることに期待したい。
●JPMorgan, Citi, BNP ParibasがCLSNetに参加へ
Actinver, BNP Paribas, Citibank, JP MorganがCLSが提供するFXネットワークCLSNet に参加すると発表した。CLSNetとは分散台帳技術を利用して国際送金の迅速化を目指すサービス。昨年にGoldman Sacksとモルガン・スタンレー社間でのFXネッティングシステムを提供開始したのち、参画企業は徐々に増加を続けており、これで9社が参画したことになる。
CLSは従来よりFX清算・決済サービス提供者としてCLSClearingシステムを70社以上の参画機関に対してサービスを提供しており日次で5兆円を超える取引高を記録していた。
そんな、CLS社が分散台帳技術を利用したCLSNetシステム開発に至った背景として、分散台帳を利用した規格統一によるネッティング分野での対応通貨拡張、清算と決済部分の疎結合化がある模様だ。現在のCLSClearingでは対応通貨が18のみに限られており、新興通貨などに対応できていない問題があった。理由として、カウンターパーティリスクなどの考慮から新興通貨を清算・決済システムに載せられていなかったと想定される。今回、DLTを利用することによりネッティングを利用した流動性確保とともにカウンターパーティリスク削減による、FX取引の効率化・対応通貨の拡大を目指す。また、これにより既存対応ペアにおいても日中流動性の最適化を目指すほか約定・清算における確認オペレーショナルコスト削減についても目指しているとのこと。
ただし、現在のCLSNetの機能では決済部分まで対応できておらず、決済はやり取りする銀行同士でSWIFTを使った送金を行う形式を取っている。これは、現在デジタル通貨が存在しておらず決済部分はDLTを利用できないことに由来している。CLS社はR3社にも投資を行なっており、cordaベースで開発が進められているといわれるプログラマブルマネー、Utility Settlement Coinを利用した自動決済が将来的に採用される見通しだ。
技術提供者としてはIBMが参画しており、CLSNetはHyperledger Fabric上で構築されている。Hyperledger Fabricを利用した金融システムというてんで注目されるほか、既存の決済業者が実運用としてDLTを活用している数少ない事例でもあるので、実運用推進に高い期待が持てるほか今後運用に関するニュースや情報がさらに出てくることも期待したい。
● BISより、第18回 BIS Annual Conferenceで行われたスピーチの内容が公開
昨年6月28日にスイスで実施されたBIS Annual Conferenceにて行われたスピーチおよびパネルディスカッションのサマリが、2020年2月12日にBISから正式に公開された。本カンファレンスのテーマとして「The digital economy and financial innovation」が掲げられ、金融領域におけるデジタライゼーションとその影響について、各国中央銀行の関係者からなるパネリスト陣が意見を口述するスピーチと、パネルディスカッションが繰り広げられた。
スピーカーを務めたDeutsche Bundesbank Vice presidentのClaudia Buch氏は、金融領域のデジタル化による収益構造の変化、および競争環境に急激な変化についてスピーチを行った。
世界恐慌以来、金融機関による仲介コストは技術の進歩とともに低下してきた結果、現在、金融機関における競争領域は生産性の向上部分へと変化してきている。今日にかけて競争が進んだ結果、破綻することで金融システム全体に影響を及ぼしうる「too big to fail」な銀行が登場したことで、金融安定のレジームに重大な変化が起きたことについても示唆している。
一方で、競争に晒された中小銀行が過度なリスクテイクに走ることによる金融の不安定化についての懸念も発生しており、「too many to fail」という概念について紹介した。ここに加えて、幅広い金融サービスを提供することで顧客基盤を保持してきた従来の金融機関と対比する形で、昨今のかつてない量のユーザーデータを保有する巨大なIT企業による金融領域への進出が進行することで、さらなる競争の激化も展望されていることについて述べる内容となっていた。
香港金融当局の前Chief ExecutiveであるNorman Chan氏は、DLT(分散型台帳技術)が金融領域にもたらす影響について、またCBDC(中央銀行デジタル通貨)に関してスピーチを行った。
Chan氏は、価値的裏付けのない暗号資産については決済手段として認められる可能性が低いことについて触れつつ、近年人々の関心がCBDCへと移行していることについて述べ、一般決済で利用するリテール型のCBDCについては既存の安定的で高速な決済インフラが存在することから、導入する利点が多くないとの意見を表明した。合わせて、CBDCを導入することによって別種の金融リスクが発生することについても念頭に置かなければならない点について述べている。
