Appleの落とし物トラッカー「AirTag」/ウーブン・プラネットによる配車サービスLyftの自動運転部門買収
LayerX Labs Newsletter for Biz (2021/04/21-04/27) Issue #105
今週の注目トピック
Takahiro Hatajima(@th_sat)より
Appleから発表された落とし物トラッカー「AirTag」におけるプライバシー保護への配慮について紹介します。
あわせて、ウーブン・プラネットによる配車サービスLyftの自動運転部門買収について紹介しています。
Section1: PickUp
●Appleから発表された落とし物トラッカー「AirTag」におけるプライバシー保護への配慮
Appleから、落とし物トラッカー「AirTag」が発表された。AirTagは、近くにある「探す」ネットワーク上のデバイスが検知できるように、安全なBluetooth信号を送信するものだ。すると、信号を受け取ったデバイスから、AirTagの位置情報がiCloudに送信される。これによって、ユーザーは「探す」アプリを開いてマップ上で確認できるというわけだ。
Appleによれば、AirTagの特徴は、プライバシーへのケアにある。上記の探索プロセスは完全に匿名で行われ、情報は暗号化されるため、プライバシーは守られるという。具体的には、まず、AirTagの場所は、ユーザー本人しか見ることができない。また、位置情報や履歴がAirTagの中に保存されることもない。加えて、AirTagの場所を中継するデバイスは匿名に保たれ、送られる位置情報は最初から最後まで暗号化される。そのため、ユーザー本人のAirTagがどこにあるか、AirTagを探すお手伝いをしたデバイスが誰のものかについて、Appleさえも知ることはできない。
AirTagはiOS標準で追跡できるのだが、「AirTagの情報をiCloudサーバに中継する際、端末が特定できないよう端末固有のIDを類推できないトークンとして用いるうえ、頻繁にトークンを更新することで中継端末の秘匿性が高められている」とのことからも、秘匿性へのこだわりが窺える。
さらには、「見知らぬAirTagが自分の持ち物に入れられていた場合などに備えて、電池の蓋を開けて追跡を無効にするための手順」も紹介されている。
興味深いのは、特定の人物の移動経路を追跡するために使われる可能性を排除するため「ペアリングされていないAirTagが長時間、近傍にあり続けることを検出すると端末上で警告を発する」ようになっている点だ。これはAirTagは「人を探す」という用途には対応していないともいえる。たとえば、子どものランドセルにAirTagをつけておき、iPhoneの「探す」アプリから子どもの居場所を探そうとすると、「子どもがiPhoneを持っていない場合、親から離れて一定の時間が経ったAirTagは、鳴り続けてしまう」ため、子どもの追跡には向いていない。
このように、AirTagにおけるプライバシー配慮の特徴は、「エンドツーエンドで暗号化され、その情報を運営者であるAppleすら見ることができない」という点にあると言えるだろう。こうした秘匿性は、エンドユーザーむけサービスや商品において、重要度がましていくと思われることから、今後の企業のサービス・商品開発の動向に注目したい。(文責・畑島)
●トヨタのウーブン・プラネットが配車サービスLyftの自動運転部門を約600億円で買収
トヨタ自動車の子会社でソフトウェアを中心に様々なモビリティの開発を担うウーブン・プラネット・ホールディングス株式会社は世界有数の米国配車サービス会社Lyft, Inc.の自動運転部門であるLevel 5を約5.5億米ドルで買収することを発表した。
今回の買収の目的は以下の3つとされている。
人材:世界トップクラスのエンジニア、研究者、モビリティ・サービスに関する深い専門知識を持つエキスパートから成るグローバルなチームの形成
テクノロジー:センシング、コンピューティング、ソフトウェア資産に加え、自動運転システム開発に必要な戦略的能力の強化
グローバル展開:現在ウーブン・プラネット本社が位置する東京に加え、パロ・アルト(米国サンフランシスコ)、ロンドン(英国)へ開発拠点を拡大
ウーブン・プラネットはLevel 5の買収によって、世界トップクラスの研究者とソフトウェアエンジニアなど約300人の従業員を引き継ぐことになる。
これにより「ウーブン・プラネット」「Toyota Research Institute(TRI)」「Level 5」のトップエンジニアで構成される約1,200人の強力な開発チームが出来上がることになる。
本件はウーブン・プラネットが発足して初めて手掛ける買収だが、親会社であるトヨタ自動車は2018年8月、Uberに5億ドルを出資し、ライドシェア向け自動運転車の共同開発を開始、翌年4月にはデンソー、ソフトバンク・ビジョン・ファンドとUberの研究開発部門Advanced Technologies Group(Uber-ATG)が基となる新会社に合計10億ドルを出資すると発表している。
