JR東日本によるSuica 統計情報の定型レポート「駅カルテ」/ NECによる顧客データ活用、東大による睡眠データ解析
LayerX Labs Newsletter (2022/03/09-03/15) #146
今週の注目トピック
Takahiro Hatajima(@th_sat)より
JR東日本による、Suica 統計情報の定型レポート「駅カルテ」の販売開始について紹介します。
データ利活用最前線では、NECによる顧客データの補完と拡張をAIで支援や、東大による成人10万人分の睡眠データ解析などを紹介します。
Section1: PickUp
●JR東日本、Suica 統計情報の定型レポート「駅カルテ」の販売開始
JR東日本が、Suica 統計情報の定型レポート「駅カルテ」の販売を開始する旨を発表した。「駅カルテ」は、Suica を利用する乗客が、駅の改札を入出場する際に記録するデータ(入出場駅、入出場時間等)を用いた定型レポートとなっている。対象駅は首都圏エリアを中心とした約600駅で、販売方法には「利用期間や絞った範囲でレポートを利用するタイプ」と「設定期間内で多くのレポートを利用できるタイプ」を用意するという。
乗客個人が識別されないよう統計処理した上で作成した図や表を、駅別に月次のレポートにして提供する。たとえば、「利用規模・伸び率」「日あたり滞在者の利用傾向(訪問者・居住者別)」「訪問者・居住者の発着駅」「日別推移」などが予定されている(出所)。
Suicaを利用するお客さまが、駅の改札を入出場する際に記録されるデータ(Suicaデータ)を用いて、お客さま個人が識別されないよう統計処理することで作成している。具体的には、乗車駅、降車駅、日時、性別、生年月日のデータであり、性別、生年月日はSuica購入時の登録情報となっている。
Suicaのデータとしては、購入時に氏名・電話番号が記録され、改札入出場時に金額が記録されるほか、電子マネー利用時に利用箇所・日時・金額等が記録されるが(出所)、これらに関する言及は見られない。
「駅カルテ」は、乗客のプライバシーへの配慮として、①非特定化処理、②集計処理、③秘匿処理、という3つの処理を施したデータを用いて、表やグラフなどを生成することで作成される(出所)。
①「非特定化処理」としては、乗客の氏名など特定の個人を識別する情報の削除や、年齢や駅利用時間のまるめ処理といった加工を行う。
②「集計処理」としては、駅利用者数といった集計処理を行う。
利用時間は 1 時間単位、また年齢は 10 歳単位で集計処理を実施。
主に 1 か月間を通じた 1 日あたりの平均(平日・休日別)で表示。
集計値は 50 人単位とし、30 人未満は非表示。
③「秘匿処理」としては、1日あたりの平均利用者数が100人未満の駅のデータを削除する。
振り返ると、このSuicaをめぐっては、2013年に、JR東日本が仮名化したSuicaの移動履歴を販売したことが問題視され、Suica乗降履歴データの販売を当面見合わせると発表したことがあった。これは、Suica利用者の生年月・性別・乗降履歴を、容易照合性ある形で分析データとして第三者提供したものであった。「個人が特定できないよう加工した上で」提供したことを前提としていたものだが、以下の点より、個人データの違法な第三者提供であることは免れないとされている。(以下、出所:令和2年改正個人情報保護法の実務対応(新日本法規 刊)
まず、「Suica利用データ」と「Suica分析用データ」は明らかに容易照合性がある。「Suica分析用データ」と「7月提供のSuica分析用データ」も、容易照合性がある(「生年月、性別」「乗降駅名、利用日時」「鉄道利用額」による照合が可能)。
また、乗降履歴自体を以って個人データといえる。
上記を踏まえ、個人情報保護委員会は、匿名加工の例として、乗降履歴・移動履歴を挙げるに至り、これに従って、匿名加工情報として加工する場合、以下のように、相当の加工が想定されるとしている。
「利用日時は30分単位とする」「改札口は全部削除」
「利用者の少ない時間帯の情報を削除又は他の駅名に置き換え(セル削除/ノイズ付加)」など
こうした2013年の経緯を踏まえ、改めて商品化されることになったSuica 統計情報の定型レポート「駅カルテ」について、今後の動向を注視したい。(文責・畑島)
●データ利活用最前線:最近のデータ利活用に関係するニュースの紹介
NEC、顧客データの補完と拡張をAIで支援--テレビの視聴率予測に向けて実証
NECは、顧客が保有するデータをAIで分析し、関連性が高い社内外の情報と組み合わせてデータを補完・拡張するサービス「NEC Data Enrichment」において、新たにSaaS型サービスの提供を開始した。
今後、データ分析が積極的に活用されている発注業務や商品開発業務などを中心に幅広い顧客に同サービスを提案し、今後3年間の累計売上5億円を目指すという。
