衆院選へ盛り上がるインターネット投票の期待・課題/医療研究者の課題解消に向けた合成データ活用
LayerX Labs Newsletter for Biz (2021/09/01-09/07) Issue #122
今週の注目トピック
Takahiro Hatajima(@th_sat)より
衆院選にむけて盛り上がるインターネット投票にむけた期待と課題について紹介します。
あわせて、医療研究者の課題解消に向けた合成データの活用について紹介します。
Section1: PickUp
●衆院選にむけて盛り上がるインターネット投票をめぐる期待と課題
衆院選にむけて、インターネット投票にむけた期待の声を目にする機会が多くなった。
日経BPが「ネットでできたら便利だと思う行政サービスを挙げてください」 という題目で10代~70代の2065人を対象に実施した調査によれば、首位は「住民票(登録・取得・受け取りなど)」・2位は「ネット投票(オンライン選挙)」となっており、行政のデジタル化の一環として期待の高さがみてとれる。
また、「Yahoo!ニュース みんなの意見」では「選挙のネット投票、賛成?反対?」と題して、「ネット投票の実現について、あなたはどう思いますか?」と問うている。実施期間は2021/8/26〜9/9であり、9/9夜の時点で、24,815人が投票しており、賛成70.3%(17,443票)・反対26.2%(6,492票)・わからない/その他3.5%(880票)となっている。
ここで反対の理由を見てみると、「投票の秘密と投票の自由が担保出来ないから」「ダブル投票や、なりすましを無くす対策など公平性や厳密性をどうリンクさせてゆくのか?」「本当にその投票が本人の意思なのか確認が困難。」「本人確認も出来ず不正選挙の温床となるのが目に見えている」といったように「投票の秘密」に加えて「1人1票の保証・本人確認・なりすまし」といった不正への懸念の声が多いことが見てとれる。
投票システムを巡る投票者の懸念として、<弊害になっている問題は技術的なものではなく、「心配や不安」である>という見方がある。インターネット投票にむけて聞かれる心配や不安の声の代表的なものとして「サイバー攻撃への懸念」「選挙結果の集計操作への懸念」および「秘密保持」が挙げられ、以下に順に紹介する。
1. サイバー攻撃への懸念
2. 選挙結果の集計操作への懸念
3. 秘密保持
千葉県の熊谷県知事が、ネット投票における投票の秘密保持について言及しいており、具体的には「現行の方法では有権者が投票所において他者からの圧力などを受けずに投票する環境が保証されていますが、ネットとなった場合、その投票する人の周りがどのような環境かが分からず、例えば社長からある特定候補者への投票を強要することも可能になります。」と指摘している(出所)。
こうした意見を踏まえ、政治家目線では、次のような意見が指摘されている。
「各種業界団体などの支援を受ける政党も多いことから、利便性の向上による投票率の向上が必ずしも歓迎されないという構造も、公職選挙においてネット投票が進まない阻害要因ではあるものの、少なくとも大多数が安心して使えるシステムのオンライン選挙でなければ、政治家が首を縦に振ることはないため、法改正に必要となる政治家の動員には、大多数が心配なく安心して使える環境づくりが必要」
では、心配なく安心して使えるインターネット投票のためには、何が必要となるだろうか。
たとえば、東京新聞の記事「コロナ禍でネット投票に待望論 野党が法案提出、与党内は賛否交錯」によれば、「なりすましや、意に沿わない候補者への強制的な投票などの不正に関しては、後から修正できる仕組みとすることで防ぐことは可能」とある。エストニアにおいても、選挙期間中であれば何度でも投票でき、最新の票が採用されるようになっており、こうした仕組みを取り入れることが考えられる。
「秘密保持」については、コンフィデンシャルコンピューティングのように、投票内容の秘匿性を担保したまま、集計の作業を可能とする技術の応用が考えられる。ただし、集計がブラックボックスになってしまってはいけないため、同時に透明性の確保も重要だろう。
また、「サイバー攻撃」「選挙結果の集計操作」といった不正に対する懸念は、「不正が起きてないことを有権者が自分で確かめられる」ことによって、「票が捨てられた」「改ざんされた」「不正に水増しされた」等の水かけ論が無くなることが考えられる。インターネット投票の透明性の意義は、こうした不正に対する安心感の提供においても重要と考えられる。
このように、インターネット投票の導入にむけて障壁となるであろう「心配や不安」に対して、どのように安心材料を示すことができるかが重要であり、今後のインターネット投票をめぐる動向に注目したい。(文責・畑島)
●医療研究者の課題解消に向けた合成データの活用
オタワ大学の伝染病学者であり、イースタンオンタリオ小児病院研究所のシニアサイエンティストでもある、エル・エマムが創業したReplica Analytics社が、機械学習アルゴリズムを用いて、実際のデータセットに見られる統計的特性やパターンを忠実に再現した「合成データ」を生成するソフトウェアプラットフォームを開発した。
Replica AnalyticsのウェブサイトではCovid-19の合成データを生成するデモが公表されている(出典)
まず実際のCovid-19の事例データを読み込む
このデータには患者の地域、年齢、性別、感染経路、ステータスなどが含まれている。
次に合成手法をアップロードする。ソフトウェアが自動で生成してくれるため、通常は手動で設定する必要はない。
さらに合成データと元のデータの類似度に寄与するパラメータも設定する。
合成データの有用性を把握するため、実際に生成した合成データと、元データの統計量を比較する。
まず症例数の推移については、下記の通り、トレンドがほぼ一致している。
さらに年齢の分布を見ると、こちらも分布がほぼ一致していることがわかる(右が合成データ)
つぎに死亡者数の推移をみると、こちらもほぼ一致していることがわかる。
