今週の注目トピック
Eisuke Tamoto(@coin_ettomato)より
今週のbiz編の解説には、貿易金融、保険、スマートシティといった多様なジャンルでの実用化へのニュースが並びました。今週も中国関連のニュースが複数pickされており、昨年秋以降からの中国での実用化トレンドが日々加速していることがわかります。一方、komgoの事例は日本企業も含む世界各国の金融機関が参画しており世界的なネットワーク形成にむけてどのように発展していくのかが注目されます。
Section1: PickUp
●komgoのコモディティ向け貿易金融プラットフォームがゴーライブ
Komgoはコモディティトレードファイナンスをデジタル化すべく2018年に設立された独立ベンチャー。2017年から2018年にかけて行われたコモディティ取引におけるINGのEasy Trading Connectプラットフォームにおける試行をもとに設立された。15社で構成される株主にはING・BNP Paribas・Citi・Shellの他、日本からMUFGが名を連ねる。システムはConsenSysが設計開発を担当し、エンタープライズBaaSプロバイダKaleidoのEnterprise Ethereumブロックチェーン技術を利用して構築された。
貿易において交わされる書類には、船荷証券:B/L(オーナーの代わりにコモディティを保持していることを運送会社が証明)のほか、銀行からの支払いを保証する信用状:L/Cなど、膨大なものがある。貿易金融において、輸入する会社の信用力を銀行が保証する書類である「信用状」は必要不可欠なものだが、企業によって発行を依頼する書類の様式が異なり、紙での管理も多かったため、内容の確認に手間がかかることが問題視されている。
ブロックチェーンを用いることによって、全参加者がオペレーションの進捗をリアルタイムでモニタリングすることができ、データの検証や、不正リスク低減、キャッシュサイクル短縮が可能になる。
具体的には、komgoプラットフォームはデジタル信用状とKYCという2種類のプロダクトを提供する。デジタル信用状はデジタル取引データおよび書類を銀行へ提出できるものであり、KYCソリューションは、KYCプロセスを標準化し、中央データベース無しにドキュメント交換を可能とするもの。
komgoシステムを使うことで確認作業が簡素化し、取引の関係者どうしで進捗を随時確認できる。定量効果として、「信用状の発行にかかる時間を従来の5分の1程度に短縮」「信用状と船積みなどに関わる書類の照合にかかる時間も6日から1日程度に短縮」「企業の身元を確認する審査業務も22日程度から10日未満に短縮」などが期待されている。
国内では、三菱UFJ銀行も導入し、2019年末に同基盤を用いて信用状を発行済みであり、2023年までに行内の取引残高の3割程度を移行予定。
コモディティ取引の分野では、香港証取HKEXグループQMEが、倉庫証券向けにAntFinancialとコンソーシアムを立上げたことも興味深い。ブロックチェーンを用いてコモディティのライフサイクル通じた透明性を提供することによって、金融機関むけには担保への二重利用防止やリスクプロファイル改善に寄与するほか、倉庫証券をもつ企業はデジタルアセットに変換して担保として利用できるとしている。
日本企業がデジタル化に取り組む上で、komgoの考えるデジタル化の考え方は示唆に富んでいる。komgoは、既存ソリューションを単にデジタル化して同様のプロダクトを生み出すことがゴールではないとしている。例えば、L/Cフォーマット上に自動マッチング機能を有したスマートコントラクトをセットアップするなど、より高速でより効率的な形でデザインされたプロダクトを生み出すことを志向している。この他、receivables discounting(売掛割引)ソリューションを追加するほか、プラットフォーム上に保険を組み込むことを検討しているとのことだ。
ブロックチェーンの効用をうまくいかして、新たなプロダクトを生み出していく取り組みが続くことを期待したい。
● 中国国家の提供するブロックチェーン「BSN」が2020年4月に正式ローンチ予定であると発表される
2020年1月7日、国立情報センタースマートシティ研究科の唐斯斯氏が、中国国内で展開予定となっているBSN(Blockchain-based Service Network)が、2020年の4月に正式ローンチ予定であるとの発言を行ったと新浪財経が報じた。
BSNは、中国国内の都市や企業、公共機関など、複数のプレイヤーを跨いでの活用を想定したブロックチェーンインフラであり、中国の国立シンクタンクであるSIC(State Information Center)や、China Mobile、Union Payなど、複数の国有企業が中心となって開発を進めている。2019年9月に公開されたホワイトペーパーによると、BSNを開発する目的としては、導入時における技術的ハードルを下げることによる、ブロックチェーンインフラの急速な普及と拡大を実現することであるとされている。
2019年10月から2020年3月にかけては、BSNの内部テストを進行させるフェーズとなっており、およそ400もの法人と600人もの開発者を巻き込んで、開発が進められると報じられており、実証実験の場としては、杭州が選ばれることについても明らかになっている。杭州はアリババのベッドタウンとしても知られており、2016年よりアリババクラウドを用いたスマートシティの開発が盛んに行われている。今後、BSNが登場することによって、中国の他の都市部において、ブロックチェーンを用いたスマートシティの開発が加速していく可能性があるため、今後も引き続き注目していきたい。
●中国でブロックチェーンの保険分野への応用に向けてスタンダード作成のコンソーシアム形成へ
The Shanghai Insurance Exchangeの主導で、保険業界のブロックチェーン活用に向けてスタンダードを制定するためのラウンドテーブルが開催された。Corda R3を利用して保険コンソーシアム形成を目指すB3iなどの取り組みがすでに誕生しているが、今回はそれの中国版に当たる。