さらに2021年の初め、Woven Capitalは8億ドルの戦略的ファンドを開設し、自動配送車両のメーカーNuroへの投資を発表している。
今回の発表はこのような自動運転車技術の商品化にかかる大量の費用と時間に対処しようとする投資・買収、統合の動きの中の一環である。
出所:Toyota buys Lyft self-driving car division for $550 million
Lyftにとっては、2021年第3四半期に締結完了を予定しているこの契約が、4年近くにおよんだ独自の自動運転車開発の公式な終了を意味する。
Level 5を売却することで、Lyftは年間の膨大な運営費のうち純額1億ドル(約108億円)の削減による黒字化を期待している。
収益性を追求するLyftにとって、この節約は極めて大きく、共同創設者で社長のJohn Zimmer氏は今回の発表で、この点を特に強調している。
「契約が予定期間内に完了し、新型コロナからの回復が順調に続けば、2021年の第3四半期の調整EBITDA(償却前営業利益)では収益性が向上すると確信しています」
今回の提携により、ライドシェアスタートアップ大手のUberやLyftが独自開発からは撤退し、両者が大手自動車メーカーとの提携による自動運転の推進に舵を切ったことになる。
UberやLyftにとって主軸である配車事業がコロナウイルス拡大により業績が悪化しており、研究開発費の縮小が求められていることに加え、世界的に自動車メーカー各社や大手IT企業による自動運転への取組が本格化される中で、ライドシェアスタートアップ各社が独自で研究開発を進める必要性がなくなってきたことも背景として推察される。
例えば2021年2月にトヨタ自動車が戦略的パートナーシップ提携を発表した自動運転スタートアップのオーロラは、自動運転の中核をなすソフトウェアやLiDARなどのハードウェアをキット化し、一般乗用車や大型乗用車、大型トラックまで幅広い車種に搭載可能な自動運転システムを開発することで、世界のメーカー各社とパートナーシップを結ぶ戦略をとっている。
オーロラ:米テスラと米グーグルの元社員などによって2017年に設立された米自動運転スタートアップ企業、2019年にはアマゾンなどから600億円を調達し、2020年12月にウーバーの自動運転開発部門を買収。
今後自動運転市場においては、これまでスタートアップやIT大手を中心として推進されてきた自動運転への取り組みから、大手グローバル自動車メーカーやIT大手を中心として、スタートアップ各社によるソフトウェア展開や自動運転を活用したサービス展開との提携等が進んでいくと推察される。引き続き動向に注目したい。(文責・野畑)
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LayerXではエンタープライズ向けブロックチェーン基盤を基本設計、プライバシーの観点から比較したレポートを執筆し、公開しています。
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Section2: ListUp
1. プライバシー・セキュリティ
●個人情報保護委員会|LINE株式会社への個人情報の保護に関する法律に基づく行政上の対応
●LINE問題はなぜ「違法」ではないのか?個人情報保護委の行政指導があぶり出した課題 | 日経クロステック(xTECH)
●LINE株式会社|当社に対する個人情報保護委員会からの指導および当社の改善策について | ニュース
●ヘルスケア・メディカル事業の強化に向け株式会社メドレーと資本・業務提携に合意 | お知らせ | NTTドコモ
●複数業界・企業によるバイタルデータ活用の有用性検証の開始 | NTTデータ
●中国、自動運転技術のデータ収集 システムを構築: 日本経済新聞
●企業の枠をこえて、荷物や位置に関するデータ共有できる基盤を構築し、物流効率化をはかる取り組み
●日経IDプライバシーポリシー改定と日経IDプライバシーセンター開設のお知らせ
●Society 5.0 時代の 安心・安全・信頼を支える 基盤ソフトウエア技術
2. デジタルガバメント・スマートシティ
●「世界のデジタル行政のユーザー体験を調べてわかった今、行政にデザインが必要な理由」水曜勉強会(東京都宮坂副知事主催)レポート|Goodpatch Blog グッドパッチブログ
●「センシングデータのためのメタデータ策定の基準化に向けた提案」公開| 一般社団法人データ社会推進協議会(DSA)
3. デジタル化へむけた政策議論
●総務省|報道資料|「民間PHR事業者による健診等情報の取扱いに関する基本的指針」及び「民間利活用作業班報告書」の公表
●総務省|報道資料|「スマートシティセキュリティガイドライン(第2.0版)」(案)に対する意見募集
