今週の注目トピック
Eisuke Tamoto(@coin_ettomato)より
今週のBiz編にはデジタル中銀マネー(CBDC)に関するニュースが二つリストされました。先日newsletter特別号でCBDCに関連するリンク集を発刊しましたが、世界各国の中央銀行によるCBDCへの動きは日に日に活発になっております。その他、ドイツ連邦銀行による担保資産取引の動きについてもpickされています。証券発行に限らず、金融分野全体に対してブロックチェーン、DLTが活用されています。キャッチアップにぜひご覧ください。
Section1: PickUp
●ConsenSys社、Davos会議で中銀デジタル通貨のホワイトペーパーを発表
ConsenSys社が「中央銀行とデジタルマネーの未来」と題するホワイトペーパーをリリースし、世界経済フォーラムDavos会議で発表した。Ethereumブロックチェーン上における中央銀行デジタル通貨(Central Bank Digital Currency:CBDC)のデザイン概要について提案するものであり、その骨格について俯瞰してみる。
この10年間における暗号通貨ならびにブロックチェーン技術の勃興は、マネーの発行ならびに利用のあり方、ならびにデジタルアセットという新たなアセットの形態について、新たな可能性をもたらしてきた。中央銀行が発行するデジタル通貨(CBDC)についても、規制のもとに、低リスクでアクセスしやすい方法でもって、金融市場をより効率的かつグローバルに利用可能なものへとしていくという意味で、デジタルアセット経済圏において重要な役目を果たしていくことが求められるようになってきた。そうした情勢のもと、CBDCをEthereumブロックチェーン上に実装する具体例を示したのが、以下の内容である。
まず、CBDCの流通スキームについてみてみると、CBDCを一般に直接流通させず、中銀の任命する仲介者がノードとして、単一プラットフォーム上で協働しながら有益なサービス提供へ向け競争していく環境が想定されている。仲介者としては、現在の中銀マネーより広範なスコープで非金融機関も含むとしている点がユニークだ。
次に、CBDCに求められる要件として、8項目が挙げられている。この中では、先日ECBから提案されたペーパーで提案された「金額に応じたプライバシーレベルの使い分け」が盛り込まれている点が特徴的。また、CBDCを巡ってよく話題になる「商業銀行への資金流出懸念」についても考慮するよう示されている。
あわせて、技術要件としては、CBDCとしての特性上、供給量コントロールやKYC/AMLおよび必要な場合の巻き戻しなどを明示している点が特徴的。
これらを踏まえ、全体アーキテクチャとして下図の4階層モデルを提唱。第1層(PoAベースの許可型Ethereumブロックチェーン)、第2層(Statechannel)、第3層(各仲介者によるSidechain)、第4層(サービスプロバイダによるユーザーインターフェース)となっている。
出所:https://cdn2.hubspot.net/hubfs/4795067/Enterprise/ConsenSys-CBDC-White-Paper_final_2020-01-20.pdf
今回ホワイトペーパーとして提唱した上記のデザインをもとにして、ConsenSys社が自社あるいは中銀と協力してCBDCを発行するかどうかは明示されていないものの、今後の具体的実装にむけたアプローチに期待したい。
●ドイツ連邦銀行がDLTを利用した担保管理に関する実証レポートを発行
ドイツ連邦銀行がドイツ証券取引所グループと共同で担保資産取引管理におけるDLT活用についてレポートを発表した。このレポートは、両社で2016年以降取り組みを続けているBLOCKBASTER (Blockchain-based Settlement Technology Research)プロジェクトの一環として発行された。
このレポート内では、既存の担保資産取引の状況や課題とともに、DLTをどのように活用できるかについて「エクスポージャー分野」「カストディ(信託)分野」「第三者監督機関分野」「担保資産表象トークン分野」などいくつかのレイヤーに分けて解説している。特に、担保資産表象トークン分野においては、担保資産をトークンで表象することにより、資産譲渡に必要な情報のリコンサイルを減らし譲渡の迅速化を可能にすると説明されている。更に、資金決済との関係についても分析が行われており、資金と資産を表象するトークンのチェーン選定について同一チェーン、クロスチェーン両者のパターン比較などが行われている。
また、このレポート内ではDLT実現のための課題についても語られており、「既存規制との整合性・既存ビジネスプロセスとの整合性」を担保しつつどのようにユーザにとって価値のあるものにするのかと言うDLTを利用したビジネスデザイン設計が課題として挙げられている。
新規証券発行のトークン化の枠に留まらず、既存の資産についてもDLTを活用・トークン化させる動きも見られている。例えば、ドイツ証券取引所はHQLAX社とともに担保資産取引の分野におけるDLT開発を行なっているほか、バークレイズ社が支援するCrowdz社が請求書ファイナンスのDLT活用、そしてマーケットプレイスサービスの提供開始を先日発表するなど開発が盛んに行われている。DLTによって金融の流動性が今後どのように向上していくのか、様々な分野で期待は高まっている模様だ。
●日銀を含む6つの中央銀行が、「CBDCの活用可能性を評価するためのグループ」を立ち上げへ
2020年1月21日、日本銀行を含む6つの中央銀行(欧州中央銀行、イングランド銀行、リクスバンク、スイス国民銀行、カナダ銀行)とBIS(国際決済銀行)が、「CBDC(中央銀行デジタルマネー)の活用可能性を評価するためのグループ」の立ち上げを行うことを発表した。日銀の発表によると、本グループでは、CBDCの活用のあり方や、クロスボーダーにおける相互運用性、機能面や技術面での設計に関して、選択肢の検討と評価を進め、知見共有を行っていくと表明されている。
