今週の注目トピック
Takahiro Hatajima(@th_sat)より
JCBとみずほ銀行・富士通が発表したデジタルアイデンティティーの相互運用に関する共同実証実験に加え、取引データアクセスコントロールを個人・法人自身が行うデジタル市場の実現へむけて開催された「Trusted Web推進協議会」について紹介します。あわせて、SBIグループによる国内初STO発表について紹介しています。
Link編とあわせてご覧ください。
Section1: PickUp
●JCB・みずほ銀行・富士通、業種・業界を超えたID情報の連携へデジタルアイデンティティーの相互運用に関する共同実証実験を開始
JCBとみずほ銀行・富士通の三社は、デジタルで管理された個人の属性情報(デジタルアイデンティティー/ID情報)を安全・安心にオンライン取引などで活用できるデジタル社会の実現に向けて、異業種間でID情報を流通・連携する共同実証実験を開始することを発表した。
JCBとみずほ銀行が保有する参加者の名前、住所、勤務先などのID情報を、セキュアに相互交換・連携する仕組みの検証を行う。具体的には、JCBとみずほ銀行は、自社で保有する参加者のID情報を、電子証明書として参加者に自動発行する(両社が保有する参加者の情報を各社から本人に開示する)。そして参加者(社員約100人)は、JCBとみずほ銀行から取得した電子証明書を、項目ごとに自由に秘匿したり、組み合わせたりして、オンライン上でセキュアかつ信頼性のある自身のID情報を他事業者(JCBもしくはみずほ銀行)に連携する。
出典:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000452.000011361.html
三社は今後、「お客さま主権で各社が持つお客さまのID情報を相互に連携し、認証・更新することのできる、事業者・お客さま双方に利便性の高まるID情報活用の新たなサービスモデルを検討していく」としている。
本取組の特徴は、金融機関などの企業が情報を一元管理して共有・再利用するといった考え方とは反対に、あくまで利用者が保有するID情報を、利用者の意思で業種・業界を超えて提示・利用する点にあるといえるだろう。また、業種・業界を超えた連携の実証にあたり、株主・資本関係といった特定の関係によらない座組みをそろえた点にも着目したい(JCBの主要株主行は、三菱UFJ銀行・三井住友銀行)。
JCBは、デジタルアイデンティティに関するホワイトペーパーを共著発行するなど、自己主権や連携をキーワードにしたアイデンティティー領域への取組を進めている。こうした取組の背景には、モバイル決済やリアルタイム決済などが進む中、提供者と利用者の契約において本人確認などを含めて、「アイデンティティの重要性」が高まっているという問題意識がある。その考えのもと、JCBが保有する決済基盤や認証機能を活用しつつ、企業が保有する顧客データなどさまざまな情報を連携する「ID・認証基盤」を新たに構築するという構想もあるとされる。企業はそれぞれのIDを管理し、分散された状態を維持したまま、基盤を通じて相互連携が行えるようになるというものだ。
「マイナンバーを活用した公共サービスの提供」や「デジタル技術を活用しながら社会課題解決をめざすスマートシティの実現」においても、本取組のような利用者主体のデジタルアイデンティティ管理は有用であり、今後の動向に注目したい。(文責・畑島)
●取引データアクセスコントロールを個人・法人自身が行うデジタル市場の実現へむけ「Trusted Web推進協議会」が開催
内閣官房デジタル市場競争本部に慶応義塾大学の村井純教授を座長として「Trusted Web推進協議会」が設置され、10月15日の第1回開催にあたり、西村経済再生担当大臣より「自らがデータ管理し、それを通じてトラストが担保されるデータガバナンスをインターネット上に構築することが重要だ」と設置意図が説明された。
「Trusted Web」の概念は、今年6月の「デジタル市場競争に係る中期展望レポート」で示されている。サイバーとリアルが融合するSociety5.0においては、メガプラットフォームによって、①勝者総取りの懸念 、 ②個⼈の判断すらコントロールされる懸念がある他、リアルとの融合に伴い、データの出元・履歴などの信頼性の⽋如がリスクとなる。そこで、“⼀握りの巨⼤企業への依存” でも、“監視社会” でもない 第三の道として、「トラスト」をベースとしたデジタル市場の実現が必要であると提起している。この実現にむけた柱が「データへのアクセスのコントロールを、それが本来帰属すべき個⼈・法⼈等が⾏い、データの活⽤から⽣じる価値をマネージできる仕組み」を構築する「Trusted Web」である。
実現に必要な要素例として、個人・法人自ら発行・管理して自らのデータを管理できる「分散型ID」がある。元来インターネットには、アイデンティティの仕掛けが備わっておらず、サービスごとにアイデンティティシステムを用意する仕組みとなり、ロックインされがちだ。そのため、トラストの中核として「デジタルアイデンティティ」の確立が課題だ。実現手法としては、W3CでのDecentralized Identifierの検討結果を適用し、「自己主権型のアイデンティティ」を活用することによって、IDとIDの間の関係性を信頼できる第三者なしに表現できるとする。