このように生成した合成データは実際の個人とは関係ないデータであるため、自由に分析や共有が可能となる。
Replica Analyticsによれば、合成データは治験の結果を分析する際には実際のデータと同様に優れているが、現実の個人とはリンクしていないため、患者のプライバシーを懸念することなく、より簡単に研究者間で共有することができるという。
2019年に設立され、現在15名の従業員で構成されるReplica Analyticsは、製薬大手のメルク・カナダやアルバータ大学などのパートナーと協力し、合成データソリューションを実際のシナリオで検証している。
Replica Analyticsの主なターゲットは、ライフサイエンス企業、医療機器メーカー、医薬品メーカー、製薬会社のために治験の収集・分析を行う組織など。
今年初め、バルセロナを拠点とし、アーリーステージのヘルスケアスタートアップに投資するベンチャーキャピタルであるNina Capitalからシード資金を調達。
このラウンドには、オンタリオがん研究所や、オタワおよび米国を拠点とする複数のエンジェル投資家も参加しており、同社は今後数カ月のうちにフォローオンラウンドを完了する予定。
同社は、設立直後からキャッシュフローを生み出し始め、2020年には収益を10倍に伸ばし、さらに今年の第2四半期の収益は前年同期比で4倍に増加している。
ベテランの医学研究者であるCEOエル・エマムは、治験を行う組織にとって長年の課題である、プライバシーに関する懸念や、何年もかけて何千人もの患者のデータを必要とする被験者不足に関わる莫大なコストの解消を目指している。
もし研究者が、実際の人間を対象とした研究から得られる情報の一部を合成データで代用することができれば、新薬やその他の治療法を市場に投入するための時間と費用を大幅に削減できる可能性がある。
国内でも治験に関するコスト、非効率さは長年課題となっており、その解決策として推進されたブリッジング試験(比較的被験者の募集が簡単で、知見の効率性も日本より高い海外で治験を行うこと)も「治験の空洞化」と呼ばれる新たな課題を招いている。(出典)
皆保険制度下においては、海外と比較し被験者の参加インセンティブが低く(出典)、被験者が集まりにくいことが課題の要因の一つと指摘されており、今後生活習慣病から患者数が少ない難治性疾患の治験へとシフトする中(出典)でさらに加速する恐れもある。
合成データを活用することで、このような被験者募集の課題や非効率性の解決につながることが期待される(文責:野畑)
LayerX Labsでは、次世代プライバシー保護・セキュリティ技術Anonifyの正式提供に向けトライアルパートナーの募集を開始、合わせて公式ウェブサイトを公開しました。
「Anonify」の公式ウェブサイトはこちら
「Anonify for Insurance」ホワイトペーパーはこちら
LayerXではエンタープライズ向けブロックチェーン基盤を基本設計、プライバシーの観点から比較したレポートを執筆し、公開しています。
基本編のダウンロードはこちら
プライバシー編ダウンロードはこちら
Section2: ListUp
1. プライバシー・セキュリティ
●オーストラリア政府、監視法改正法案を可決。オーストラリア連邦警察(AFP)とオーストラリア犯罪情報委員会(ACIC)が、ネット犯罪に対処する上で以下の権限を与えるもの。
・データを修正・コピー・追加・削除して、データを破壊できる
・対象者が使用している・使用する可能性のある機器・ネットワークから情報を収集できる
・捜査の情報収集目的で、SNS等のオンラインアカウントをコントロールできる
https://tutanota.com/blog/posts/australia-surveillance-bill/
●自宅療養者の個人情報、34都府県が市町村に伝えず…健康状態の確認など難航 : 社会 : ニュース : 読売新聞オンライン
https://www.yomiuri.co.jp/national/20210903-OYT1T50026/
●第184回 #個人情報保護委員会 を開催しました。議題は、「医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報に関する法律に基づく主務省令の変更の協議について」「監視監督について」です。
https://www.ppc.go.jp/aboutus/minutes/2021/210903/
●西村あさひ法律事務所 ニューズレター【第37回】中国「データ安全法」のポイント
https://gentosha-go.com/articles/-/36745
●データ活用を促進する秘密計算技術!その事例と活用5類型 | TECH | NRI digital
https://www.nri-digital.jp/tech/20210907-5528/
2. デジタルガバメント・スマートシティ
●高齢者のスマホ活用促進 すぐ分かる加賀市のデジタルデバイド対策事例
https://media.xid.inc/dx-case/digital-divide-policy-in-kaga/
●マイナンバーカードと電子署名の本(無料配布)
https://www.cuspy.org/diary/2021-09-04-myna-book/
●デジタル庁|第1回デジタル社会推進会議
https://www.digital.go.jp/meeting/posts/zvKTxKMK
●中国 デジタル村建設ガイド1.0: まるちゃんの情報セキュリティ気まぐれ日記
http://maruyama-mitsuhiko.cocolog-nifty.com/security/2021/09/post-cb1073.html
●高齢化に悩む加賀市がめざす「電子国家」 マイナカード交付率は1位:朝日新聞デジタル
https://www.asahi.com/articles/ASP966T52P8FULFA019.html