昨年6月のLibraの発表以来、中国やフランスなど、CBDCの発行方法に関して具体的な検討を進めている旨の発言を行う中銀が世界各国から登場している。また、民間サイドからも米ドルCBDCの発行方法について検討するDigital Dollar Projectが立ち上がるなど、活発な動きが続いている。(Issue #42で紹介。)
日銀は、欧州中銀と共同でリアルタイムグロス決済の領域におけるDLT(分散型台帳)適用の実証実験を3フェーズに渡って実施してきている他、CBDCの発行における法的課題に関する研究についての報告書も公開しており、技術面・法律面の双方から研究が進められている様子が伺える。ECBからは、民間主体で提供されるデジタルマネーによって金融の安定にリスクが生じることを提唱するペーパーが公開されている他、イングランド銀行からは新たな金融政策の手段としてのCBDCの有効性を検証しようとする旨のペーパーが公開されるなど、昨今世界の中銀では、CBDC発行の現実性検証について、様々な観点から研究が進められている。
BISは2018年より、各国中銀に対してCBDCの発行意欲について問いかけるサーベイを行っている。最新版である2020年1月の結果では、「短期的(1~3年以内)に一般決済で利用可能なCBDCの発行を検討している」と回答した中銀が10%に登り、昨年比で倍増する結果となった。また、「中期的(1~6年以内)」にまでスパンに広げると、検討している中銀は20%に登っていることも明らかになり、今後もこの動きが他の中銀にも続いていくことが予想されるため、引き続き注目していきたい。
Section2: ListUp
1. Regulation : 規制動向
●カナダ銀行、イングランド銀行、日本銀行、欧州中央銀行、スウェーデン・リクスバンク、スイス国民銀行、国際決済銀行(BIS)が、中央銀行デジタル通貨の活用可能性の評価に関する知見を共有すべくグループを設立
●世界経済フォーラム、中銀デジタル通貨の政策立案者むけツールキットを発表
●世界経済フォーラムWEF、デジタル通貨ガバナンスのフレームワーク設計に向けたグローバルコンソーシアム設立を発表
●国際決済銀行BIS、66の中銀に対して行った中銀デジタル通貨のサーベイレポートを発表
●MIT Digital Currency Initiative、中銀デジタル通貨における非中央集権性・プログラム可能性・プライバシーの適用について、ペーパーを発表
●自民党、デジタル通貨の個人情報保護やマネロン対策を主な論点として、今春目処に提言をまとめるとのこと
2. Crypto Adaptation: 暗号通貨の普及・応用
●Bakkt、「コンシューマ向けアプリ」年内ローンチをDavos会議で発表
●OECD、「アセットのトークン化と金融市場にとっての意味」と題したレポートを発表
3. Decentralized Finance : DEXやトークンなど
●Set Protocol、ユーザーとマーケット専門家をつなぐソーシャルトレードプラットフォームをローンチ
4. Programable Security : プログラマブル証券関連
●デジタルアセットのプライマリープラットフォームTokeny、トークン化ソリューション提供でPwCルクセンブルクと提携
●Tokeny、共有インフラ上で発行者などを識別するアイデンティティシステムをローンチ
●The Security Token Group、2019年のセカンダリートレードプラットフォームに関するレポートを発表
●スイスSIX傘下でデジタルアセットプラットフォーム開発進めるSDXで、役員の離脱
●TokenSoftによる、証券をブロックチェーン上で管理するに際しての「ロール」「トランザクション制約」および「これらに対応するブロックチェーン」についてまとめ記事
●Transfer AgentのVertaloが開発基盤をEthereumからtezosへ乗り換え
●リヒテンシュタインがEthereumベースの不動産ファンドを認可へ
5. Financial Institutions : 金融機関による応用ケース
●Standard Chartered、深圳のサプライチェーンファイナンスプラットフォームLinklogisへ出資
●香港HKMAとタイ中銀、クロスボーダーペイメントProject Inthanon-LionRockの結果報告レポートを公表
●中国の郵政貯蓄銀行(中国邮政储蓄银行)と中国建設銀行が、forfeiting(ノンリコースファイナンス)プラットフォームを開発したとの報道
●リトアニア銀行、NEMを採用した独立記念銀貨のサンプルを公開
●三井住友信託、ブロックチェーン技術を導入した不動産ビジネス実証実験第2段階を開始
●Crowdz社がブロックチェーンを使ったinvoiceファイナンシングサービスを提供へ
6. Enterprise/Government : 非金融分野の応用ケース
●ドバイ政府、ブロックチェーンに関する市民啓蒙へSiemensと協業
●TradeTrustブロックチェーンフレームワーク構築へ向けてICCおよび官民複数社が合意
●穀物メジャーABCDとも言われるADM/Bunge/Cargill/Dreyfus等によるアグリコンソーシアムCovantis、ConsenSysを技術パートナーに選定
7. Startup : 個別プレイヤー・アプリケーション
●KnownOrigin、NFTを用いたアートプラットフォーム
8. Articles : 論考
●続・Why Blockchain 証券ポストトレードにブロックチェーンを適用する意味
●決済インフラ領域のイノベーションと規制に関するBoEのスピーチの書き起こし
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