同サービスにより補完・拡張されたデータを用いることで、顧客はより多面的なデータ分析が可能となり、保有データだけでは得られない新たな知見を導出したり、分析精度を向上したりできる。
同サービスの活用により、専門家が人手で行う場合と同等品質のデータ補完/拡張作業を約10分の1の時間で完了することが可能だという。
SaaS版サービスの提供に先行して、ADKマーケティング・ソリューションズとテレビスポット個人視聴率予測システム「Spot-Navi」での予測高度化に向けた実証を1月から実施しており、番組内容、出演者などのテキストデータに含まれる特性をData Enrichment Portalによって補完・拡張することで、消費者の関心や価値観を反映した高精度な視聴率予測の実現を目指す。
成人10万人分のデータを機械学習アルゴリズムで睡眠解析し睡眠パターンを16に分類、新たな不眠症診断法に期待
東京大学は3月15日、腕の加速度から覚醒と睡眠を判別する機械学習アルゴリズム「ACCEL」を開発し、約10万人の加速度のデータを解析したところ、睡眠が16種類のパターンに分類されることがわかったと発表した。
その中には睡眠障害との関連が疑われるものも存在し、腕時計型ウェアラブルデバイスと組み合わせることで、睡眠障害の新たな診断方法や治療法の開発につながるものと期待されている。
東京大学大学院医学系研究科機能生物学専攻システムズ薬理学分野の上田泰己教授、香取真知子氏、史蕭逸助教らによる研究グループは、腕の加速度から睡眠と覚醒の状態を判定するアルゴリズム「ACCEL」を開発し、英国の遺伝情報や健康情報を含む研究用データベース「UK Biobank」にある、30〜60代の成人10万人分の加速度データから睡眠データを生成、「ACCEL」で解析した。
今後は、睡眠障害と診断されている人のデータを用いて、各クラスターと睡眠障害の関係性をより正確に解明することで、定量的な指標に基づく新たな診断方法の開発が期待できるという。また、睡眠障害をより詳細な分類による適切な治療法の確立も期待される。
「スーパーシティ」指定の大阪府、市町村や企業とのデータ連携基盤にハードル
政府の国家戦略特区諮問会議は2022年3月10日、「スーパーシティ」として大阪府・大阪市とつくば市の指定を決定した。
大阪府はスーパーシティ構想の一環として、大阪広域データ連携基盤「ORDEN」の構築を2022年春に始める。
「ORDEN」整備のため、大阪府は2022年度予算に3億3900万円を計上し、まずは府下の市町村などの情報を集約するポータルサイトを開設する。
ドコモGPS統計データを活用するデータワイズ、GPS分析で高さ判別が可能に。GPS人流商圏分析ツール 「 Datawise Area Marketer 」が階層判別機能を実装
ドコモGPS統計データを活用し、エリアマーケティング・商圏分析サービスを行う株式会社データワイズは、人流分析ツール『Datawise Area Marketer』 に、階層判別機能を4月提供予定のアップデートで追加する。
これにより階層別の人流を見分けることが可能になり、ビルに入居している事業者様など、より幅広い事業者様でGPS分析を活用できるようになる。
Datawise Area MarketerはドコモGPS統計データおよび属性情報を活用した人流分析ツールで、飲食店や小売店が店舗・施設の来訪者数の時間別人数や属性を統計的に把握し、販促や営業時間の最適化を行ったり、新規出店候補地の選択に役立てることが可能。
ドコモがアプリユーザー同意のもと取得し、個人を特定できない形式に加工、統計化したデータを指し、属性毎(性別・年齢層等)の統計データを利用している。
また、自治体や不動産ディベロッパーがエリアの人流特性を把握し、居住者・勤務者の属性に合わせた住みやすい・働きやすい街づくりにご活用いただく事例も増えているという。
ドラレコ画像と人工衛星データを活用、浸水車両の保険金支払いを迅速に
あいおいニッセイ同和損害保険は3月8日、テレマティクスデバイスから取得する車両の位置情報と、人工衛星を利用して算出した浸水深データを掛け合わせ、広域災害における浸水車両の保険金を早期に支払う実証実験を開始。
スイス再保険が独自開発したジオ・リスクプラットフォームに人工衛星による高解像度浸水フットプリントを搭載し、被災地域の浸水深を算出する。
これによって得られた浸水深データとドライブレコーダーなど、通信車載器から取得した車両の最終停車位置情報を掛け合わせることで、車両の浸水深を把握する。
従来、水害で車両損害が発生した際に立ち会い調査を行って保険金を支払うまでに、平均約2~3週間程度を要していたが、これにより立ち会い調査を実施せずに全損を判断でき、事故の連絡から最短翌日には保険金支払い手続きを実施することが可能となる。