●スーパーシティを実現する「NEC都市OS」提供開始 - Impress Watch
https://www.watch.impress.co.jp/docs/news/1349654.html
3. デジタル化へむけた政策議論
●官邸|プラットフォームにおけるデータ取扱いルールの実装に関する検討会(第1回)
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/data/dai1/gijisidai.html
●経産省|デジタル産業の創出に向けた研究会の報告書『DXレポート2.1(DXレポート2追補版)』を取りまとめました
https://www.meti.go.jp/press/2021/08/20210831005/20210831005.html
4. 中銀デジタル通貨
●NTTデータの英子会社が、英中銀BoEなどと協働で、CBDCむけハードウェアウォレット利用を検討する「Project Fire」を発表
https://www.ledgerinsights.com/uk-to-research-hardware-wallets-for-tokenized-cbdc/
●デジタルユーロプロジェクト始動-予備実験の知見と今後 | ニッセイ基礎研究所
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=68632?&site=nli
●ドイツのシンクタンクInternetEconomy.Fなどによるデジタルユーロのレポート。
ChainlinkのCross-Chain Interoperability Protocol (CCIP) についても記載
https://www.ie.foundation/content/4-publications/studie-establishing-a-digital-euro.pdf
5. デジタル金融
●韓国、銀行によるDIDソリューション「MyInfo」が8/27にゴーライブ。韓国金融決済院(KFTC)などによるJVによるものでW3C準拠とのこと。銀行サービスへのログインや、他銀行との情報共有などが可能に
6. デジタル証券
●日本におけるSTOの市場ポテンシャル考察 | 金融ITフォーカス | 野村総合研究所(NRI)
https://www.nri.com/jp/knowledge/publication/fis/kinyu_itf/lst/2021/09/06
●BlackRock、Axoniによるエクイティスワップネットワークに参加
https://www.ledgerinsights.com/blackrock-joins-axoni-blockchain-equity-swaps-network/
7. 今週のLayerX
●先週8/27に発表されたISMS認証の基準準拠を含む、「LayerXは信頼できる」ブランドを確立していくための当社のITガバナンス活動について紹介しています!
https://tech.layerx.co.jp/entry/our-it-governance
●LayerXらしい「複数事業の」「社内基盤を整え」「 メンバーの生産性をより上げていく」エンジニアをお待ちしています!
https://herp.careers/v1/layerx/yr-q1HGTPR9x
●導入企業様から評価いただいている請求書データ化のスピードと請求書処理工数の削減の2点をお伝えできるように、クイズ形式で広告を制作しました!
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000080.000036528.html
●#23 【番外編:LayerXインボイスNOW!】作りたいものは「実現したい理想の業務フロー」 - LayerX NOW! | Podcast on Spotify
●導入企業様から評価いただいている請求書データ化のスピードと請求書処理工数の削減の2点をお伝えできるように、クイズ形式で広告を制作しました!
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000080.000036528.html
●#24 LayerX創業期秘話〜バイカル湖遊泳と六本木でオフィスを停電させる話〜【ゲスト:MDM事業部 丸野さん】 - LayerX NOW! | Podcast on Spotify
●#25 リアルビジネス×テクノロジーのド本命。MDMが営むフロンティアな金融事業について【ゲスト:MDM事業部 丸野さん】 - LayerX NOW! | Podcast on Spotify
●つくば市の並木中等教育学校におけるインターネット投票の取り組みについて、筑波大学都市計測実験室(大澤研究室)より、オフィシャル動画として公開いただきました。「出前授業(6/23)の模様」「生徒会選挙当日の様子(7/7)」などの様子をご覧いただけます
https://infoshako.sk.tsukuba.ac.jp/~tj330/Labo/koshizuka/project.html#namiki
●「LayerX インボイス」の導入により、経理DXを推進し、受取請求書の処理時間を50%削減したことをお知らせします。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000081.000036528.html
●「LayerX インボイス」を活用されているファインディ株式会社 小林様に登壇いただき、導入による効果や特に役立っている機能、サポート体制などについて両者の取組みの実際の事例を詳しくお話いただきます。
https://www.layerx.jp/invoice/seminar/210928-stories-findy
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