一方で、昨今のステーブルコインの人気の高まりから、国際送金における既存決済システムの課題について捉えつつも、DLTを導入することによるモニタリング難易度の向上を課題視し、DLT時代における効率的な監督手段の確立の必要性について述べている。各国でCBDCに関する検討が進められている一方で、具体的なユースケースに関する議論は今後登場する可能性がある。引き続き、中央銀行関係者のオピニオンについて注目していきたい。
Section2: ListUp
1. Regulation : 規制動向
●米FinCEN、スイス秘密口座などの暗号通貨について新たに取締り強化の構え
●自民議員、デジタル日本円を2–3年内に発行すべく計画に織り込むことが必要との主張
2. Crypto Adaptation: 暗号通貨の普及・応用
●Statusバージョン1がGoLive。メッセンジャーとウォレットとブラウザを一体化
●Chainalysis、TetherむけAMLトラッキングサービスをローンチ
3. Decentralized Finance : DEXやトークンなど
●「The Maker Protocol: MakerDAO’s Multi-Collateral Dai (MCD) System」ホワイトペーパー。Maker Vault・オラクルなどのアクター・DSR・プロトコルガバナンスなどについて記載
●DAIの複雑なガバナンスへの問題意識から、ガバナンスを最低限で済ますStablecoinとしてMetaCoinシステムの提案。相違点は「価格オラクル」及び「金利設定におけるガバナンスの役割」
●Aragon、DAOの紛争解決プロトコルAragon Courtをローンチ
4. Programable Security : プログラマブル証券関連
●ConsenSysによるCodefiトークンセールプラットフォームActivateのプロジェクト第一陣として、レイヤー2スケーリングのSkaleNetworkがローンチへ
●JPMorgan、Quorumブロックチェーン部門をConsenSysと統合か、との報道。JPMorganは否定している模様
●イスラエルのテルアビブ証取、Intel SGXおよびHyperledger Sawtooth用いた証券レンディングプラットフォームを計画
●tZEROのトークン株式をOverstock社の配当として分配させる決議が株主総会で可決
●オーストラリアでaリーグに所属するサッカークラブがToken saleで調達した組織に買収される
5. Financial Institutions : 金融機関による応用ケース
●[銀行]ドイツの銀行がデジタル証券決済用のステーブルコインをStellar上に開発へ
●[保険] B3i、災害むけの複雑な超過損害額再保険特約(XoL)含む30の再保険契約を完遂と発表
●[保険]Ant Financial傘下の相互扶助サービスXiang Hu Bao、コロナウイルス対応プログラム開始。ブロックチェーンベースに保険の運用コスト低減・請求効率向上が進展
6. Enterprise/Government : 非金融分野の応用ケース
●Danone、ベビーミルクのトレーサビリティシステムをローンチ。中国および欧州で展開へ
●ローミングディスカウント契約管理でドイツテレコムなど欧州通信会社がブロックチェーンソリューションを試行
●博報堂と朝日新聞ら7社、コンテンツ保護と流通のコンソーシアム発足
7. Startup : 個別プレイヤー・アプリケーション
●Opyn、DeFiユーザー保護へCompoundデポジットむけ保険コントラクトをローンチ。CompoudやMakerDao・USDCなどを利用する際の、暗号通貨やDeFiでの資産管理に付き物の不安(コントラクトのハッキング、管理者の鍵盗難なと)を軽減
8. Articles : 論考
●金融から非金融分野へ ブロックチェーンの活用実態とその課題を知る
●ConsenSysによるケーススタディ集。金融系からガバメント・アイデンティティ系、インフラ、スマートコントラクト、ソーシャルインパクトまで
●中国、不動産登記・債権債務管理・相互扶助・防疫情報管理・トレサビ・寄付管理などの商用利用を次々に進めた上で、尚も「ブロックチェーン産業の進展は”遅い”」と
●中国で進展する「産業技術金融」。ブロックチェーン・IoTデータを連携通じて、資本フロー、情報フロー、ロジスティクスデータを接続し、医療業界・服飾業界など業界向けに中小企業金融を提供
●MarcoPoloのTradeIX社によるエンタープライズブロックチェーンの解説動画
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