上場企業の個人情報漏えい・紛失事故は、調査開始以来最多の137件 574万人分
2021年に上場企業とその子会社で個人情報の漏えい・紛失事故を公表したのは120社、事故件数は137件、漏えいした個人情報は574万9,773人分に達した。2012年以降の10年間で、社数と事故件数はそろって最多を記録した。
2012年から2021年までの累計では496社、事故件数は925件となった。個人情報の漏えい・紛失事故を起こした上場企業は、全上場企業(約3,800社)の1割以上を占め、漏えい・紛失した可能性のある個人情報は累計1億1979万人分に達し、ほぼ日本の人口に匹敵する。
2021年はクレジットカード情報など重要な個人情報の流出や、複数の企業が外部委託していた受注システムが不正アクセスを受け、被害が広がったケースもあった。増加の一途をたどるサイバー犯罪は手口も複雑化しており、セキュリティ対策の難しさを改めて露呈した。
PKSHA Technology、全国の地銀のFAQデータを集約・共通化するプラットフォームを提供
PKSHA Technologyは、地方銀行の業務DXをサポートする取り組みの一環として、社内外の問い合わせ業務ナレッジ(FAQのフレームワークおよびデータ)を地方銀行間で相互に共有する「地銀FAQプラットフォーム」を5月より提供開始する。
同社は、全国の地銀の協力を得てFAQデータを収集し、自然言語処理(NLP)アルゴリズムによる解析を行い、共通化・汎用化したものをAI SaaSを通じて提供する。
これにより各地銀は、これまで実現しなかった社内問い合わせも含めた、他社のナレッジを入手して比較することが可能になるほか、デジタルチャネルを通じた顧客の理解と豊かな対応が実現できるとしている。
あらゆるOOH広告のインプレッションを計測する技術を開発 ~OOH広告のNew Standard (定量的な指標)~
株式会社 LIVE BOARDは、グループ会社であるNTTドコモと共に、車内ビジョンにおけるインプレッション(視認者数)の計測技術を開発した。
精度高く判定された電車利用者の位置情報とカメラによる媒体注視率データなどを活用した技術で、定量的な効果の把握が難しかったOOH広告の定量的な指標の一つとなる。
交通・観光・政策……ビッグデータ活用から見える自治体DX最前線
国土交通省では、携帯電話の位置情報データを活用した実証実験事業を進めており、2021年12月に実証実験の採択事業者が決定し、2022年3月には成果報告会で成果の報告・公表が予定されている。
交通・観光・政策……ビッグデータ活用から見える自治体DX最前線では、実証実験に参加している自治体から、滋賀県日野町、香川県高松市、愛知県岡崎市の3自治体へのインタビューを実施。自治体が抱える課題やビッグデータ分析に対する期待が見えてきた。
日野町では、株式会社Agoopの流動人口データを利用して人の流れを把握。
人口に対して移動する人数が多く、通勤に伴って朝晩渋滞が発生しているという従来からの課題の解決を目指した。
高松市は、人口の減少によって医療や福祉の負担が増加し、若者の世代に大きくのしかかってくるという課題を抱えている。
さらに市街地が郊外に薄く拡散し、インフラを維持していくことが困難になってくるということが明らかであり、現時点よりも合理的な行政運営がこれから強く求められている。
これまで全国幹線旅客純流動調査のデータを軸に、県下全域で実施した個別顧客調査をパーソントリップデータとして補完的に使ってきたものの、個別顧客調査は平成24年のもので、データの鮮度が低かった。
この調査にはコストがかかるため、頻繁には実施できない上に、簡易的なアンケート調査ではデータの精度や信憑性も劣るため、施策展開における低価格でかつ信頼性の高いエビデンスが求められた。
高松市は携帯基地局のデータを利用することで、パーソントリップデータの調査に比べて圧倒的に安価に、新鮮なデータを得ることができた。
岡崎市は地方都市の共通する課題として、街に人が集まりにぎわってほしい一方、人が来すぎてしまって渋滞が発生することは避けたいという相反する思いがあり、適切なバランスを取ることが課題となっていた。
新型コロナの感染拡大への対策が求められる中で、混雑回避とイベント開催を両立するために、リアルタイムで現地に混雑情報を届ける方法や、主催者側で密度を下げる方策などを研究してきた。
今回の実証実験では、回遊効果の促進と渋滞回避を成り立たせるレベルについて、方向性を検討するという。
大河ドラマ館と過去に同様の施設を設置したことがある岐阜市や浜松市のデータを購入し、さらに両市の担当者にインタビューを実施する予定。
他のイベントとの重複や天気、駐車場の誘導施策などとデータとの関係性を探って深堀をしたうえで、来年度以降の具体的な施策を立てる。