今回のコンソーシアム形成に向けて中国全土から109の機関が参加していると言われている他、スタンダード策定においては中国銀行業保険監督管理委員会が主導すると説明されており政府機関のイニシアチブも利用される模様だ。ただ、中国大手でブロックチェーン活用への取り組みも進めている中国平安保険の参加は今現在では決まっておらず、同社もノーコメントのままである。
今回のコンソーシアム形成を通じて、「保険分野でのブロックチェーン活用におけるフラグメント化防止」「スタンダード乱立による将来的な拡大可能性の阻害を排除」「スタンダード統一による同業他社同士での競争促進」が目的にされている模様だ。The Shanghai Insurance Exchangeが開発する保険むけ独自ブロックチェーンをベースに各社がアプリケーションを開発する流れになるのではないかと予測されている。
銀行、証券決済分野で実用化の流れを直近のニュースレターで紹介してきたが、どのプレイヤーも独自でネットワークを作っていく流れだった。その一方で保険の分野は当初からコンソーシアム形成を行い、その後拡大、発展を目指す流れのように受け取られ、それぞれ異なった流れで実用化が進んでいっているのはとても興味深い。保険の分野でも中国の事例は、見逃せなさそうである。
Section2: ListUp
1. Regulation : 規制動向
●シンガポールと中国の証券監督機関が規制策定に向けてラウンドテーブルを開催
MASとCSRCとが両国の証券規制を更新していくことを目的とした四度目のラウンドテーブルが開催され、その中でブロックチェーンの金融市場への応用についても議論が行われた
●IMFエコノミスト、デジタル通貨はドルの支配力に取って代わるものではないとの見方
●韓国第4産業革命委員会(PCFIR)、デリバティブのような仮想通貨商品の提供を金融機関に許可すべきと提案
2. Crypto Adaptation: 暗号通貨の普及・応用
●ベルリンのクリプトバンクBitWala、Bitcoinに加えてetherもサポート
●SBIホールディングスとGMOインターネット、テキサスでマイニングへ。当初300MWから開始し2020年末には1000MWへ拡張予定
●フレセッツ、秘密鍵をHSM(Hardware Security Module)で管理できるアップデートを実施
3. Decentralized Finance : DEXやトークンなど
●CoinbaseによるDeFi入門記事。主要プライヤーとしてMakerDAO、Compound 、Uniswap 、Augur、Synthetix、PoolTogetherの概要紹介
●BitfinexのEthfinexがスピンアウトしたDeversiFiのDEX、StarkWareとのインテグレーション通じてトラストレス保ったまま高パフォーマンス提供へ
4. Programable Security : プログラマブル証券関連
●NBAプレイヤーSpencer Dinwiddieの年俸PSがついに発行へ
NBAプレイヤーSpencer Dinwiddieの年俸契約を担保にしたPSがついに発行されると発表
NBAから、規約違反であるとしてPS発行をやめない限り契約解消のプレッシャーをかけられていたが、3ヶ月遅れで発行の決行へと踏み切った
PS発行を通じて、自らのファンコミュニティ形成と、プロ選手の新たなマネタイズ手段の形成とを実現することが目標だと説明されている
●Prime TrustがPSを利用した不動産証券化領域参入のために、PrefLogic社と提携へ
5. Financial Institutions : 金融機関による応用ケース
●Signature BankとPrime Trustが企業の即時支払いサービス提供に向けて提携へ
ニューヨークに拠点を置く商業銀行のSignature Bankが自社が提供するSignet決済プラットフォームにPrime Trust社が提供するマルチアセット決済サービスを連携させると発表
顧客に対して即時決済サービスを提供したいSignature Bankの思惑と、暗号通貨取引所以外に開拓を進められていないPrime Trustの思惑が一致した形か
●平安保険、深圳市税務局と課税システムローンチへ。新たな課税管理システムを通じてスマート納税モデル構築をめざす
平安保険と深圳市税務局が、ブロックチェーンおよびAI・ビッグデータ・クラウドコンピューティング等を用いてグレーターベイエリア(粤港澳大湾区:香港・マカオ・広東省珠江デルタ)におけるあらゆるタイプの納税者むけ課税管理プラットフォームを開発する合意に署名
同地域における統合的課税管理にむけた新システムを両者で合同開発
深圳ではブロックチェーン案件のETFも予定していることが発表されたばかり
●R3社、イタリアの全銀行システムの銀行間決済をCordaブロックチェーン上で実施へ
6. Enterprise/Government : 非金融分野の応用ケース
●オーストラリア政府がブロックチェーン応用のロードマップを発表へ
●Tradelens、海運業者間の協業制限につき、連邦開示委員会によりアンチトラスト条項の例外としてクリアできたとのこと
●Propy、米バーモント州で不動産登記トランザクションのトライアル実施。バーモント州では2018年に土地レコードへのブロックチェーン利用可能性について法案通過済み
●ISID、地域農産品の生産履歴と取引状況を可視化する、 スマート農業データ流通基盤「SMAGt」を開発
7. Startup : 個別プレイヤー・アプリケーション
●Thank My Farmer、コーヒー豆のサプライチェーン管理のモバイルアプリ
8. Articles : 論考
●エネルギー業界×ブロックチェーン -Corda活用事例紹介-
9. Future Events : 注目イベント
●CESDigital Money Track(1/7 at LAS VEGAS)
●Hong Kong Blockchain Week(3/2–3/6 at Hong Kong)
●Consensus(5/11–5/13 at New York)
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