LayerX Newsletter 【年末企画】2019年のブロックチェーン実用化事例を振り返る

ブロックチェーンの応用については「実証実験どまり」「実用化はまだ先」という意見を依然として耳にする一方、実用化局面の実例が数多く公知のものになってきている。今回は、2019年1月から11月を振り返り、実用・商用レベルで世に出た取り組みについて概観したい。

PS(Programmable Securities)分野

まず、PS(Programmable Securities)分野から見てみよう。世界銀行が、2度目のブロックチェーン債を発行し5千万豪ドルを調達した他、HSBCが紙上で管理されていた200億$の資産をブロックチェーンカストディ上で管理していくことを発表した。中国の大手商銀である中国銀行は、中小事業者支援を目的とした2800億円規模のブロックチェーン社債を発行しており、スペインSantander銀行もPublic Etherum上で社債を2000万$分発行。また、プラットフォーム面でも、14の大手商業銀行が参加するFnalityプロジェクトが2020年のローンチに向けて推進中であり、欧州証券決済機関Euroclearは、社債発行プラットフォームを開発中である他、スイス証券取引所もデジタル証券のプラットフォームのテスト版をローンチするなどプラットフォーム整備も進んでおり、この分野は金融機関・中央機関を交えて熱い取り組みが繰り広げられている。

貿易金融(トレードファイナンス)分野

次に、貿易金融(トレードファイナンス)分野では、UBSによる貿易金融向けWe.Tradeや、貿易金融プラットフォームMarco Polo Network、コモディティむけトレードファイナンスプラットフォームKomgoなどが稼働開始を見た。またこれに先立って稼働していた中国では、その実績が着実に積み上がっており、中国人民銀行のブロックチェーン貿易金融プラットフォーム、取引処理額が1兆円超えとのこと。特に、中国建設銀行では、一昨年にローンチしたトレードファイナンスプラットフォームのアップデートが準備されており、次期バージョンは、ファクタリングやクロスチェーン接続を盛込予定となっている。これ以外にサプライチェーンファイナンス関連の取組も多く登場しており、中国浙商銀行が、製薬会社とサプライチェーンファイナンスソリューションを構築した他、シンガポールDBSもブロックチェーンベースのサプライチェーンファイナンスサービスを発表している。中小企業むけ融資の分野でも、Ant Financialが融資審査時間を3か月から最短1秒に短縮したと報道された。平安保険グループのブロックチェーン子会社OneConnectも、レンディングプラットフォームをフィリピン・インドネシアで発表している。この他に新韓銀行も貸付プラットフォームを公開した。

クロスボーダー送金分野

クロスボーダー送金分野では、JP Morganによる、クロスボーダーペイメントネットワークIIN(Interbank Information Network)には220行が参加予定となっている。IBMがローンチしたBlockchain World Wire(BBW)は、47種類の通貨をサポートするほか、Visaも、クロスボーダーB2Bペイメントネットワーク「Visa B2B Connect」ローンチを発表した。

デジタルアイデンティティ・KYC分野

デジタルアイデンティティ・KYC分野では、カナダの五銀行を交えてSecureKeyによるブロックチェーンベースのアイデンティティシステム構築が進んでおり、「Verified.Me」と呼ばれるアプリケーションを通じて、ユーザーが金融データを他社と共有し、アイデンティティを証明して銀行口座開設・医療記録アクセス・携帯電話購入・公共サービス利用に使うことができる。これ以外にも、韓国でも、韓国金融決済院によるDID(分散型アイデンティティ)には、銀行および証券会社・保険会社およびFinTechサービスをふくむ30の金融機関が参加するほか、カナダ・オランダ政府、観光客の識別して好みのサービスを提供すべく「Known Traveller Digital Identity」展開といった動きが出ている。ブラジルの銀行でも、Hyperledger上で銀行むけID認証プラットフォーム「Device ID」がローンチされている。

保険分野

保険分野では、B3iコンソーシアムが、財物災害超加損害再保険むけプロダクトv1.0をリリースし、保険会社・ブローカー・再保険会社の間における各種やりとり・交渉を効率的・安全に行えるようになっている。また、Bank of Chinaの保険部門がローンチした保険ブロックチェーンでは、すでに400万件以上の保険証券を蓄積し、保険証券の相互承認を促すものとなっている。中国の平安保険は、傘下のFinTech企業OneConnectより、ALFAスマートコントラクトクラウドを発表した。これは、保険・デリバティブ・資産担保証券などについて、業務プロセス全体の契約テンプレートを登録し、自動的にコントラクトデータを契約パーティのノード間で同期するほか、内外のデータに基づいてアセットや組織のステータスが変わるとリスクアラートを起動することによりリスク検知・コンプライアンス対応を行う仕組みを備えるものとなっている。

非金融分野

金融機関以外でも様々な実例が登場している。例えば中国メルセデスベンツは、中古車の残価自動計算・売却価格提示プラットフォームを開発した。これは、中古商用車がそれぞれ保有するデータを保存した上で、その時点における車の残存価値を自動計算し、売却価格を提案するものだ。トレーサビリティ・トラッキング系では、LVMHがラグジュアリー商品向けにAURA、カルフールが乳製品向けにCarrefour Quality Line、De Beersがダイヤモンドサプライチェーン向けにTracrを開発している。Volvoはバッテリー原料コバルトをブロックチェーンを用いて追跡可能とした。また、中国では、JDによるJD Chain上で稼働するトレーサビリティソリューションZhiyiが既に700ブランド・60000SKU取扱の実績を持つ他、「独身の日」には、Ant Financialのブロックチェーンがトレーサビリティを始め著作権管理やサプライチェーンファイナンスで活躍したと報道されている。Walmart Canadaは、トラック業者70社との配送データ共有ソリューションを開発した。IBMは、サプライヤーの資格情報(ISO証明・銀行口座・税務証明・保険証書)を共有管理するプラットフォーム「Trust Your Supplier」を発表した。権利管理の分野では、ソニーミュージックが音楽の権利情報処理システムにAmazon Managed Blockchainを採用したほか、アステリアが、株主総会の議決権投票システムにEthereumを採用して本番導入している。

公共分野

最後に公共系の取り組みをみておく。中国の浙江省では、6000億円相当の医療費についてAnt Financialのブロックチェーンを用いて請求書を発行したことが発表された。文書発行・承認時間の短縮を通じ、請求書の発行・支払いにかかるスピードが96倍になったという。同じく中国の深セン市では、ブロックチェーン式電子領収書を深センの地下鉄へ導入されている他、ブロックチェーンベースのtax invoice(課税額が分かる正式なインボイス)が昨年のローンチ以来1000万件にのぼると発表されている。これ以外にも、シンガポールでは学位デジタル認定書の導入が発表されたほか、ドバイ経済開発省はブロックチェーンベースの法人登記システム(Unified Business Registry Platform (UBRP))を開発するといった動きがある。証明書の取り組みでは、中国の深圳市では、行政アプリ「i深圳」でブロックチェーンを活用した住民票や戸籍などの「証明書」サービスが展開されている。中国ネット裁判所では、既に1.94億件以上の証拠保全データがブロックチェーン上に保存されているという。

今後の展望:2020年にむけて

このように、「実用化はまだ先のこと」といっていた2014年から2018年を経て、金融のみならず製造業や公共分野でも、多くの実用事例が登場し、なおかつ具体的な数値を以って導入効果(処理スピード向上など)が明示されるようになっている。特に数ヶ月間はこうした事例が増えてきているということを踏まえると、2020年にはますます加速・拡大することが見込まれ、日本においても更なる具体的な取組事例・成果が相次ぐことを期待したい。

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