●経産省|オープンソースソフトウェアの利活用及びそのセキュリティ確保に向けた管理手法に関する事例集を取りまとめました
●「サイバーセキュリティ体制構築・人材確保の手引き」(第1.1版)を取りまとめました (METI/経済産業省)
●総務省|報道資料|令和2年度「地域における決済情報等の利活用に係る調査」成果の公表
●総務省|放送分野の視聴データの活用とプライバシー保護の在り方に関する検討会(第1回)
●総務省|組織が発行するデータの信頼性を確保する制度に関する検討会|組織が発行するデータの信頼性を確保する制度に関する検討会(第13回)
4. 中銀デジタル通貨
●シンガポールMBSによる、複数の中央銀行発行デジタル通貨(mCBDC)利用にむけた論考
●韓国Klaytn、CBDCトライアル向けにConsenSysと協業で開発
●Ant Group、2017年から中国人民銀行とデジタル人民元開発で協業してきたことを明らかに
●国立国会図書館 調査及び立法考査局 | 中央銀行デジタル通貨の課題
●中国のeコマース大手JD.comが一部従業員にデジタル人民元での給与支払いを開始
●NRI、「通貨と銀行の将来を考える研究会」の中間報告を公表 | 日経クロステック
●大丸有エリアでポイントアプリを用いたSDGsアクション促進の実証に参画地域課題解決型デジタル地域通貨サービス「Region Ring™」を提供 | 三菱総合研究所(MRI)
5. デジタル金融
●実装者による Financial-grade API (FAPI) 解説 - Qiita
●デジタルバンクのみんなの銀行、コンタクトセンターをフルクラウド型で構築へ - DIGITAL X(デジタルクロス)
●みんなの銀行“「やってみないとわからない」ことへのチャレンジ自体が、既存の銀行の常識から考えるとありえないことなんです。”
●FFG証券、福岡・大分の5拠点再編 オンライン営業活用で: 日本経済新聞
6. デジタル証券
●英国中銀BoE、新たな中銀口座として「オムニバスアカウント」を発表。
・15金融機関により設立されたFnality(旧称Utility Settlement Coin (USC))が、ホールセール決済手段としてゴーライブとなるもの。
・分散台帳技術もちいてRTGS決済の新たな手段を提供するもの。
・中銀口座ベースのトークン化マネーを用いて、Fnalityブロックチェーン上でセトルメント可能にする。
●ドイツ当局BaFin、TeslaやCoinbase等の株価に連動するBinanceのStock Tokensについて、証券に該当するとの見方しめす
●ドイツ取引所とCommerzbank、デジタルアセット向けJVを設立。当初はアートや不動産のトークン化にとりくむ予定
7. ブロックチェーンユースケース事例
●7銀行の参加するトレードファイナンスネットワークUAE Trade Connectがローンチ
●ラグジュアリーブランドの真正性を認証するLVMHのAuraコンソーシアムにPrada・Cartierが新たに参画
●EYが特許取得、ブロックチェーンを適用しサプライチェーンマネジメントを高度化
8. 今週のLayerX
●請求書AIクラウド「LayerX インボイス」が、freee利用者向け機能を大幅アップデートしました。
①取引・振替伝票に最適化された入力画面の利用、②取引・仕訳データのAPIを介した「会計freee」への連携、③取引先・口座情報・品目や部門、メモタグ等の各種マスタデータの双方向の同期が可能になります!
●ポッドキャスト「LayerX NOW!」 第5回は 「SaaSは組織が全てだからこそ、LayerXで作っていきたい組織【ゲスト:人事・広報担当 石黒さん】」
●本日のLayerXエンジニアブログでは、あさどれ不動産リリース時に、バックエンドのAPIのフレームワークをgoa(v3)からgo-swaggerへの切り替えを行った経緯についてお話ししています!
●本日のLayerX エンジニアブログでは、LayerX LabsのRust開発のひとこまを紹介しています!
●経理業務はクラウドで!マネーフォワードクラウド会計とLayerX インボイスで始める経理DX|LayerXオンラインセミナー | 株式会社LayerX
●本日のLayerX エンジニアブログでは、Googleスプレッドシートを活用したアセットマネジメントの情報開示業務の効率化について紹介しています!
●連休明けはSaaSをテーマにAlp/アルプさんとイベントやります!DX Tech Talk #3 ユーザーの事業を加速させるSaaS
●先日開催されたAWSさんのオンラインイベントに登壇した、LayerX高江の動画が上がっております。Twitter等でも話題になっていたようです。ぜひご覧ください
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