高松市は今回の国交省の実証実験以外にも、内閣府が公募を行ったスーパーシティ構想の提案を行っており、スーパーシティの提案以前にもスマートシティの推進に向け、プラットフォームを勧められて導入したものの、活かせなかったという苦い経験があった。
ツールの導入という手段が目的化してしまい、本来解決すべき目的を見失うということが行政機関においては往々にして起こりがちで、チーム立ち上げの際に「ツール選択から入るのはやめよう」という考えが基本となった。
ビッグデータの活用に関しても、解決すべき課題が何なのか、そのために必要なものとしてビッグデータをどう使うかという手順でやっていかないと、よくある「手段が目的化する」パターンにはまってしまう。
分野横断的に施策を展開するうえでは、さまざまな行動に紐づく「移動」の最適化をするという取り組みが求められており、そのときにどうデータを使うのかという考え方を大事にする必要がある。
LayerX Labsでは、次世代プライバシー保護・セキュリティ技術Anonifyの正式提供に向けトライアルパートナーの募集を開始、合わせて公式ウェブサイトを公開しました。
「Anonify」の公式ウェブサイトはこちら
Section2: ListUp
1. プライバシー・セキュリティとデータ利活用
●経産省|「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」を一部改正しました
https://www.meti.go.jp/press/2021/03/20220310006/20220310006.html
●鉄道、乗客ごとの販促検討 個人データ蓄積・分析へ JR西、アプリで購買履歴収集 近鉄GHD、グループ内ID統一
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO59102640V10C22A3LKA000/
●総務省|プラットフォームサービスに係る利用者情報の取扱いに関するワーキンググループ(第10回)
資料2:利用者情報の取扱いに関する諸外国の法令・自主規制・事例
https://www.soumu.go.jp/main_content/000799060.pdf
●プライバシー保護連合学習技術「DeepProtect」を技術移転 ~複数組織の機密性の高いデータ解析が必要なビジネス分野への活用に期待~
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000018.000035020.html
2. 今週のLayerX
●LayerX新卒内定エンジニアトーク「CTOをクビにする」二人が目指す10年後とは [23,24卒就活生向け]|タカギ|note
https://note.com/alchem6021023/n/n1caed0688b23
●営業日本一プレゼンに向き合うことで気づいたインサイドセールスとLayerX行動指針のフィット感 #JSC2022 #LXアドカレは概念
https://note.com/noritomo_n23/n/nf85aab55f4db
●組織の中にある「困りごと」を見つけ、手を上げることがチームを加速させる|miyachan|note
https://note.com/miyachan_x/n/ncff297994d66
●【3/24(木)無料開催】男性育休って本当に必要? 〜現役パパママが考える「#安心して子育てできる社会」「#仕事と育児の共存」とは〜 | Peatix
https://babycareplus20220324.peatix.com/
●絡み合うSaaSプロダクトのマイクロサービスアーキテクチャ | LayerX #SaaStech
https://speakerdeck.com/mosa_siru/luo-mihe-usaashurotakutofalsemaikurosahisuakitekutiya-layerx
●三井物産デジタル・アセットマネジメントへの出向者の視点から、どのような働き方をしているのか、どんな会社なのか解説しています!
LayerXからジョイントベンチャー(MDM)に出向したメンバーの働き方
https://note.com/zabeth129/n/n6a636915edaa
●LayerXの行動指針をアップデートしました。そのプロセスについてまとまっています
https://note.com/t_1496/n/n4d86f8f78bdc
●目指すはスマホで容易に投資できる個人向けデジタル証券市場 | きんざいOnline
三井物産デジタル・アセットマネジメント 上野社長の記事を、「金融財政事情」に掲載頂きました!
https://kinzai-online.jp/node/8715
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