また、トラストを「取引の確認プロセスを可能な限り縮減すること」と定義すると、その対象として、「取引相手のアイデンティティ認証」に加えて、「取引データそのものの認証・改ざんされていないこと」「取引スキーム(契約・コード等の実効性)が信頼できること」を考慮した「トラストの再構築」が求められる。
Trusted Web の世界では、取引データには、データ内容・権利情報・移転情報等がタグ付けされ、秘匿化された上で分散システムで共有される。加えて、データを必要な範囲で共有する形で管理でき、開示せずとも秘密計算によって計算結果のみを得ることが可能になれば、サプライチェーンなど事業者間によるデータ利用なども容易になる。その過程では、ブロックチェーンにおけるデータの秘匿化や、入力データの信頼性確保などの課題解決が不可欠だ。複数企業・組織を横断したデジタル変革(DX)を体現する未来の実現にむけ、今後のユースケース開発や技術開発の進展に注目したい。
出典:第1回TrustedWeb推進協議会資料 (文責・畑島)
●デジタル革命の本質レポートとSBIグループ国内初STOの発表
2週前のマッキンゼーのパートナーがまとめた日本のデジタル化の課題や進め方が記載されたレポートのなかで、DXを成功に導くためには鍵として次の4つがあげられた。❶経営トップを巻き込んだDXの着火❷事業ドリブンでのインパクトを意識した取り組みの設計❸デジタル組織能力の構築: 持続的な進化に向け、デジタルの組織能力を社内に構築する❹文化の醸成とチェンジマネジメント: DX1年目を絶対に成功させ、 モメンタムを醸成。
これからますますデジタル化が進む中で、今回は商用化という観点での最近の民間の取り組みに着目してみる。
SBIグループは、2020年5月1日の改正金融商品取引法の施行後、国内初となるSTOビジネスを順次開始していくと発表した。現在発表されているのは次の3つである。 1) SBI e-SportsによるSTOを用いた第三者割当増資(2020年10月下旬) 2) 事業会社を発行体とするデジタル社債の公募取扱い 3) その他STO(ファンド型)の公募取扱い。
1) SBI e-SportsによるSTOを用いた第三者割当増資に関しては、増資時に発行されるデジタル株式1000株がSBIホールディングスが引受人となり、ブロックチェーン基盤「ibet」を用いて発行と管理される。そして、トークンの移転と権利の移転・株式名簿の更新が一連のプロセスとして処理され、電子的に管理することが可能となる。
2) 事業会社を発行体とするデジタル社債の公募取扱いに関しては、一般事業会社が発行体となるデジタル社債のSBI証券での公募の取扱いに関するビジネスを検討している。この場合、SBI証券が当該デジタル社債の引受人等となり、SBI証券の顧客を対象に取得勧誘を行う予定である。
3) その他STO(ファンド型)の公募取扱いに関しては、信託法や資産流動化法等に基づく、ファンド形式のSTOの公募の取扱いに関する業務を検討している。
SBIグループは、STOをはじめとするブロックチェーン技術をフィンテックの中核技術と位置付け、事業開発、ファンド出資、実証実験等を通じてビジネス領域の開拓に注力している。またSBIホールディングスの代表取締役北尾吉孝氏が一般社団法人日本STO協会の代表理事として、STOに関するルール作りやビジネス環境の整備を進めている。本プロジェクトはトップが旗を振り、マッキンゼーのレポートにある4つの鍵を満たしている状態でプロジェクトが進んでいると推察する。ブロックチェーンを活用した商用化の大きな一歩として、今後の動向に注目したい。(文責・佐渡)
Section2: ListUp
1. 中銀デジタル通貨
●欧州ECB、デジタルユーロに関するパブリックコンサルテーションを開始。デジタルユーロ発行の便益・課題、考えられるデザインについて
●G20、IMF・世界銀行・BISと共同でCBDC利用にむけた標準セット構築に向けた活動の一環でレポート発行。2022年末までにCBDCデザイン選定や実験を完了へ
●FSB、G20向けにデジタル通貨関連のレポート2本発行。グローバルStablecoinとクロスボーダーペイメントについて
●OECD、暗号資産むけの税務レポートフレームワークを2021年までに発行を計画
2. 暗号資産/デジタル通貨関連サービス
●(特になし)
3. スマートな社会・産業
●IBM、COVID-19テスト結果など健康状態を検証した上で公共の場所にアクセス可能とするブロックチェーンベースのアプリケーション発表
●Breitling、時計にEthereumベースのデジタルパスポートをゴーライブ
●サイバーエージェント、オンライン服薬指導における情報連携プラットフォームを実現する共同実証プロジェクトを開始
4. デジタル化へむけた政策議論
●経産省/デジタルガバメントに関する諸外国における 先進事例の実態調査
●官邸/デジタル改革関連法案ワーキンググループ(第1回)資料
5. デジタル金融関連
●イタリア銀行協会の銀行間ブロックチェーンネットワークSpunta、参加行が100行に
●Securitize、ブローカーディーラーでATS運営するDistributed Technology Markets社の買収を発表
●SBIグループ、国内初のSTO事業を開始、ブロックチェーンを使った第三者割当増資、デジタル社債など
6. 規制動向
●河野規制改革相 領収書など電子データ化へ法務省に検討求める
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